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SOCは健康を予測するのか?免疫・大学生活・HIV研究から学ぶ「首尾一貫感覚」とSOCを育む3つの人生経験 #放送大学講義録(健康への力の探究第3回その9)

【要約】

 

SOCと健康との関係は、国内外で多数研究されています。中村博之氏らの研究では、石川県の男性事務職125名でSOCと喫煙状況がNK細胞活性と関連しました。ただし横断研究であり、因果関係までは確認できません。

東京都内2大学の学生を2年間追跡した研究では、SOCの高さと変化が、その後の身体・精神的well-beingや、学習・進路などの心理社会的well-beingを予測しました。薬害HIV感染患者の7年間追跡でも、高いSOCは良好な精神健康、AIDS発症経験の少なさ、広い情緒的サポートネットワークと関連しましたが、因果関係には慎重な解釈が必要です。

ErikssonとLindströmのシステマティックレビューでは、強いSOCは、とくに良好な精神健康やQOLと一貫して関連しました。一方、身体健康との関係はより複雑です。

Antonovskyは、SOCの形成を支える人生経験として、consistency(一貫性)load balance(負荷のバランス)participation in shaping outcomes(結果形成への参加) を重視しました。これらはそれぞれ、把握可能感、処理可能感、有意味感の形成に関係すると考えられています。

 

ーーーー講義録始めーーーー

 

SOCの機能・効果に関する研究とSOCを育む人生経験(総論)

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(SOCと免疫機能を調べた中村博之氏らの研究)
例えば、金沢大学の中村博之氏らの研究グループは、石川県のコンピュータ関連企業で事務職に従事していた35歳から65歳の男性125名、平均年齢45.1歳を対象に横断研究を行いました。ここの研究では、natural killer cell activity; NKCA(ナチュラルキラー細胞活性) とNK細胞サブセットに関する指標について、SOCのほか、health locus of control; HLC(健康統制感)、知覚された生活ストレス、喫煙をはじめとする生活習慣などとの関係を検討しました。その結果、多変量解析ではSOCと喫煙状況がNKCAおよびCD57⁺CD16⁺の細胞指標と有意に関連しており、SOCが高いこと、そして喫煙していないことが高いNKCAと関連していました。ただし、この研究は一時点で調べた横断研究ですので、「SOCが高いからNK細胞活性が高くなった」という因果関係まで証明したものではありません。SOCと細胞性免疫との間に興味深い関連が認められた研究として理解しておくのがよいでしょう。

(大学生を2年間追跡した研究)
また、戸ヶ里泰典氏、山崎喜比古氏らの研究グループは、東京都内の2大学の大学生を対象に2年間の追跡調査を行っています。最初の調査に参加した569名のうち、406名が2年後の追跡調査への参加に同意し、最終的に281名から有効回答が得られました。この研究では、最初の時点でSOCが高かったこと、さらにその後2年間にSOCがどのように変化したかが、2年後の身体的・精神的な well-being(ウェルビーイング) や、学習への関心、将来の進路の明確さなどを含む心理社会的well-beingを予測していました。つまり、SOCはその時点での精神健康と関係するだけでなく、その後の大学生活や発達課題への対応とも関連する可能性が示されたことになります。ただし、この結果には男女差もみられ、男性ではAntonovskyの理論を比較的よく支持しましたが、女性では部分的な支持にとどまりました。そのため、「SOCがすべての大学生について将来の適応を一様に予測する」とまでは言えないことにも注意が必要です。

(薬害HIV感染患者を7年間追跡した研究)
また、先ほどから紹介している山崎喜比古氏らは、薬害HIV感染生存患者を対象に、1998年から2005年までの7年間にわたる追跡研究を行っています。1998年と2005年の両方の質問紙調査に本人が回答した患者のうち、分析対象となったのは男性87名でした。この研究では、SOCのレベルが高い人ほど、その後、GHQで測定された精神健康が改善していること、AIDS発症経験が少ないこと、情緒的サポートネットワークの範囲が広がっていることとの間に有意な関連が認められました。身体症状数についても少なくなる方向の関連がみられましたが、これは p<.10p<.10 であり、一般的な5%有意水準には達していませんでした。したがって、「SOCレベルが高ければAIDS発症や身体症状を抑えられることが証明された」と言うよりも、「高いSOCが、その後のAIDS発症の少なさや良好な精神健康、広い情緒的サポートネットワークと関連した」と捉えるのが適切です。著者ら自身も、死亡者や未回答者が分析対象から除かれていること、変数同士の関係が直接的な因果関係なのか間接的なものなのかについて、さらに検討が必要であると述べています。

(SOCと健康・QOLに関するシステマティックレビュー)
SOCについては、このほかにも、罹患や死亡といった比較的客観的な健康指標、自己評価健康、精神健康、well-being(ウェルビーイング)quality of life; QOL(生活の質) などとの関係を調べた研究が数多く蓄積されています。これらについて、北欧の健康生成論研究者であるMonica ErikssonとBengt Lindströmは複数の systematic review(システマティックレビュー) を行いました。2006年の健康との関係に関するレビューでは、1992年から2003年までの458本の科学論文と13本の博士論文を整理し、強いSOCは良好な自己評価健康、とくに精神的健康と強く関連していると結論づけています。また2007年のQOLに関するレビューでは、SOCとQOLとの関係を主目的とした32研究を検討し、総じてSOCが強いほどQOLも良好であり、縦断研究からも一定の予測妥当性が示されました。

