F-nameのブログ

はてなダイアリーから移行し、更に独自ドメイン化しました。

自己決定学習の目標とその意義(成人の発達と学習第8回)#放送大学講義録

ーーーー講義録始めーーーー

 

自己決定学習は、自分で学習を計画し、実施し、評価するプロセスや、その学習成果を指します。では、自己決定学習で目指されるものは、具体的にどのようなことなのでしょうか。ここでは、自己決定学習の目標として挙げられる3つの点についてお話ししたいと思います。

自己決定学習の目標の第一は、自己決定能力の向上といった個人の成長です。私たちは根源的に「より良い自分になりたい」という自己実現欲求を持つとされています。これは、自己実現に向かって人間は常に成長すると唱えたマズローなどの人間性心理学の考え方に基づいています。自己決定学習の1つの目標は、この自己実現のための個人の成長にあると言えます。ちなみに、成人学習の研究者が自己決定学習について研究する際、多くの場合はこの個人の成長に関するものです。

目標の第二は、学習を通じてものの見方が変容する変容的学習を促すことです。変容的学習については第9回で改めて取り上げますが、代表的な研究者であるジャック・メジローによれば、変容的学習とは、過去に無批判に受け入れていた前提や信念、価値観、ものの見方を問い直し、より解放的で深く内面化された認識へと変わるプロセスを指します。このプロセスにおいて、学習と内省が同時に行われるとき、自己決定学習の最も望ましい形態が生じるとも言われています。つまり、学習を通して個人の自己認識やものの見方が変わることが、自己決定学習の重要な目標の1つなのです。

そして、目標の第三は、自分が属する社会の前提を問い直し、意識化させる解放的学習を行い、社会変革に向けて行動を起こすことです。解放的学習とは、貧困や非識字といった状況、さらには社会の不平等や社会変化に対する生活状況の認識を高め、それに対して行動し、内省を繰り返すことで自己を解放するという考え方に基づく学習です。