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高齢期の心理的変化と喪失への対応#放送大学講義録(成人の発達と学習第2回その6)

ーーーー講義録始めーーーー

 

時間の感覚の変化

生物学的な加齢だけでなく、心理的変化ということにも目を向けてみたいと思います。高齢期になりますと時間の感覚が変化し、どのように充実して過ごすかということを強く意識すると言われています。そのため高齢期になりますと人生を振り返って考えることが多くなると言われますが、この事は本当でしょうか。

別府:「いいえ、活動的に過ごしている間は過去を振り返ることがあってもそう多くはないですよね。」

岩崎:「そうなんですか。そうしますと、高齢期の人が皆過去を振り返っているわけではないのですね。振り返るというのはある程度自分と向き合う時間が多くできる状況になってからということですか。」

別府:「そうだと思います。ただ私の場合ですね、時間の感覚が変わりますね。若い時は現在から未来を考えましたが、70歳近くになると未来から現在を考えるようになりました。人生の終わりを意識するようになったということでしょうかね。」

岩崎:「なるほどね。高齢期ではその時その瞬間を生きているという意識が強くなるので、若者よりも時間の感覚が緊迫感を持ったものになるのかもしれないですね。しかしそうしますと、限られた時間の中で自分にとって何が最も重要なことかを考えるようになるんでしょうかね。」

別府:「本当にそう思いますね。自分にとって大事なことが見えてきますよ。」

岩崎:「そうしますと、時間の展望に限りがある高齢期になれば、逆に若い時よりも楽しい時間を過ごすことも可能かもしれませんね。」

別府:「まさにその通りですね。高齢期だからこそ手に入る充実した時間もあるわけです。」

社会的つながりの重要性

岩崎:「そうすると、高齢化と社会的つながりのことについてはどうでしょうか。」

別府:「それも確かですけれども、でもストレスの多いつながりも世の中にありますからね。社会的なつながりが何でもいいというわけじゃないですよね。周囲の人と生き生きした楽しいつながり、これが大切なんですよね。また現在が楽しければですね、過去の辛いことや嫌だったことが好転することができるようになるというふうに言われてます。過去は変えられないんですけれど、経験の意味というものは変えることができるんじゃないでしょうかね。よく言う『終わりよければ全てよし』というその言葉の通りじゃないかと思いますよ。」

岩崎:「『終わりよければ全てよし』というような言葉になるような人生を過ごしたいと思いますね。」

コンボイモデルと愛情のネットワーク

これは、気持ちの上で満足することを行いたいと考え、これまでの人間関係のうちより重要なものを選択し、限定した付き合いを選び満足を求めるようになると言われます。

それでは実際、高齢になるとどのような人とつながっているのでしょうか。自分の支援者の種類や数に関する研究の例として**コンボイモデル(Convoy Model)**と呼ばれるものをご紹介します。

印刷教材のライフコースにおけるコンボイ構成の変化を見てください。コンボイモデルは自分を中心として同心円状に、助けてくれそうな人や組織の名前を書いてもらいます。

コンボイとは「護送船団」や「トラックの集団」という意味があります。アメリカでは大型トラック運転手の歌として、かつて「コンボイ」という歌がヒットし、歌に基づいて映画も制作されましたので、この言葉をご存知の方もいるかもしれません。

別府さんも学生に教える際に、コンボイモデルと類似した「高齢期の愛情ネットワーク」という図を用いて授業されていたということですよね。

別府:「はい。今ご紹介があったモデルの図とほぼ同じなんですが、私の場合は愛情のネットワークというふうに呼んでおりました。コンボイモデルと同じく同心円の中にですね、高齢者の方に『自分が困ったときに助けてくれる人の名前をできるだけたくさん書いてください』と頼むわけですね。するとたくさんの名前が書けた方と全く書けなかった方がいらっしゃいました。数年後、追跡調査をしてみて、助けてくれる人の名前がたくさん書けた方とそうでなかった方では死亡率が3倍以上違うんですよ。」

「実は私がこの調査で興味を持ったのは、助けてくれると思った人がですよ、実際に助けてくれるかどうかっていうのはわからないことですよね。だから結局は周囲や知り合いを信頼できるかどうかってことですよね。楽観的な人がいいってことでしょうかね。だから楽観的な考え方が長生きにつながるのかなと思いますね。高齢期は喪失の時期と言われていますけれども、実際には得るものも多くてですね、社会で言われているほど悲観的になることはないと思いますね。」

岩崎:「そうですか。この愛情のネットワークで明らかにされているのは、実際に助けてくれるという事実よりも、楽観的に誰かが助けてくれるということを考えられるということにあるというのは面白いところですね。」

