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PTG・ストレス関連成長・ベネフィット・ファインディングは何が違う?――「つらい経験後の成長」と測定尺度を徹底整理 #放送大学講義録(健康への力の探究第4回その7)

【要約】

 

stress-related growth(SRG)、posttraumatic growth(PTG)、benefit finding(BF)は、困難な経験後に本人が知覚する肯定的変化を扱う関連概念ですが、完全な同義語ではありません。SRGは比較的広いストレス経験、PTGは重大な危機との格闘を通じた変容的変化、BFは経験の中に見いだしたbenefitに重点を置きます。ただし研究上の境界は重なります。代表的尺度には50項目のStress-Related Growth Scale、21項目・5因子のPosttraumatic Growth Inventory、Benefit Finding Scaleなどがあります。これらは主として本人が経験後に知覚・報告した変化を測定するもので、客観的なactual growthそのものを直接測定しているわけではありません。

 

ーーーー講義録始めーーーー

 

(人生の価値を以前より意識する変化)
前回まで、posttraumatic growth(PTG:心的外傷後成長)のうち、他者との関係や人生観に関わる変化について見てきました。例えば、大きな出来事を経験した後に、「これからは1日1日を大事に生きよう」と思うようになったという語りは、PTGIでいうAppreciation of Life(人生への感謝・人生の価値の再認識)に比較的近い変化として理解することができます。PTGIには、人生で何が重要なのかを捉え直したり、自分の人生の価値を以前より強く感じたりする変化が含まれているからです。一方、「無理をしなくてもよいと思えるようになった」という語りについては、その人の人生の優先順位や価値観が変化した可能性を示すことはありますが、それだけでPTGの特定の領域が生じたと断定することはできません。大切なのは、言葉だけを機械的に分類するのではなく、その人が経験を通じて何をどのように捉え直したのかを見ることです。

(三つの概念を改めて比較する)
先ほど、stress-related growth(SRG:ストレス関連成長)、posttraumatic growth(PTG:心的外傷後成長)、benefit finding(BF:ベネフィット・ファインディング/困難な経験の中に肯定的な側面や利得を見いだすこと)という三つの関連概念を紹介しました。どれも、困難やストレスを経験した後に本人が報告する肯定的変化を扱うため、研究上かなり重なる部分があります。しかし、名称が異なる以上、まったく同じ意味で使われているわけでもありません。そこで、ここでは三つがどのように共通し、どこに違いがあるのかを整理してみましょう。systematic review(システマティック・レビュー)でも、PTG・stress-related growth・benefit findingなどは同じ研究領域で併記される一方、それぞれの構成概念と尺度には一定の違いがあることが指摘されています。

(PTGは「地震や戦争だけ」の概念ではない)
まず、posttraumatic growthについてです。「地震、戦争などの甚大な出来事の後に期待される成長」とされることもありますが、これは少し範囲を狭く捉えすぎています。PTGは、地震、戦争、重大事故などだけを対象とするわけではありません。生命を脅かす病気、死別、重大な対人関係上の危機など、その人の従来の世界観や人生についての前提を大きく揺さぶる出来事もPTG研究の対象になります。1996年のPTGI開発研究でも、対象者が経験した出来事は一種類ではなく、様々なextraordinary events(非日常的・重大な出来事)が含まれていました。したがって、PTGは「地震や戦争後の成長」ではなく、非常に困難な人生上の危機との格闘を通じて本人が知覚・報告する肯定的心理変化として理解する方が適切です。

(SRGはより広いストレス経験を扱いやすい)
その一方、stress-related growthは、PTGよりも広いstressful experience(ストレスフルな経験)を対象として研究されてきました。Park、Cohen、Murchが1996年に開発したStress-Related Growth Scale(SRGS:ストレス関連成長尺度)では、大学生に過去1年間で最もストレスの強かった出来事を想起してもらい、その経験によってどの程度肯定的変化を感じたかを尋ねています。したがって、必ずしもDSMなどでいうtraumatic event(心的外傷性出来事)に限定されません。

(慢性的なストレスも研究対象になり得る)
この意味で、stress-related growthは、重大な一回性の出来事だけではなく、比較的広い生活上のストレスや継続的な困難についても用いることのできる概念です。介護、慢性疾患、長期にわたる生活上の負担などについて、本人がどのような肯定的変化を知覚したかを扱う研究も、この広い研究領域に含めて考えることができます。ただし、「日々の小さなストレッサーであれば何でもstress-related growthが生じる」とまで一般化するのは避けた方がよいでしょう。SRGS自体も、単なる日常の一瞬一瞬の不快感ではなく、本人が「最もストレスフルだった」と判断した出来事を基準として測定しています。

