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日本の事業承継と国際税制比較(人生100年時代の家族と法第13回)#放送大学講義録

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インタビュアー:いま、今挙げていただいた問題点のうち、まず1点目の税負担の問題についてですが、具体的にどのような内容でしょうか。

福崎先生:そうですね、日本の贈与税や相続税は非常に基礎控除が小さく、税率も高いという特徴があります。例えば、現経営者が一生懸命経営されてきた結果、内部留保が5億円や6億円に達している企業を想定しますと、株価が3億円程度になるケースがよくあります。
その株を次世代、つまりお子さんに相続しようとすると、相続税がかかります。3億円の株を相続する場合、約4800万円の相続税が発生します。株式は経営権に直結するため、生前に株式を渡さないと円滑な事業承継は難しくなります。そのため、生前贈与を選ぶケースが多いのですが、3億円の株を一括で贈与すると、1億5800万円の贈与税がかかるというのが現状です。このように税負担が重いため、事業承継が進まず、結果として経営の若返りが遅れてしまうのです。

インタビュアー:では、税の問題について、税金は日本だけでなく外国にもありますが、国際的な比較についてはいかがでしょうか?

福崎先生:そうですね、日本の贈与税や相続税は国際的に見ても非常に厳しいものです。基礎控除はわずか3000万円しかなく、最高税率は55%に達します。これに対し、アメリカでは2019年の相続税において、基礎控除が1人当たり約12億円、夫婦だと約24億円もあります。日本の3000万円と比べると大きな差があります。アメリカでは相続税が課税されるケースは2019年で5500人ほどしかおらず、日本とは大きく異なります。日本では相続が発生したケースの約8%に相続税が課されるとされています。

また、イギリスでは相続税があるものの、7年以上前に行われた生前贈与については課税されないという制度があります。したがって、非上場企業の株式を7年以上前に次世代に渡しておけば、相続税はかかりません。この点でも、日本の税制は非常に厳しいです。

さらにドイツについては、配偶者には50万ユーロ、子ども1人当たりには40万ユーロの基礎控除が認められています。例えば、妻1人子ども2人の家庭では、合計で約1億5000万円の基礎控除があります。また、中小企業の株式のようにすぐに現金化できない財産については85%の評価減が適用されます。例えば1億円の株式でも、85%の評価減後には1500万円として扱われますので、相続税の負担が大きく軽減されます。これもまた、日本と比べると非常に有利な税制です。

最後に、中国についてですが、中国にはそもそも相続税が存在しません。こうして主要国であるアメリカ、イギリス、ドイツ、中国と比較しても、日本の資産税は非常に厳しいものとなっています。各国は資産承継に関する税制が緩和されている一方で、日本はまだ多くの課題を抱えています。

インタビュアー:日本と諸外国で、事業承継や資産承継にこれほど差があるというのは、今回のお話で初めて理解しました。

 

 

 

日本における事業承継の課題と解決策(人生100年時代の家族と法第13回)#放送大学講義録

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ここで、事業承継を専門として数多くの案件を手がける弁護士の福崎剛志先生に、事業承継の実務でどのようなことが行われているのかについてお話を伺いましたので、インタビューをご覧ください。

インタビュアー:今、日本では事業承継が社会的な課題となっているということですが、どのような点が課題となっているのでしょうか。

福崎先生:そうですね、現在の日本経済は成熟期に入っていると言われています。例えば、経営者の年齢層を見ても、約60パーセントが60代以上の経営者という状況です。しかも、そのうちの約3割は70歳を超える経営者が占めており、非常に高齢化が進んでいます。
このように、経済環境が成熟する中で、経営者の年齢層が高齢化している状況です。したがって、次世代に経営を引き継ぐ必要があることが、大きな課題になっているわけです。

インタビュアー:そうしますと、次世代に事業を引き継ぐ際に、さらに課題となるのはどのような点でしょうか?

