【要約】
SOC尺度は、項目数が多いほど自動的に妥当性が高くなるわけではありません。長い尺度には構成概念を幅広く捉えやすい利点がありますが、回答負担も大きくなります。短縮尺度では、この両者のバランスが重要です。
SOC-29から3項目を選ぶ方法も心理測定学的には可能ですが、選ばれた項目だけでは把握可能感・処理可能感・有意味感というSOC三要素を十分に表現できない場合があります。実際、SOC-29から作られたBASOCには処理可能感を直接表す項目がありません。
そこで戸ヶ里らは、既存尺度から3問を抜き出すのではなく、Antonovskyによる三要素の定義から各1項目を新たに作り、SOC-3-UTHSを開発しました。SOCは単なる「できる」という自己効力感ではなく、人生をどのように理解し、対処可能と捉え、意味を感じるかという包括的な志向性です。
ーーーー講義録始めーーーー
3項目短縮版開発の方針
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(項目数と測定の質は単純な比例関係ではない)
つまり、項目数がある程度多い尺度には、測りたい概念のさまざまな側面を複数の質問によって捉えやすく、個々の項目に含まれる偶然的な測定誤差の影響を小さくしやすいという利点があります。ただし、「項目数が多いほど、測りたい概念の内容が正しく反映され、専門的には妥当性が自動的に高まる」と考えるのは正確ではありません。validity(妥当性) は単純に質問の数だけで決まるものではなく、その項目が測りたい構成概念をどの程度適切かつ十分に表しているのか、尺度の得点を意図した意味で解釈できるだけの根拠があるのか、といった観点から検討されます。とくに content validity(内容妥当性) では、項目が測定対象の内容を十分に代表していることが重要です。一方、項目数が多くなれば回答時間が長くなり、回答者の負担が増え、多目的な大規模調査などでは使用しにくくなるという欠点もあります。そこで、できる限り回答負担を減らしながら、SOCという構成概念の重要な内容をできるだけ損なわず、十分な reliability(信頼性) と validity(妥当性) を確保できる、より短いSOC尺度を作ることが課題になりました。こうした背景から、戸ヶ里泰典氏、山崎喜比古氏、中山和弘氏、清水準一氏らの研究チームは、3項目でSOCを測定する University of Tokyo Health Sociology version of the Sense of Coherence Scale; SOC-3-UTHS(東京大学健康社会学版3項目SOC尺度) の開発を進めました。
(長い尺度から項目を抜き出すという方法)
3項目版の開発にあたっては、いくつかの方法が考えられます。一つの方法としては、29項目版の SOC-29 や13項目版の SOC-13 の中から、心理測定学的に性能のよい項目を選び、短縮版を作る方法です。実際、海外ではSOC-29の項目から3項目を選択した Brief Assessment of Sense of Coherence; BASOC(首尾一貫感覚簡易評価尺度) も開発されており、したがって、このような方法そのものが不適切というわけではありません。しかし、SOCの場合には一つ重要な問題があります。AntonovskyはSOCを manageability(処理可能感)、meaningfulness(有意味感)、comprehensibility(把握可能感・理解可能感) という三つの構成要素からなる包括的な志向性として定義しました。ところがBASOCでは、有意味感が1項目、把握可能感が2項目で、処理可能感を直接表す項目が含まれていません。そのため、たとえ統計的な性能が一定程度良好であっても、「Antonovskyが定義したSOCの内容を三つの側面から十分に表しているのか」という content validity(内容妥当性) 上の問題が生じます。
(3項目だけを選ぶことと測定誤差)
また、もともと多項目尺度は、複数の質問を組み合わせることによって一つの構成概念をより安定して測定しようとするものです。そのため、長い尺度からごく少数の項目だけを取り出す場合には、元の尺度が捉えていた構成概念の幅広い内容の一部しか表現できなくなる可能性があります。また、項目数が少なくなることで、一つ一つの項目に含まれる偶然的な誤差の影響が相対的に大きくなる場合もあります。古典的テスト理論では、観測された得点 (X) を、理論的には真得点 (T) と測定誤差 (E) の和として、
[
X=T+E
]
と表します。ただし、「長尺度から3項目を抜き出すと、真のSOCではない部分が必ず際立つ」という意味ではありません。適切な項目選択と独立した検証によって有用な短縮尺度を作ることは可能です。重要なのは、短縮した後の尺度について、改めて信頼性、妥当性、そしてSOCという概念の内容を十分に表しているかを検討することです。