(SRGの方が広い、と考えることはできるが境界は絶対ではない)
したがって、概念上は、stress-related growthの方がposttraumatic growthよりも広い種類のストレス経験を扱いやすい、と整理することはできます。実際、レビューでもSRGはminor and major crises(比較的小さな危機から重大な危機まで)の後に生じる肯定的変化を扱うのに対し、PTGはmajor stressful life events(重大なストレスフルな人生上の出来事)に重点を置くという整理があります。

(PTGが「拡大解釈された」というより、もともと対象範囲には幅がある)
ただし、「最近になってPTGが拡大解釈され、一般的な出来事まで含むようになった」と説明するのは慎重であるべきです。PTG研究では当初から、出来事そのものが客観的にどのカテゴリーに属するかだけではなく、その出来事が本人の世界観や人生の前提をどれほど揺さぶったかが重視されてきました。また、実際の研究ではPTGIが様々な出来事を経験した集団に用いられているため、PTGとSRGの境界は研究実践上必ずしも明瞭ではありません。このため、「近年になってPTGが広がった」という直線的な歴史説明よりも、「両者には理論上の焦点の違いがある一方、実際の研究では対象となる経験が重なっている」と考える方が正確でしょう。

(benefit findingとは何か)
次に、benefit finding(BF:ベネフィット・ファインディング)です。文字どおり訳せば、困難な経験の中にbenefit(ベネフィット/利得・肯定的側面)をfind(見いだす)ことです。病気や逆境を経験した結果、「家族の大切さに気づいた」「自分の優先順位を考え直した」「以前より他者の苦しみが分かるようになった」など、経験の中に肯定的な側面や意味を見いだしたと本人が報告することを扱います。Benefit Finding Scaleなどの尺度では、このような本人が知覚したbenefitを質問紙によって測定します。

(BFが必ず「短期的」だとは言えない)
「PTGよりbenefit findingの方が短期的に生じる変化が期待できる」と説明されることがあります。しかし、これを三概念を分ける一般的な時間基準として扱うだけの十分に一貫した根拠は確認できません。benefit findingは出来事後の比較的早い時点から測定されることもありますが、数か月後、数年後に測定される研究もあります。一方、PTGについても経験から一定期間を経て初めて生じると一律に決まっているわけではありません。したがって、「BF=短期、PTG=長期」という時間軸による単純な区別は避け、BFは経験から本人が見いだしたbenefitに焦点を当て、PTGは自己・対人関係・人生観などに及ぶよりtransformational(変容的)な変化を理論的に重視する傾向がある、と整理する方が妥当です。レビューでも、benefit findingには小さな肯定的変化から変容的変化まで含まれ得る一方、PTGはよりtransformationalな変化を強調すると整理されています。

(三概念はかなり重なる)
とはいえ、SRG、PTG、BFの間に大きな重なりがあることも事実です。systematic reviewでは、PTG、stress-related growth、benefit findingなどが類似した肯定的変化を扱う用語として並べられています。また、PTG、benefit finding、stress-related growthを測定する尺度には、人生で重要なことへの気づき、自分自身の強さ、人間関係の変化など、よく似た質問項目が含まれています。

(「尺度だけが違う」とするのは行き過ぎである)
しかし、「実質的には測定尺度の微細な違いを表しているだけ」というのは言い過ぎです。尺度の内容が重複していることは確かですが、PTGではtraumaや重大な危機とのstruggle(格闘)から生じるtransformative change(変容的変化)という理論的背景が重視され、benefit findingでは経験の中に本人がbenefitを見いだしているかに重点があります。SRGでは、より広範なストレスフルな経験後のpositive change(肯定的変化)が対象になります。したがって、「ほぼ同じ尺度を違う名前で呼んでいる」のではなく、理論的焦点は異なるが、測定内容には相当な重複がある関連概念と整理するのがよいでしょう。

(研究では包括的に扱われることもある)
一方、研究レビューでは、これらをより包括的に**benefit finding and growth(BFG:ベネフィット・ファインディングと成長)**などとまとめて扱うこともあります。これは三概念が完全に同一だからではなく、用語の使い方が研究者間で必ずしも統一されておらず、扱われている心理的変化に大きな重なりがあるためです。実際、小児医療領域のsystematic reviewでも、benefit finding and growthについて「明確で一貫したnomenclature(命名法)が欠けている」ことが問題として指摘されています。

