ーーーー講義録始めーーーー
分析結果の意義と知識労働者を引きつける要因
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4つの類型があるということがわかったわけですが、それぞれの人的資源管理にはどんな意義があるのかということを検証してみました。それぞれの人的資源管理において従業員の意識や行動がどう異なるのかということを比較分析したわけです。どんな意識や行動を分析したかというと、以下のようなものです。
①企業への定着意識:その会社で長くいたいと思う程度
②部門内外の相互作用:会社の中で協力してコミュニケーションを取っている程度
③社外効力感:よその会社に行っても通用するよと思える程度
④成長感と有能感:この会社にいて成長したと思える程度、あるいは自分は有能だと思える程度
従来の考え方では、日本的な人的資源管理は人材育成に熱心だし従業員を大事にするというふうに考えられてきましたので、例えば成長感や有能感は高くなるというふうに期待できますし、企業への定着意思ですとか部門内外でのコミュニケーションも高く現れるだろうということが期待できたわけです。ですから先ほどの4つの類型でいきますと、2番目のプロセス重視型の成果主義というのがこういったものが高いんだろうということが予測されたわけです。
ところが、私が2015年に刊行した本(テキスト)で行った分析の範囲では、実はこういった意識や行動のすべてにおいて、最初の類型である「強い成果・能力主義型」のスコアが一番高いという結果が示されました。振り返っておきますと、この類型というのは強い成果主義でありながら人材育成に熱心で、かつ内部の人材にはこだわらないマネジメントだということになります。こういったものにおいて、定着意思も高く、コミュニケーションも強い傾向が示されたということになります。
さらに社外効力感、よそでも通用できますという自信に関しては、同じ分析の範囲では、プロセス重視の成果主義型は、3番目の類型であるベンチャー企業で見られるような非常に競争的な市場志向型の人的資源管理よりも低くなってしまうという結果が出てきました。したがって、少なくとも当該分析の範囲では、日本企業的なマネジメントのもとで勤務している知識労働者は、転職できる自信が相対的に弱いことが示唆される、ということになります。
このように見てくると、知識労働者のマネジメント、特に新興専門職のマネジメントということを考えるならば、少なくとも当該分析の範囲では、日本的な人的資源管理は必ずしも最も適合的とは言えない可能性がある、ということが言えるわけです。むしろ競争ですとか成果主義といったことをベースとして、そこに人材育成の要素を付け加えた方が、彼らにとっては適切である可能性が想像できるわけです。
では、こうした厳しい人的資源管理のはずの企業が知識労働者をなぜ引きつけているのかということをちょっと考えてみたいと思います。
まず考えられるのは、該当する企業では先進的で面白い仕事があるということです。先ほど1番目の類型の企業というのは、比較的歴史が浅くて大企業で難しい仕事をしている会社だというふうに言いました。そういった会社というのは、仕事そのものも面白いでしょうし、チャンスがたくさんあるでしょうから、仕事を通じた成長ができると思います。こういったことに魅力を感じている知識労働者が多いんではないかというふうに考えられます。知識集約的な文脈では、自律性や成長機会、承認が重視され得るという議論もあります。
2番目に承認の機会があるという点です。自律的な知識労働者は自分の仕事の内容やその結果に強い関心を持っていると考えられるわけですが、そうであれば多少厳しかったとしても、自分の成果がしっかりと評価され承認される仕組みがある、その方が働きがいがあるといったことが考えられるわけです。
最後にこれらの企業では、人的資源管理上の制約が少ないということが、当該分析では示唆されています。ここで言う制約とは、以前人事考課のところで勉強したと思いますが、人事考課の結果に分布制限を設けたりとか、昇進昇格の速度をコントロールしたりといった、そういったコントロールを会社がやるということですね。分布制限(強制分布、スタックランキング等)は、人事評価で一定割合の評定配分を求める手法として知られています。
こうした制約が相対的に小さいとすれば、思い切った抜擢などがやりやすくなるということになりますので、こういったことも知識労働者にとっては魅力的なんじゃないかなというふうに思われます。
図表(理解補助:4類型×意識・行動指標の読み方)
※ここは「当該分析が何を比べたか」を見える化するための整理図(新事実の追加ではなく、講義理解の補助)です。
| 指標 | 何を意味するか(講義内定義) | 4類型比較での読み方 |
|---|---|---|
| ①企業への定着意識 | その会社に長くいたい | 定着を高めるHRMの示唆を得る |
| ②部門内外の相互作用 | 協力・コミュニケーション | 組織志向/協働設計との関係を見る |
| ③社外効力感 | 外でも通用する自信 | 育成・市場価値・移動性との関係を見る |
| ④成長感と有能感 | 成長実感・有能感 | 仕事経験・承認・学習機会との関係を見る |