福崎先生:現状、日本の事業承継問題はあまり進展していないと言われています。その理由として、主に3つの要因が挙げられます。
1つ目は、資産税の問題です。日本では贈与税や相続税、いわゆる資産税が非常に高い。単純に株式を移転したいと考えても、多額の税コストが発生するため、これが大きな障害になっています。
2つ目は、後継者不足の問題です。事業を引き継ぐ後継者が不足している状況です。たとえお子さんがいても、事業を引き継ぐことが難しいケースが多いです。
3つ目は、相続問題です。株式を相続した長男と他の兄弟との間で、相続に関するトラブルが発生しやすい。これも大きな問題点の一つです。

 

 

 

 

事業承継と遺留分問題を考える(人生100年時代の家族と法第13回)#放送大学講義録

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最後に、3番目の遺言について説明します。遺言とは、株式の所有者が後継者に自分の会社の株式を相続させるために遺言を作成する方法です。例えば、株式の所有者、つまり遺言者が以下のような遺言を作成します。

「遺言者は、遺言者が保有する株式会社Aの株式のすべてを長男Bに相続させる。」

ただし、2番目に説明した生前贈与の場合や、3番目の遺言による相続の場合、非相続人が死亡した後の相続において「遺留分」の問題が発生することがあります。遺留分とは、相続において特定の相続人に保障される最低限の取り分であり、相続の公平性を保つための制度です。

例えば、次のような状況が考えられます。現社長が生前に後継者となる子供の1人に対して、社長が保有する全株式を贈与しました。その5年後に社長が死亡し、生前贈与された株式以外に社長は他の財産を残していなかったとします。この場合、社長の相続人は配偶者と子供3人です。配偶者の遺留分は法定相続分の2分の1、つまり全体の4分の1、子供たちの遺留分はそれぞれ法定相続分の2分の1で、全体の12分の1ずつとなります。

しかし、後継者以外の相続人は、株式を除く相続財産がないため、遺留分が侵害されることになります。遺留分が侵害された相続人は、後継者に対して「遺留分侵害額請求」を行い、後継者は請求に応じて資金を捻出しなければなりません。しかし、後継者に自己資金がなかった場合、生前贈与で受け取った株式を売却する必要が生じます。ところが、取引相場のない株式であるため、簡単に売却することはできません。たとえ売却できたとしても、後継者が保有する株式が減少し、会社の経営に必要な議決権の過半数を失うことになり、安定した経営が難しくなるリスクがあります。

こうした事業承継に伴う問題を解決し、円滑な事業承継を実現するため、事業承継税制遺留分に関する民法の特例などが定められた「経営承継円滑化法」が2008年5月に成立しました。さらに、補助金や融資などの金融支援、後継者育成のための教育制度、ガイドラインやマニュアルの作成など、様々な公的支援策も提供されています。

 

 

 

事業承継の方法と税務のポイント(人生100年時代の家族と法第13回)#放送大学講義録

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では、親族内承継を例に、株式などの財産を親から子へ移転するケースを考えてみましょう。
この図の例を見てください。現在の社長が会社の株式の80パーセントを持っている株主だとします。

現在の社長と次期社長は親子の関係です。現在の社長は、後継者である次期社長が安定して経営ができるように、社長が持つ株式をすべて次期社長に承継させることにしました。株式を承継させる方法としては、売買、贈与、遺言が考えられます。

まず1つ目の売買についてです。
この図は、株式の評価という観点で株式を分類したものです。株式には、上場会社の株式、つまり証券取引所に上場されている株式と、それ以外の株式があります。これ以外の株式を「取引相場のない株式」といい、中小企業の株式の多くがこれに該当します。取引相場のない株式は、上場株式と違い、株式の価格が市場で決まりません。

そのため、取引相場のない株式を売買する場合は、価格を決める必要があります。前にお話しした通り、売買は民法で定められていますが、民法は売買する価格の決め方までは定めていませんので、売買代金は当事者の合意で決めることができます。

株式を購入する後継者は、代金の資金調達をしなければならないため、できるだけ低い金額で株式を譲り受けたいと考えます。しかし、あまりに低い金額での譲渡を行うと、税法上、予期しない税負担が発生する可能性があります。時価よりも著しく低い金額で株式を譲渡すると、時価と譲渡価格との差額が贈与とみなされ、譲受人に贈与税が課される可能性があるのです。これを「みなし贈与課税」といいます。

