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老年期のパーソナリティと社会適応――SOC理論・老年的超越・活動理論から発達心理学で考える #放送大学講義録(発達心理学特論第14回その3)

【要約】

 

老年期のパーソナリティは成人期以降かなり安定していますが、身体機能の低下、退職、死別、社会的役割の変化などにより、自己理解や将来の見通しは変化します。日本の縦断研究では、過去の自己は年齢とともに肯定的に捉えられやすい一方、未来の自己は80歳代以降、老化や死を含む否定的内容が増えることが示されています。ビッグファイブでは、誠実性や開放性が長寿や健康行動と関連する可能性があります。老性自覚は、体力低下などの「内からの自覚」と、定年や孫の誕生などの「外からの自覚」に分けられます。SOC理論は、選択・最適化・補償によって老年期の生活に適応する考え方です。老年的超越理論は、老年期を新しい意味づけや発達の時期として捉えます。活動理論、離脱理論、継続性理論も、社会参加、役割の調整、その人らしさの維持を考える重要な視点です。 

 

ーーーー講義録始めーーーー

 

老年期のパーソナリティと社会適応

さて、高齢になるとパーソナリティは変化するのでしょうか。また、老年期のパーソナリティの特徴というものはあるのでしょうか。一般に、パーソナリティは成人期以降かなり安定していると考えられますが、まったく変化しないわけではありません。加齢に伴う身体機能の変化、退職、家族関係の変化、配偶者や友人との死別、社会的役割の変化などは、その人の自己理解や対人関係、将来の見通しに影響します。そのため、老年期のパーソナリティを考える際には、性格特性の安定性と、生活史の中で生じる変化の両方を見ていく必要があります。

日本における1970年代からの15年間の縦断研究では、自己概念について興味深い知見が示されています。過去の自己については、年齢が上がるにつれて肯定的な反応が増加する一方で、未来の自己については、70歳代では肯定的に捉えられていたものが、80歳、85歳になるにつれて、老化や死といった否定的な内容を含む反応へと変化していました。また、自我の強さに関しては、自我機能が維持されている人に比べて、自我機能が低下した人たちの死亡率が高いことが示されています。関連文献では、下仲・中里の15年間の縦断調査において、70歳から80歳までの間で自我機能が低下した人は、自我機能が変化しない人よりも10年後の死亡率が高かったと紹介されています。加えて、自我機能が低下している人たちには、自己認知、身体、現在の自己に対する肯定的な反応の減少が見られていました。つまり、老年期における自己理解は、単に「楽観的か悲観的か」という問題ではなく、過去・現在・未来をどのように結びつけ、自分の人生をどのように意味づけるかという問題と深く関係しています。

パーソナリティと長寿の研究をレビューした権藤恭之氏は、ビッグファイブ・パーソナリティ尺度を用いた研究を踏まえ、誠実性の高さや開放性の高さが、死亡リスクの低さと関連する可能性を指摘しています。ビッグファイブとは、パーソナリティを、開放性、誠実性、外向性、協調性、神経症傾向という5つの特性から捉える枠組みです。誠実性の高い人は、健康行動を継続しやすく、医療者の助言に従いやすく、服薬管理や生活習慣の維持にもつながりやすいと考えられます。また、開放性の高い人は、新しい経験への関心や知的好奇心を保ちやすく、認知的・社会的活動の維持に関係する可能性があります。ただし、パーソナリティと長寿の関連が直接的なものなのか、それとも健康行動、社会経済的水準(socioeconomic status: SES)、幸福感、疾患、社会関係などの媒介要因を通じたものなのかは、慎重に検討する必要があります。パーソナリティは長寿だけでなく、健康、幸福感、社会参加、認知機能、疾患リスクなど多くの変数と関係するため、そのメカニズムを明らかにすることが重要です。

内閣府の平成26年度「高齢者の日常生活に関する意識調査」によると、「一般的に何歳頃から高齢者だと思うか」という質問に対して、「70歳以上」が29.1%、「75歳以上」が27.9%と高く、両者を合わせると57.0%でした。したがって、「70〜74歳とする回答者が半数を超えていた」と表現するよりも、「70歳以上または75歳以上と考える回答が多く、合計すると半数を超えていた」とする方が正確です。また、同調査では、「あなたは、自分を高齢者だと感じていますか」という質問に対して、「はい」と答えた人は43.4%、「いいえ」と答えた人は51.3%でした。つまり、60歳以上の人々の中でも、自分を高齢者と感じるかどうかにはかなりの個人差があります。