(三概念を授業ではどう整理するか)
そこで、この授業では次のように理解しておきましょう。stress-related growthは比較的広いストレスフルな経験に関連する肯定的変化、posttraumatic growthは重大な危機との格闘を通じて本人が感じる自己・人間関係・人生観などの変容、benefit findingは逆境や病気などの経験の中から本人が見いだした肯定的な側面や利得に焦点を当てる概念です。ただし、この三つの境界線は一本の線できれいに引けるものではなく、研究上かなりの重なりがあります。

(それでは、どうやって測るのか)
続いて、stress-related growthやposttraumatic growth、benefit findingをどのように測定するのかについて見ていきましょう。これらの研究領域では様々な質問紙尺度が提案されています。ただし、尺度名については正確に区別する必要があります。

(Stress-Related Growth Scale)
まず、Park、Cohen、Murchが1996年に開発したのがStress-Related Growth Scale(SRGS:ストレス関連成長尺度)です。「Stress-Related Growth Inventory」ではなく、正式名称はScaleです。オリジナルのSRGSは50項目からなり、本人が過去1年間で最もstressful(ストレスフル)だった出来事を想起し、その経験の結果として、個人的資源、社会的関係、人生哲学、coping skills(コーピング技能)などについて、どの程度肯定的に変化したと感じているかを評価します。その後、15項目からなるshort form(短縮版)も作成されています。

(Posttraumatic Growth Inventory)
次に、TedeschiとCalhounが1996年に開発したPosttraumatic Growth Inventory(PTGI:心的外傷後成長尺度)があります。こちらは21項目からなり、これまで見てきたRelating to Others(他者との関係)、New Possibilities(新たな可能性)、Personal Strength(人間としての強さ)、Spiritual Change(精神的・スピリチュアルな変化)、Appreciation of Life(人生への感謝・人生の価値の再認識)という五つの領域を測定します。それぞれについて、経験の結果としてどの程度変化したと本人が感じるかを回答する形式です。

(Benefit Finding Scale)
benefit findingを測定する尺度にも複数のものがあります。その一つがBenefit Finding Scale(BFS:ベネフィット・ファインディング尺度)です。たとえばがん研究で使用される17項目版では、がんの診断・治療経験を通して、人生の受容、個人的成長、家族関係、他者への理解などについてどの程度benefitを感じたかを尋ねます。BFSには研究対象や研究史によって複数の版があり、「Benefit Finding Scale」という名称だけで一種類の普遍的尺度を指すわけではない点には注意が必要です。

(Perceived Benefit Scale)
また、McMillenとFisherによるPerceived Benefit Scale(PBS:知覚されたベネフィット尺度)のような尺度もあります。後続研究で紹介されているPBSは30項目からなり、生活様式の変化、self-efficacy(自己効力感)の増加、家族・地域との親密さ、他者への信頼、compassion(思いやり)、spirituality(スピリチュアリティ)など複数の領域を扱います。

(すべての尺度が「最もストレスの強い出来事」を尋ねるわけではない)
「いずれも個人に対して最もストレスの強い出来事の結果として各項目について聞く」との説明もありますが、これはすべての尺度には当てはまりません。SRGSでは過去1年間で最もストレスフルだった出来事を基準に尋ねる形式が用いられていますが、PTGIではtraumatic eventや重大な危機に関連した変化を尋ねます。また、Benefit Finding Scaleは「がんを経験したことによって」など、あらかじめ特定された病気や出来事について回答してもらう研究も多くあります。したがって、共通しているのは、「ある経験との関連で本人がどのような肯定的変化やbenefitを知覚しているかを自己報告してもらう」点であって、質問の基準となる出来事は尺度や研究によって異なります。

(尺度は「実際の変化」を直接測定しているわけではない)
そして、ここでも前回から繰り返している大切な点を確認しておきましょう。これらの尺度の多くは、出来事の前に測定しておき、出来事の後にもう一度測って客観的な変化量を計算しているわけではありません。「あの出来事を経験した結果、自分はどの程度変わったと思うか」を現在の本人に尋ねるretrospective self-report(回顧的自己報告)が中心です。したがって、測定されるのは基本的にperceived growth(知覚された成長)やperceived benefit(知覚された利得)であることを忘れないようにしてください。

(次に項目数と構成概念を見る)
それでは次に、それぞれの尺度について、具体的な項目数や構成概念を比較していきましょう。同じ「困難の後の肯定的変化」を測っているように見えても、SRGS、PTGI、Benefit Finding Scaleでは、質問内容や構成概念が少しずつ異なっています。ここを見ることで、stress-related growth、posttraumatic growth、benefit findingの理論的な重なりと違いが、もう少し具体的に見えてくると思います。