そのため、取引相場のない株式については、一定の評価方法により時価を算定し、できるだけ時価に近い金額で売買することが推奨されます。

なお、株式を売却した場合、株式を取得した時の価格よりも売却時の価格が高い場合、その増加益に対して所得税が課されます。
このように、株式売買では、税金や資金調達方法などを十分に検討する必要があります。

次に、2つ目の贈与です。
現経営者が生存しているときに、後継者に株式を贈与することを「生前贈与」といいます。生前贈与では、贈与を受けた者、つまり受贈者に贈与税がかかりますが、前に述べた通り、歴年課税と相続時精算課税のいずれかを選択することができます。

生前贈与は無償で譲り受けますので、売買と違って買い取り資金を準備する必要はありませんが、贈与税がかかりますので、その納税のための資金は必要です。

 

 

 

事業承継と後継者選びの重要性(人生100年時代の家族と法第13回)#放送大学講義録

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では、事業承継において誰に事業を引き継がせるかについて見ていきましょう。

事業承継は、誰が引き継ぐかによって3つに分類されます。それは、親族内承継、親族外承継、M&Aの3つです。まず、親族内承継とは、経営者の子や配偶者などの親族に引き継がせる場合を指します。次に、親族外承継とは、会社の従業員や役員の中で、会社のことをよく知っていて、経営能力のある者に引き継がせる場合です。会社の内部から後継者を選びますが、親族ではない者に承継させるため、これを親族外承継といいます。そして、M&Aとは、会社の外部の第三者に事業を引き継がせる場合を指します。例えば、他の会社と自分の会社を合併したり、自分の会社の事業を買い取ってもらったり、事業を始めたいという希望者に会社を譲渡したりすることがこれに該当します。

このうち、1つ目の親族内承継では、家族間で財産が移転する場合があります。

会社にもさまざまな種類がありますが、日本の企業の大部分は株式会社ですので、ここからは株式会社を例にお話しします。株式会社は、会社に出資した者に株式を発行し、株式を保有する者が株主となります。株主には、配当を受け取る権利や、株主総会で議決権を行使する権利があります。

株式には種類があり、議決権のある株式とない株式がありますが、ここでは議決権のある株式を前提に話を進めます。株主総会では、会社の重要な事項が決議され、その中には取締役の選任および解任も含まれます。取締役は会社の業務を決定し、執行する者であり、会社の経営を担う存在です。株主は、株主総会で議決権の過半数の賛成により取締役を選任したり、解任することができます。

そのため、会社の経営においては、議決権の過半数を持つことが非常に重要です。取締役の集まりである取締役会では、会社の代表である代表取締役を選任します。代表取締役は一般的には社長と呼ばれます。したがって、株式会社においては、取締役を選任できる権利を持つ株主が誰かということが極めて重要です。

株式は財産の一部ですので、株主は自分が保有する株式を生前に贈与したり、遺言で相続させることができます。また、株主が死亡すると、その保有していた株式は相続財産となり、遺産分割により相続人が株式を受け取ります。遺産分割の際、会社経営に関心のない相続人が株式を取得することも起こり得ます。

このような性質があるため、事業承継においては、後継者が取締役として安心して会社経営を行えるように、株式をどのように承継させるかが重要となります。なお、会社の根幹に関わる事項、例えば定款の変更や合併などは、株主総会の特別決議が必要です。特別決議は議決権の3分の2の賛成が必要であり、後継者に3分の2以上の議決権を持たせると、経営がより安定します。

また、例えば会社の本社の土地や建物を代表取締役が個人で所有しており、会社に賃貸している場合、その土地や建物も財産の一部です。このような財産も株式と同様に、誰に渡すのかが会社の安定した経営に影響を与えることがあります。

 

 

 

