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自閉症スペクトラム障害(ASD)の原因は未特定で、遺伝的・環境的要因が関与。出現率は国際的に増加傾向にあり。(障害者・障害児心理学第12回)#放送大学講義録

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次に、自閉症スペクトラム障害の原因について話をします。

自閉症スペクトラム障害の原因はまだ特定されていません。しかし、ウィングらの指摘以来現在まで、何らかの脳の機能障害がその原因であるとされています。それ以前は、しつけの仕方や愛情不足など、保護者の育て方が原因なのではないかと言われていましたが、現在では完全に否定されています。

脳の機能障害が生じる一因として、遺伝的要因と環境的要因が組み合わさったことによる発生が疑われています。しかしながら、今のところ明確なことはわかっていません。遺伝子については、自閉症スペクトラム障害に関して100を超える候補遺伝子が見つかっていますが、すべての自閉症スペクトラム障害の症例に共通する特定遺伝子の変異が観察されているわけではありません。ただし、自閉症スペクトラム障害に対する遺伝因子の寄与の割合は、従来考えられていたほど高くはないのではないかと言われています。自閉症スペクトラム障害者の脳は生まれた時はやや小さめであり、2歳から5歳の段階で容量が正常範囲を逸脱して大きくなり、その後成人段階では定型発達と変わらなくなります。幼児期の脳の容量の増大は、前頭葉、側頭葉、頭頂葉の高機能を司る領域で起こり、これが複数の領域を結びつける神経回路形成の失敗を意味しているのではないかと考えられていますが、これについても結論は出ていません。

原因に関してはまだわからないことばかりの自閉症スペクトラム障害ですが、一体どのくらいの割合で存在するのでしょうか。次はその疫学について話をします。国際的には、自閉症スペクトラム障害の出現率は160人に1人の割合と言われています。しかし、これはいくつかの研究の平均的な出現率であり、よくコントロールされた研究では自閉症スペクトラム障害の出現率はさらに高くなります。その代表的な研究が、8歳児を対象にした米国疾病予防管理センター(CDC)の定期的な統計で示されています。2004年の疫学調査では166人に1人でしたが、2014年の調査では88人に1人と倍になり、そして2018年の調査では59人に1人とさらに増えています。特に増えているのは、知的障害のない自閉症スペクトラム障害と診断される人たちです。自閉症スペクトラム障害が増加している理由については、認識の向上、診断基準の拡大、診断用ツールの質的向上などがWHOにより理由として挙げられているほか、教育、福祉における提供サービスの充実などもその理由なのではないかと考えられています。その一方で、自閉症スペクトラム障害そのものが増加しているのではないかということも最近では考えられるようになってきています。