-----講義録始め------
さて、回想法(レミニッセンス)やライフレビューは、アメリカの精神科医ロバート・バトラーによって創出された心理療法の一つです。バトラーは老年期の特性に特に着目しました。
老年期において、過去にしがみついていると否定的に捉えられることがありますが、バトラーは語ることを通して自分の人生を回想し、振り返り、再整理することで、抑うつ状態を解消できるとしました。
回想法やライフレビューは、回想や振り返りの行為を通して自分の過去体験の意味付けを捉え直すことにより、それまで否定的であった人生を肯定的に捉え直すことを目指します。これは、老年期において自分の過去の人生を否定的に捉え、絶望していた人が、自分の人生を肯定的に捉え、統合に進む支援を行うことでもあります。
回想法は、黒川由紀子らによって日本に導入されました。その際、主に認知症高齢者への支援技法として取り入れられました。認知症高齢者に対する回想法は、集団療法で実施されることが多く、メンバーと実施回数を固定した形が多く見られます。
その中で、初期と軽度の認知症患者を対象に精神科物忘れ外来で実施された集団回想法では、5名前後の患者に心理専門職が3名(リーダー、コリーダー、記録者)が入り、1回のセッションが約60分、全5回の構成で実施されていました。その心理的援助の意義は、病識の持てる軽度認知症の人という制約がありますが、疾患に伴う不安や喪失体験について、集団の中での回想を通じて語り合い、疾患を外在化し、自分らしさの喪失感やそれに伴う被害を参加者同士で共有できる場を提供し、疾患を抱える自分と向き合うことを支援するものでした。
ライフレビューは、主に個人療法として用いられます。ライフレビューの定型化した手法も提示されています。ライフレビューを用いた援助面接として、林智一は、末期の60歳の女性と、10年前に夫を亡くした69歳の女性のライフレビューによる個人心理療法を紹介しています。前者は、不安神経症と診断された悪性腫瘍による末期でした。週1回のベッドサイド面接が1年余り実施され、ライフレビューの過程で神経症状は増悪せず、安らかに息を引き取りました。後者は、クライアント自身が嫁姑問題を主訴として面接を受けましたが、約4年の面接経過で、10年間棚上げにしてきた夫の死に対する心の整理をライフレビューを通して行うことができ、再統合を促進しました。
林は、統合という課題は、ライフレビューの潜在的推進力であり、ライフレビューが究極的に目指すものであると述べ、ライフレビューは、自己の人生の肯定的側面と否定的側面の両面を踏まえて、自己の唯一のライフサイクルを受け入れていくことを可能にするとともに、ライフサイクルの連続性の中に自己を定義する機能も有すると指摘しています。回想法やライフレビューの心理療法に見られるように、集団援助や個人援助として、認知症に限らず、人生の統合期における高齢者への心理支援の必要性はさらに増してくるため、その知識と技能を磨くことが重要であると言えるでしょう。