別府:「そうですね。ポイントは周囲や知り合いを信頼できるかどうかってことでしょうね。困った時に助けてくれると楽観的に信じることができる人が長生きするというお話を伺いました。」

岩崎:「そうですね。楽しいと感じると免疫力を高めるホルモンが出るというふうなこと聞いたことがあります。そういうわけでぜひ楽しむ能力を高めたいですよね。」

別府:「そうですね。免疫力を高めるためにも、そして加齢にうまく対応するためにも楽観的であることがとても大事であるということがわかります。」

喪失への対応

岩崎:「しかし一方で、先程別府さんのお話もありましたけれども、高齢期の特徴的な問題は喪失にあると言われています。この時期は他の年齢期と異なって立て続けに喪失、つまり新たに獲得するよりも失うものが多くなるのです。白髪や老眼、体力の低下など身体的喪失は最も目立った変化でしょう。高齢になりますと多くの人が病気を抱える割合が多くなって、その状況が長期化します。特に健康や身体面で上手くやってきた人ほど動揺するとも言われていますね。」

「身体的変化に伴う社会的役割の喪失、社会的責任の喪失、所属団体の喪失などもあります。退職に伴う収入の低下などの経済的な損失もあるでしょう。確かに高齢期になりますといろいろありますよね。その他、配偶者やペットの死、引っ越しによる親しい友人との別れなどは大きな悲しみを伴う喪失の体験です。」

「話をしているだけでもとても気が滅入ることばかりですから、当然ながらこれらの様々な喪失は私たちに大きなストレスをもたらすものでしょう。この喪失によってもたらされるストレスにうまく対処するにはどうしたら良いのでしょうか。」

別府:「そうですね。喪失体験からの立ち直りには周りの人の関わりが大切なんです。配偶者を突然亡くされた方はですね、同居のお孫さんの優しさにとても助けられたとおっしゃってましたよ。」

岩崎:「そうなんですか。ストレスに対処するには人間関係や親しいグループを持つことが重要ということですね。身近な人が支えてくれるか。家族が挙げられますが、職場の人だったり、仕事があること自体が良いこと。気分の転換もできるし経済力も。身体的な健康など恵まれた環境に。性格が良い、知覚能力が良いとか、精神の柔軟性を持って変化にも対応できる力を。レジリエンス(resilience)ですね。」

「このように研究ではいろんなことが明らかにされておりますけれども、別府さんはご自身の体験の中で何が重要だと思われますか。」

素敵に歳を取るための5つの共通点

別府:「そうですね。喪失に適応するためというより、私も『あんなふうに歳を取りたいな』と思うような高齢者の共通点をぜひ紹介したいですね。」

岩崎:「そうですか。私もぜひ知りたいので、その共通するものというものを教えてください。」

別府:「はい、それでは5つほど挙げてみましょうね。」

1. いつまでも過去の栄光にこだわらないこと

2. 衰えた自分の体力・知力を過度に悲観しないこと

岩崎:「私なんか、歳を経てできないことが増えてくるとすごく悲しくなってしまいそうですけれども。」

3. 自分が何をしたいか、何が楽しいかということを知っていること。つまり自己理解が正しくできていること

岩崎:「これは難しくないですか。」

別府:「はい、皆さん自分のしたいことを聞かれても、実はなかなか答えられないんですよね。」

岩崎:「そうでしょうね。何が楽しいかがわかる人は人生が豊かになりそうですけれどもね。他2つは何ですか。」

4. 積極的に行動すること。始めなければ何も変わらない

岩崎:「どうやったら積極的に行動できるようになりますか。」

別府:「それはやはり自分が何をしたいかを知っていることだと思います。」

岩崎:「そこに行くんですね。」

5. 周囲との付き合いを大切にしつつ、一人でも楽しめること

別府:「これはまたやっぱり大事ですよ。いつも人を必要とするということは人に依存することになっちゃいますのでね。」

岩崎:「そうすると孤独に強いということでしょうか。それとも違いますか。」

別府:「孤独というのと孤立は違います。孤独は長く生きた分だけ、身を処している能力を身につけます。とても重要なことだと思います。高齢者は長く生きたから、多くの方はですね、財産とか名誉とかあるいはお子さんがいても、それが必ずしも幸せにつながらないことを知っておりますけれども、中には過去にこだわって現在を楽しめない方も多少いらっしゃいますよね。今を楽しく生きるには、強かった過去の自分も弱ってきた現在の自分も両方とも謙虚に受け入れるという必要があるかなと思いますね。」

岩崎:「なるほど。そうしますと、あるがままの姿を受け止めるということが楽しく生きる一番であるということなのでしょうね。」