さらに、同じ内閣府調査では、高齢者だと感じる時として、「体力が変化したと感じた時」が39.4%、「力が弱くなったと感じた時」が24.1%、「歩く速さが遅くなったと感じた時」が21.3%でした。これらは単一項目として半数を超えているわけではありませんが、身体的な衰えや身体機能の変化が、自分を高齢者だと感じる重要な契機になっていることを示しています。自分が老いたことを自覚することを「老性自覚」といいます。老性自覚は、身体的特徴や心理的体験を通して自己の老いを自覚する「内からの自覚」と、孫の誕生、定年退職、年金受給、周囲からの扱われ方の変化など、社会的な経験や出来事から老いを自覚する「外からの自覚」に分けて考えることができます。

加齢に伴う心身の変化には個人差が大きいとはいえ、年を取るということは、若い頃とまったく同じようには活動できなくなる場面が増えるということでもあります。しかし、これは単に「できないことが増える」という意味にとどまりません。重要なのは、変化した身体、変化した生活条件、変化した社会的役割の中で、自分の活動や生活のあり方をどう調整していくかです。老年期の適応とは、若い頃の活動量をそのまま維持することだけではありません。自分にとって本当に重要な活動を選び、力を注ぐ対象を見直し、必要であれば方法を変えながら生活の質を保っていくことです。

例えば、ポール・B・バルテスらは「選択・最適化・補償理論」、英語では “Selection, Optimization, and Compensation theory”、略してSOC理論を提唱しました。この理論は、人が加齢に伴う資源の変化や制約に直面したとき、「選択(selection)」「最適化(optimization)」「補償(compensation)」という3つの機能を活用して適応するというものです。SOC理論は、老年期を衰退だけで見るのではなく、限られた資源をどのように配分し、どのように工夫して生活を組み立てるかという視点を与えてくれます。

バルテスは、著名なピアニストであるアルトゥール・ルービンシュタインの例を用いて、この3つの機能を説明しています。ルービンシュタインは、80歳代になっても高い水準の演奏を維持していましたが、その秘訣として、次のような方法を用いたとされます。

①演奏する楽曲の数を少なめにすること
②選んだ楽曲をより多く練習すること
③速いパートの前にゆっくりした演奏を置き、後のパートがより速く聴こえるようにすること

SOC理論で説明すると、①は「選択」です。自分の能力や時間、体力を見極め、すべてを同じように続けようとするのではなく、力を注ぐ対象を選びます。楽曲を絞ることが、ここでいう選択にあたります。②は「最適化」です。選択した目標をよりよく実現するために、練習、学習、環境調整、支援の活用などによって資源を集中させます。選んだ楽曲を何度も練習し、演奏の質を高めることが最適化です。③は「補償」です。以前と同じ速さで弾くことが難しくなった場合に、演奏全体の構成や聴こえ方を工夫することで、低下した能力を補います。楽曲へのメリハリの工夫が、低下したスピードを補う方法になっていると言えます。

このSOC理論は、ピアノ演奏に限らず、老年期の日常生活全般に当てはめることができます。たとえば、以前のように長時間外出することが難しくなった人が、本当に行きたい場所を選び、移動手段を工夫し、杖や交通サービス、家族や地域の支援を活用する場合も、選択・最適化・補償の過程として理解できます。老年期の適応とは、若い頃の自分に戻ることではなく、現在の自分に合った形で生活を再構成することなのです。

トーンスタムによる「老年的超越理論(gerotranscendence theory)」では、老年的超越以外の多くのエイジング理論は、よい老いとは中年期の思考や活動をできるだけ継続・維持することであるという前提に立ってきたとされます。それに対して、老年的超越理論は、老年期における変化と発達を強調します。老年的超越とは、物質主義的で合理的な世界観から、より宇宙的、超越的、非合理的な世界観へと変化していく過程として説明されます。ここでいう「非合理的」とは、筋道の通らない考え方という意味ではなく、若い頃の効率性や社会的成功だけでは捉えきれない、人生、死、自然、他者とのつながりへの感受性が高まるという意味で理解するとよいでしょう。

