ーーー講義録始めーーーー
さて、子どもが生まれると親が育てますが、社会もまた、文化的に白紙の状態で生まれる子どもを、良き社会の構成員として文化的に成熟させる義務を負っています。つまり、社会にも子どもを成人へと成長させる役割があるのです。このプロセスは「社会化」あるいは「文化化」という言葉で表されます。学校教育は、既存の社会構造のもとで、子どもに文化を伝える組織的な仕組みです。そのため、学校教育では、社会の存続と発展を目指し、将来の社会を見据えて子どもに文化を伝えることが重要です。
しかし、社会学者のジグムント・バウマンは、現代社会を「リキッドモダン(液状近代)」と表現しています。彼によると、現代社会は、そこに生きる人々の行為が一定の習慣やルーチンとして固まる前に、その行為を取り巻く条件が次々と変わってしまう「流動的な社会」だと言います。このように変化が激しく、不確実な社会においては、文化を伝えるために教育制度を設計するのは非常に難しいことです。
社会の変化が急速で、将来を予測するのが難しい時代では、学校教育で教える知識がすぐに古くなってしまい、役に立たなくなることもあります。そのため、子どもたちには知識そのものを教えるだけでなく、自ら学び続けるスキルを身につけさせ、どのような社会変化にも対応できるようにすることが重要です。この点において、学校教育は生涯学習や継続教育を視野に入れたものへと変わりつつあります。
成人学習の理論家であり、今後の講義でも取り上げるマルコム・ノールズは、学校教育においても子どもたちが「学び方を学ぶ」ことを支援し、自己決定的な生涯学習のプロセスを体得させることが必要だと主張しています。つまり、子どもたちに知識を伝えるだけでなく、社会の変化に対応するための学習能力を育てることが、将来彼らが変化する社会の中で自分を守る手段となるのです。
学習は、社会が変化する時にこそ強く意識され、必要とされるものです。