(既存SOC-3にも残っていた問題)
さらに、SOCにはすでに海外で3項目尺度が作られていました。LundbergとNyströmによるSOC-3は人口集団調査などで利用されましたが、その後の研究では信頼性・妥当性に問題を示す結果も報告されました。また、その項目内容がAntonovskyによる処理可能感、有意味感、把握可能感の定義を十分に反映していないのではないかという問題も指摘されました。こうした事情を踏まえると、単に既存の長いSOC尺度から3問を抜き出したり、既存のSOC-3をそのまま日本語化したりするだけではなく、Antonovskyが示した三つの構成要素の定義そのものに立ち返って3項目を作る、という別の方法が考えられます。
(SOCの定義から新しい3項目を作る)
そこで戸ヶ里氏らの研究チームは、既存の29項目版や13項目版から単純に3項目を抜き出すのではなく、新たに項目を作成することにしました。具体的には、Antonovskyによる manageability(処理可能感)、meaningfulness(有意味感)、comprehensibility(把握可能感・理解可能感) の概念的定義をそれぞれ平易な文章に置き換え、それぞれを1項目ずつで表現するという方針です。こうして作られた3項目を合わせてSOC全体を簡便に捉えようとしたのが SOC-3-UTHS です。この尺度は、SOC-13から3項目を選んだものではなく、SOCの三つの構成要素の定義から新たに項目を構成したところに大きな特徴があります。開発研究では1000名を対象として検証され、Cronbachのα係数は0.84、SOC-13との相関は (r=0.51) で、一定の収束的・併存的妥当性が示されました。ただし、SOC-13との関連は完全ではなく、短縮によって失われる情報がある可能性にも注意する必要があります。
(印刷教材で確認する3つの項目)
印刷教材をお持ちの方は、コラム3-1をご覧ください。3項目版SOCスケール、すなわちSOC-3-UTHSは、このように三つの項目からなっています。それぞれ manageability(処理可能感)、meaningfulness(有意味感)、comprehensibility(把握可能感・理解可能感) に対応しており、それぞれAntonovskyによる構成要素の定義を、一般の人にも答えやすいよう平易な形にしたものです。現在用いられている日本語表記では、処理可能感については日常の困難や問題に対する解決策を見つけられるか、把握可能感については日常の困難や問題を理解したり予測したりできるか、有意味感については人生の困難や問題の少なくとも一部に向き合い取り組む価値があると思えるか、という内容を尋ねています。つまり、SOC三要素のそれぞれについて、その中心的な意味を一つの質問項目に凝縮しようとした尺度だと言えるでしょう。
(SOCと自己効力感は同じではない)
SOCの定義が意味しているのは、単純に「自分にはこの行動ができる」と判断する能力感だけではなく、自分の生活や人生で起こることをどのように理解し、利用できる資源をどのように捉え、そこにどの程度取り組む価値を感じているのかという、人生に対する包括的な見方・志向性です。その意味でSOCは、特定の行動を成功させられるという確信を中心とする self-efficacy(自己効力感) と同じ概念ではありません。ただし、処理可能感には「利用できる資源によって何とか対処できる」と感じる側面があるため、実際の心理経験では自己効力感と関連することはあり得ます。重要なのは、SOCを単なる「自分はできる」という能力への自信だけに置き換えないことです。
(質問項目の語尾についての注意)
ここで一つ注意しておきたいことがあります。SOC-3-UTHSでは、SOCを客観的な技能テストとして測っているのではなく、自分自身の生活についての見方や感じ方が各文章にどの程度当てはまるのかを自己評価してもらいます。ただし、「把握可能感や処理可能感の項目の語尾には『〜と思う』を付けている」という説明は、現在公表されているSOC3-UTHSの日本語項目とは一致しません。現行の日本語表記では、処理可能感は「解決策を見つけることができる」という内容、把握可能感は「理解したり予測したりできる」という内容で表現され、「〜と思う」という表現が明示的に用いられているのは有意味感の項目です。したがって、SOCと自己効力感を区別する理由を、単に語尾の「〜と思う」に求めるのではなく、尺度全体が客観的能力ではなく、その人の人生に対する認知・志向性を自己報告によって捉えるものである、と理解する方が正確です。
概念整理図
SOC-29/SOC-13から単純抽出
↓
「統計的に良い3項目を選ぶ」という短縮法
↓
BASOCなど
↓
項目性能は高くてもSOC三要素を十分カバーするかという問題
対して、
AntonovskyによるSOC三要素の定義
↓
処理可能感 → 1項目
有意味感 → 1項目
把握可能感 → 1項目
↓
SOC-3-UTHS
