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自己決定学習のプロセスと理論モデル(成人の発達と学習第8回)#放送大学講義録

ーーーー講義録始めーーーー

 

さて、自己決定学習をめぐっては、研究者によっていくつかのモデルが提唱されています。例えば、自己決定学習における学習者の役割に注目した例として、「個人責任志向モデル」というものがあります。少し難しい名前のモデルですね。

そうですね。翻訳なので、日本語では分かりづらく感じるかもしれませんね。

ええ、英語では「Personal Responsibility Orientation」と呼ばれています。このモデルは、自己決定学習の指導方法や学習プロセスに加え、学習者の個人特性を考慮するものです。このモデルでは、自己決定学習は、指導プロセスによって規定される内容と、学習者の個人特性による方向付けの2つの要素から成り立っています。

指導者は、学習を促し支援するファシリテーターとして、学習者が学習計画を立て、実行し、評価する際に、学習ニーズを診断し、学習情報を提供し、学習方法や評価方法の選択を手助けします。一方で、学習者は、学習が行われる状況や要因も考慮しながら、最終的には学習が個人の責任であると考えます。

このモデルはその後、学習を人、プロセス、文脈が相互に交差するダイナミックなものとして捉える点から、「人・プロセス・文脈モデル」という名称に変更されましたね。
赤尾先生、この「人・プロセス・文脈モデル」について説明していただけますか。

はい。このモデルでは、「人」「プロセス」「文脈」の3つに、それぞれ自己決定学習において重要な要因が特定されています。例えば、「人」については、創造性、批判的思考、情熱、生活経験、生活の満足度、動機、これまでの教育歴、レジリエンス、自己概念などが含まれます。

「プロセス」としては、ファシリテーション(支援)、学習スキル、学習スタイル、学習の計画・実施・評価に関する能力、指導スタイル、テクノロジーに関する技能など、指導と学習の相互作用が重要視されます。そして「文脈」については、文化、権力、学習環境、財政、ジェンダー、学習の雰囲気、組織的な施策、人種、政治環境など、自己決定学習に影響する要因として挙げられます。これらが相互に関わり合って自己決定学習が進むという考え方です。

なるほど。このほかにも、自己決定学習を「学習活動への動機付け」「自己管理」「自己モニタリング」の3つの要素から説明するモデルもあります。ここでの「自己管理」とは、学習資源の活用法や学習時間の管理を指します。また、「自己モニタリング」は、自分が行った学習を振り返り、批判的に考えるプロセスであり、最も重要視される部分です。

このように、自己決定学習についての様々なモデルがあることから、自己決定学習は現実よりも理想を表現したものと考えられます。いずれにしても、自分で学習を計画し、実行し、評価するというサイクルを自己管理し、モニタリングすることは、非常に高度な能力と強い意志が必要です。

そのため、このような自己決定学習を可能にする資質や能力の育成を目指し、学校教育においても、探求型学習やアクティブラーニングなど、主体的で自発的な学習者を育成するための新たな学習活動が重視されるようになっています。