老年的超越の特徴は、次の3つの次元から説明されます。

①宇宙的な次元:個人という枠組みから、自然、宇宙、世代のつながり、死後の世界観などへと関心が広がる次元です。年をとって身体が十分に動かなくなっても、自分の生活の中に喜びを見つけ、人生全体をより大きな流れの中で捉え直すことができるという考え方です。
②自己の次元:自分中心の考えから少しずつ解放され、若さ、外見、身体能力、社会的評価へのこだわりが弱まっていく次元です。これは自己を否定することではなく、自己への過度な執着から距離を取ることに近いものです。
③社会と個人の関係の次元:加齢により、これまでの人間関係や社会的役割の意味づけが変わり、表面的な付き合いや形式的な役割よりも、少数の深い関係や内面的な充実を重視するようになる次元です。また、他者や社会に対して、善悪を一刀両断に判断する態度が弱まり、より寛容で相対化された見方が生まれることもあります。

増井幸恵氏は、日本における老年的超越の研究動向を概観し、トーンスタムの指摘とおおむね重なる部分がある一方で、日本では宇宙的な次元があまり明確に現れず、自己の次元と社会と個人の関係の次元に関する内容が多いという特徴があると指摘しています。そして、今後の課題の一つとして、老年的超越の3つの次元における文化差を再検討する必要性を挙げています。これは重要な点です。老いの意味づけは、個人の心理だけでなく、宗教観、家族観、死生観、地域社会、言語表現、文化的価値観によっても変わるからです。

その他にも、老年期の社会適応を説明する理論として、活動理論、離脱理論、継続性理論などがあります。活動理論は、ハヴィガーストらを中心に1960年代に展開された理論で、加齢に伴う役割喪失をできるだけ補い、活発に社会活動を続けることが、自己評価や生活満足感の維持につながると考えます。退職によって職業上の役割を失ったとしても、地域活動、趣味、学習、ボランティア、家族内の役割など、新しい役割を見つけることが適応にとって重要だとする立場です。

一方、離脱理論は、カミングとヘンリーによって1961年に提唱された理論として知られ、高齢者と社会が相互に距離を取り、社会的役割から徐々に離れていくことを、老年期の自然な過程として捉えます。ただし、この理論は、高齢者の社会参加や主体性を過小評価する危険があるとして、後に強い批判も受けました。現代の発達心理学や老年学では、すべての高齢者が社会的活動から離れることが望ましいとは考えません。むしろ、その人の健康状態、価値観、生活史、社会的支援に応じて、どのような距離の取り方が本人にとって適応的なのかを考える必要があります。

アチュリー(Robert C. Atchley)による継続性理論は、高齢者の変化は過去の経験、価値観、生活様式、人間関係と切り離されているのではなく、それらとの連続性を保ちながら進むと考えます。アチュリーは、適応的な選択を行う際、中年期以降の人々は、内的な構造、たとえば自己概念や価値観、好み、対処様式と、外的な構造、たとえば生活環境、役割、人間関係、活動パターンの連続性を維持しようとすると論じました。社会的活動や社会状況が変化しても、その人らしい生き方の筋道が保たれることで、心理的安定が支えられるという考え方です。

 

【図:老年期の社会適応を説明する主要理論(講義用整理図)】

 

老年期の社会適応を説明する主要理論(講義用整理図)PNG

 

 

これらの理論は、互いに対立するものとしてだけ理解する必要はありません。活動理論は、社会参加や役割の維持が重要であることを教えてくれます。離脱理論は、社会的役割から距離を取ることにも意味がある場合を考えさせてくれます。継続性理論は、変化の中にもその人らしさや生活史の連続性があることを示します。SOC理論は、能力や資源が変化する中で、選択、最適化、補償によって生活を組み立てる視点を与えてくれます。そして老年的超越理論は、老年期を単なる維持や喪失だけでなく、新しい意味づけや発達の時期として捉える視点を示します。

老年期のパーソナリティと社会適応を考えるうえで大切なのは、高齢者を一つの型にはめないことです。活動的に生きることが合う人もいれば、社会的役割を少しずつ手放し、内面的な生活を深めることが合う人もいます。過去の生き方を大切にしながら変化に適応する人もいれば、老いをきっかけに新しい価値観へと向かう人もいます。発達心理学における老年期の理解とは、老いを「衰退」としてだけ見るのではなく、喪失、調整、継続、選択、意味づけ、超越が重なり合う複雑な発達過程として捉えることだと言えるでしょう。