中小企業の事業承継と後継者不足問題(人生100年時代の家族と法第13回)#放送大学講義録

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続いて、2つ目のテーマである事業承継についてお話しします。
「事業承継」という言葉には、法律上の定義はありません。では、この言葉はどのような場面で使われるかというと、一般的には会社、特に中小企業において、その事業を後継者に引き継がせて、会社の雇用や技術を将来にわたって継承することを指します。日本の会社のうち、中小企業は約99パーセントを占めると言われています。これほど多くの中小企業が存在し、そこで雇用される従業員も数多くいます。

ところが、中小企業では経営者の高齢化が進んでおり、後継者不足が深刻な問題となっています。
ここでデータを見てみましょう。このデータは、全国のすべての業種について後継者の動向を調べたものです。2021年には、約26万6000社について調査を行った結果、後継者がいない、または未定であるとした会社が約16万社あり、全体の61.5パーセントに上っています。
10年前の2011年から2020年までの間では、この割合は65パーセントから66パーセント台でした。それに比べると、やや改善されたものの、依然として高い割合です。

後継者がいない会社は、後継者を見つけられない限り、そのままでは廃業に追い込まれてしまうこともあります。このデータは、2019年に実施された中小企業の事業承継に関するインターネット調査の結果ですが、廃業を予定している企業に廃業理由を尋ねたところ、子供がいない子供に事業を継ぐ意思がない適当な後継者が見つからないといった後継者不在による廃業が29パーセントを占めていました。このように、事業承継は会社の存続に大きく関わる、とても重要な問題です。

また、なぜ「人生100年時代の家族と法」という講義で事業承継を取り上げるかというと、中小企業の経営者が事業を後継者に引き継ぐ際、誰に承継させるかによって、前述の家族間の財産移転が発生することがあるからです。

 

 

 

家族間の財産移転と贈与・相続税の基礎(人生100年時代の家族と法第13回)#放送大学講義録

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次は、贈与税についてです。贈与税は、家族から財産を無償で譲り受けた際に、その財産に対して課される税金です。贈与税の課税方法には、歴年課税と相続時精算課税の2つがあります。

まず、歴年課税について説明します。これは、1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の合計額を基に、贈与税の税額を計算する方法です。贈与を受けた財産の合計額から基礎控除額110万円を差し引いた残額に対して贈与税が課されます。そのため、1年間に贈与を受けた額が110万円以下の場合には、贈与税の申告は不要です。

贈与税の税率には、一般税率と、税率が優遇される特例税率の2つがあります。特例税率は、一定の年齢以上の子や孫が父母や祖父母などの直系尊属から財産を贈与された場合に適用されます。

例えば、ある人が直系尊属以外の家族から500万円の贈与を受けた場合、500万円から基礎控除額の110万円を差し引いた390万円に対し、一般税率の20%を適用し、さらに25万円を控除します。これにより、贈与税額は53万円になります。

一方、孫が祖父から500万円を贈与された場合は、特例税率が適用され、同じように390万円に対して15%の税率を適用し、10万円を控除します。これにより、贈与税額は48万5000円となります。

また、配偶者間での特例もあります。婚姻期間が20年以上の夫婦で、居住用不動産などを贈与した場合、一定の条件を満たせば、基礎控除額の110万円に加えて最大2000万円の配偶者控除を受けることができます。

次に、相続時精算課税について説明します。これは、贈与者と受贈者が一定の条件を満たす場合に選択できる制度です。相続時精算課税は、贈与を受けた際に贈与税を支払い、贈与者が亡くなった際に相続税を計算し、すでに支払った贈与税を相続税額から控除するという仕組みです。受贈者がこの制度を選択する場合、贈与税の申告期間内に、相続時精算課税選択届出書を贈与税の申告書に添えて税務署に提出する必要があります。

贈与税の申告と納税は、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までに行わなければなりません。

ここまで、家族間の財産移転に関わる税法について説明してきました。ただし、税法には多くの例外や特例があり、内容は非常に複雑です。また、税金の申告に誤りがあると税務署から指摘を受け、追加で税金を支払うことになる場合もあります。税法は毎年改正されることが多いため、その時々の法律に基づいて適切に対応するためには、専門家に確認するなどの注意が必要です。