(「ほぼすべての研究で関連した」とまでは言えない)
ただし、ここでは一つ注意が必要です。これらのレビューは、「ほぼすべての研究でSOCがあらゆる健康指標と関連した」と結論づけたわけではありません。SOCと精神健康との関連はかなり一貫して強くみられていますが、身体的健康との関係はそれより複雑で、関連が弱い研究や、健康生成的な役割を十分に支持しなかった研究も報告されています。また、相関研究だけからSOCと健康との因果方向を完全に決定することもできません。したがって、現在の研究成果からは、「強いSOCは良好な健康、とくに精神的健康やQOLとかなり一貫して関連しているが、その強さや因果関係は健康指標によって異なる」と理解するのが最も適切でしょう。

(SOCはどのような人生経験によって育まれるのか)
それでは、健康生成モデルで見てきたように、SOCはどのような人生経験によって育まれるのでしょうか。Antonovskyは、SOCが単に「良い出来事」をたくさん経験すれば高くなるとは考えていませんでした。重要なのは、generalized resistance resources; GRRs(汎抵抗資源) が、その人にどのような質の人生経験をもたらすかという点です。GRRsには、物質的資源、知識や知性、対処方略、社会的支援、文化的安定性などさまざまなものが含まれ、その利用可能性や質は、その人自身の発達過程だけでなく、家庭、社会、文化、経済的条件などの影響を受けます。そしてAntonovskyは、こうしたGRRsによって、ある特徴を備えた人生経験が繰り返されることがSOC形成を支えると考えました。

(SOC形成を支える人生経験の三つの特徴)
そのような、SOCの形成を支える人生経験には、Antonovskyが特に重視した三つの特徴があります。それが load balance(負荷のバランス)participation in shaping outcomes(結果形成への参加)、そして consistency(一貫性) です。これらは、それぞれ処理可能感、有意味感、把握可能感の形成と深く関係すると考えられています。ただし、後の研究ではこれに emotional closeness(情緒的な親密さ) が加えられており、SOCの形成に関係する人生経験をこの三つだけに限定する必要はありません。まずはAntonovskyが提示した古典的な三つの経験から見ていきましょう。

(バランスのある負荷の経験)
一つは、load balance(負荷のバランス) の経験です。これは単に、ストレッサーに直面したときにさまざまな対処資源をうまく利用でき、周囲の資源への信頼が増す経験だけを意味するものではありません。Antonovskyが重視したのは、自分に求められている要求と、それに応えるために利用できる資源との関係が、慢性的に過大な負荷にも、逆に過小な負荷にも偏りすぎない経験です。負荷が常に自分の資源を大きく上回っていれば、「どうせ自分には対処できない」という感覚につながりやすくなります。一方、何も要求されず、自分の力を使う機会がまったくない状態も、処理可能感を育てる経験にはなりにくいでしょう。ある程度の要求があり、それに利用できる資源を用いながら対応できるという経験の積み重ねが、manageability(処理可能感) を支えると考えられています。

(結果形成への参加の経験)
もう一つは、participation in shaping outcomes(結果形成への参加) の経験です。これは、自分自身が人生の重要な場面に単に居合わせたり、形式的に参加したりするという意味ではありません。自分に影響する重要な事柄について、自分自身も意思決定に意味のある形で関わり、結果を形づくる過程に参加していると感じられる経験です。言い換えれば、自分の運命がすべて他者の力や気まぐれによって決められるのではなく、「自分もここに関わっている」「自分の意見や選択にも意味がある」と感じられる経験です。このような経験は、人生や課題に「自分が関わるだけの意味がある」と感じる meaningfulness(有意味感) の形成を支えるとAntonovskyは考えました。

(一貫性のある経験)
最後が、consistency(一貫性) のある経験です。これは、「ルールを守れば幸せになり、ルールを破れば必ずペナルティを受ける」というような単純な賞罰の一貫性だけを意味するものではありません。自分を取り巻く人や環境から伝わってくるメッセージにある程度の明確さや秩序、構造があり、昨日と言っていることと今日と言っていることがまったく違う、何が起きるかまったく分からない、といった混沌や恣意性ばかりではない経験を指します。一定のルールや見通しがあり、何かが起きたときにも「なぜこうなったのか」をある程度理解できる環境で生活する経験が重なることで、世界はある程度秩序立っており理解可能だという comprehensibility(把握可能感・理解可能感) が形成されやすくなると考えられています。

(三つの人生経験をこれから詳しく見る)
このように、AntonovskyがSOCの形成を考えるうえで重視したのは、単純に「幸せな人生を経験すること」ではありません。要求と資源との間にある程度のバランスがあること、自分の人生に関わる重要な決定に参加できること、そして生活世界に一定の一貫性や秩序があることです。これらの経験が反復されることで、それぞれ処理可能感、有意味感、把握可能感の形成が支えられ、SOC全体が育まれていくと考えられました。次に、このAntonovskyが示した三つの人生経験について、もう少し詳しく見ていきましょう。