ーーーー講義録始めーーーー
それでは、私たちを取り巻く変化にはどのようなものがあるのでしょうか。その具体例を考えてみましょう。
まず、近年、産業社会から情報社会への大きな変化が起こりました。産業社会では主要な技術は機械技術であり、機械を操作するために肉体的な能力、つまり体力が求められていました。そこで重要な価値は物質的な豊かさであり、社会構造は階層的で、中央集権的な官僚制に基づいた縦の構造が主流でした。情報は主に中央政府や企業に集中していたのです。
産業社会では、社会変動をもたらす中心は労働運動にあり、職業は固定化し、産業構造は安定していました。しかし、情報社会に移行すると、コンピュータ技術の進展により、精神的な能力や知識、そして情報量が重視されるようになりました。力仕事に依存しない環境が増え、女性も労働力として活躍する領域が拡大していったのです。
情報が拡散し、誰でもアクセスできるようになると、縦の権力構造から、分散型の水平なネットワークが広がり始めます。社会変動の中心は市民運動に移り、これまでになかった新しい職業が次々に生まれるようになりました。
私たちは、このような変化の中で生活しています。社会構造の変化だけでなく、就業状況の変化、人口動態の変化、技術革新など、さまざまな社会の変化を経験しているのです。例えば、先進国で進行している長寿化と少子高齢化の傾向を成人学習の観点から考えてみましょう。長寿化や少子高齢化は、高齢者人口の比率が高くなることを意味します。
結果として、社会は青少年型から成人型にシフトし、学校教育を受ける人口よりも生涯学習を行う人口が相対的に増加します。日本のように平均寿命が80歳を超える長寿社会では、個人の人生に占める学校教育の比重は小さくなり、社会人になってからの自己啓発や自己学習の時間が相対的に長くなるのです。このような学校卒業後の長い人生で、私たちは社会の変化に対応するために、計画的に学習を進めていく必要があります。
学校教育でも、各自が生涯にわたって学習できるように、自分で学び方を身につけることが期待されています。これからも私たちは、予測できない社会の変化に直面し、それを乗り越えていかなければならないでしょう。
フランス・パリに本部を置く経済協力開発機構(OECD)は、未来の教育に影響を与える主要な変化を「グローバリゼーション」「国の将来像」「都市生活」「家庭生活」「テクノロジー」といったテーマに分け、それぞれに対応した具体的な施策を提案しています。印刷教材に記載されている、これら社会変化に対応する教育施策もご確認ください。
例えば、生涯学習の分野では、高齢者を労働力として再教育する施策や、健康リテラシーなど高齢者向けの生涯学習が重要視されています。また、家庭生活の領域では、高齢者や高齢化した労働者向けの適切な生涯学習の提供が強調され、テクノロジーの分野では、個々のペースで進められるeラーニングや、職場でのインフォーマルな研修を実施することが提案されています。
これらの変化に対応し、経済の維持・成長を目指すためには、時間と場所にとらわれないeラーニングや職場での継続学習、そして高齢期におけるさらなる学習が期待されています。