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経営情報学とは何かを基礎から学ぶ――MIS・DSS・SIS、システム思考、プラットフォーム時代の情報経営 #放送大学講義録(経営情報学入門第1回その1)

ーーーー講義録始めーーーー

 

経営情報学とは何か――学問の射程と基本的問い
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この科目のイントロダクションとして、「経営情報学」という学問領域についてお話しします。この回の学習のポイントをまとめておきましょう。
まず、「経営情報学とは何か」では、経営情報学がICTや情報を手段として、いかに効率的・効果的な経営を行うのか、すなわち「情報で経営すること」を基本的な課題としていることを学びます。加えて、近年では、ICTや情報そのものを経営資源・統治対象としてマネジメントする、すなわち「情報を経営すること」も重要な課題になっていることに目を向けます。こうした問題意識は、組織が情報を収集・処理・活用しながら意思決定を行う存在である、という理解とも深く結びついています。
次に、「システム思考」では、経営情報学が基盤としているものの見方について学習します。さらに、「経営情報学と組織」では、システム志向に基づいて、組織が広い意味での情報処理システムであり、目標を追求するシステムであることを学びます。そして、「経営情報学への接近方法」では、トランスレーショナル・アプローチと、このアプローチを基にした講義の構成について学習しましょう。組織を情報処理の観点から捉える見方は、組織設計論や組織情報処理論においても重視されてきました。
■ 経営情報学の定義と基本的課題
経営情報学は、企業をはじめとする様々な組織を対象とし、組織を何らかの目的を追求する広い意味での情報処理システムとして捉え、検討し、考察する学問領域です。情報通信技術が飛躍的に発展し続けている中で、情報処理システムとしての組織は、ICTやそれが生み出す多様で大量の情報を活用しながら、いかに効率的・効果的な経営活動を行うかを、組織の存続や発展に関わる根幹の課題としてきました。情報システムは、データの収集・保存・処理を通じて、組織の運営、意思決定、顧客・取引先との相互作用、そして市場競争を支えるものとして位置づけられています。
【図:コンピューター活用の初期的風景(写真)】
〔解説〕この写真は、企業や組織におけるコンピューター活用の初期的な様子を示すものとして位置づけられます。大型計算機を前に、複数の担当者が操作や監視を行っている場面を想定した教材用の図版です。※元画像の出典が示されていないため、具体的な年代や撮影場所までは断定していません。
この時代以降、MIS(Management Information System:管理情報システム)、DSS(Decision Support System:意思決定支援システム)、SIS(Strategic Information System:戦略情報システム)といった考え方が展開されてきました。MISは管理者に必要な情報を提供して管理活動を支え、DSSは意思決定の結果を予測・比較しながら判断を支援し、SISは情報システムを通じて企業の競争戦略や競争優位の形成を支えるものとして理解されます。したがって、経営情報学における重要な論点の一つは、こうした情報システムを活用して、収益性向上や競争優位の獲得をいかに実現するか、すなわち「情報で経営すること」にあります。
しかし、近年のICTの著しい進展は、ICTや情報が単なる経営の手段にとどまらず、それ自体が経営資源であり、統治・設計・保護・活用の対象でもあることを、企業に強く意識させています。すなわち、情報を使って経営するだけでなく、情報そのものを経営することが重要になってきたのです。これは、データ、アルゴリズム、デジタル基盤、プラットフォーム、情報セキュリティ、プライバシー、ガバナンスといった論点を含む、より広い経営課題です。情報システムが組織の運営と競争そのものを支える基盤になっている以上、この論点は経営情報学の中心的な課題の一つだと言えます。
例えば、Amazonのように複数の利用者集団の相互作用をデジタル空間上で媒介するプラットフォーム型ビジネスや、Uberのように移動サービスの需給を仲介するギグエコノミー型・プラットフォーム型サービスに目を向けると、ICTやそれが生み出す情報を設計・運営・統治することが、事業そのものの成立条件になっていることが分かります。オンライン・プラットフォームは、二者以上の相互依存的な利用者集団の相互作用を媒介するデジタル・サービスとして整理されており、Uberもまた、自社の公式説明の中で利用者・ドライバー・配達員などを結び付ける「platform」として自らを位置づけています。
このように、経営情報学は、ICTやそれが生み出す情報によっていかに経営するかという基本的課題と、ICTや情報それ自体をいかに経営資源として設計・管理・統治するかという課題の双方を扱う、学際的な学問領域です。前者は従来型の情報システム活用論と強く結びつき、後者はデジタル時代のデータ活用、プラットフォーム運営、情報ガバナンスへと射程を広げています。
■ 経営情報学が学際的である理由
経営情報学が学際的である理由は、組織などの意思決定主体に対する社会科学的な深い洞察、ICTに関する理工学的な理解、そしてこれらを統合するシステム論的・方法論的な視点が求められるからです。組織は、人間の判断、ルール、権限、コミュニケーション、技術基盤、データ処理が相互に作用する場であり、その理解には単一の学問だけでは不十分です。組織を情報処理システムとして捉える理論は、まさにその統合的理解を支えるものです。
ICTが、組織のイノベーション・成長・繁栄を支え、新たな価値創造の基盤として必要不可欠であることは、今日の企業活動を見れば明らかです。しかし、最終的な価値創造は、機械的な情報処理だけではなく、人間の判断、解釈、構想力とICTの分析・処理能力との結合によって実現されます。そのため、人とICTがどのように協働し、どのような情報処理活動を通じて組織成果につながるのかを研究する経営情報学が必要になるのです。これは、技術だけでも、経営学だけでも完結しない領域であり、だからこそ学際的なのです。
【キーワード】
経営情報学、MIS(管理情報システム)、DSS(意思決定支援システム)、SIS(戦略情報システム)、情報で経営する、情報を経営する、情報処理システム、プラットフォーム、情報ガバナンス