ーーーー講義録始めーーーー
さて、話を変えて、成人が学習する場について触れてみたいと思います。成人になってから学習する人々は、どのような場所で学んでいるのでしょうか。成人学習者が学ぶ場としては、まず学校や大学などの教育機関を思い浮かべる人が多いでしょう。
成人学生が多いアメリカでは、大学や地域のコミュニティカレッジが主要な学習の場です。アメリカの大学で学ぶ学生層を、年齢や希望する学位に応じて分類した例によると、学生層は「伝統的学生」「準伝統的学生」「非伝統的学生」に分けられます。伝統的学生は、大学のキャンパスでフルタイムで学ぶ正規学生、準伝統的学生は、夜間などにパートタイムで学ぶ学生、そして非伝統的学生は、オンラインなどの通信制で学ぶ学生です。
実際、1990年代にアメリカで顕著に増加したのは、大学キャンパスで学ぶ伝統的学生ではなく、オンラインなどの通信制で学ぶ非伝統的学生でした。この非伝統的学生は、アメリカの高等教育における学生人口の半数近くを占め、その多くは常勤職に就いている社会人です。
では、日本ではこのような通信制大学を活用する社会人学生が増えているのでしょうか。日本では、土日や夜間開講の大学や大学院といった、社会人が入学可能な高等教育機関が1980年代の臨時教育審議会の答申以降に創設されました。これを受け、大学審議会が社会人学生の入学資格の緩和や夜間大学院の設立、昼夜開講制を推進しました。それまで日本の大学は、高校卒業後の若年層が中心でしたが、社会人の再学習を目的とした制度が整備され始めたのです。
しかし、欧米諸国と比較すると、日本の社会人学生の割合は極端に少ないと言われています。日本の社会人学生の多くは、学部、修士、博士、専門職学位のいずれにおいても、通信制を利用して学んでいるのが現状です。つまり、社会人が学習する時間や場所の制約が依然として多いということです。
大学などの高等教育機関以外にも、学習機会を提供する公的機関や組織について考えてみましょう。例えば、図書館、美術館、博物館、公民館などが挙げられます。これらの社会教育施設は、独学や自己学習の場として非常に大きな役割を果たしています。独学で知識を深めた著名人たちは、図書館や博物館などの公共施設を活用していました。
アメリカの社会哲学者エリック・ホッファーは、学校教育を受けておらず、18歳で孤立してから日雇い労働をしつつ図書館で学び、数学や科学、地理などを独学で習得したと言われています。彼はその後、カリフォルニア大学バークレー校で教授に就任しましたが、学びを続けることが、彼の人生を大きく変えたのです。
また、日本の博物学者であり民族学者でもある南方熊楠も、イギリス滞在中に大英博物館の図書閲覧室で膨大な書籍に触れ、日々学びを続けました。これらの例は、意欲さえあれば、社会教育施設を活用して独学し、知識を深めることができることを示しています。
成人が学習する場として、大学などの高等教育機関、図書館、博物館、公民館などの社会教育施設が大きな役割を担っています。加えて、公開講座、NPOの講座、カルチャーセンター、ボランティア活動など、私たちの周囲には多くの学習機会が存在します。成人向けの学習機会は整備されてきているので、自分の興味や関心に合ったものを見つけ、積極的に学習の場に足を運ぶことが重要です。