ーーーー講義録始めーーーー
この講義の最初に、社会的変化によって成人である私たちは学習を必要とする状況に置かれている、という話をしました。それでは、このような変化を意識して実際に成人学習を行っているのはどのような人々なのでしょうか。成人学習を行っている人々の特徴についてお話しします。
アメリカでは、成人学習者の特徴を明らかにするために、人種、地域、学歴、年収などに関する調査が繰り返し行われていますが、どの調査でも一貫しているのは「学歴が高く、若く、高収入の人々が学習している」という傾向です。そして、成人になってからの学習活動に特に関係が深いのは、それまでの学習経験です。過去に学んだ人ほど、さらに学習を続ける傾向にあるのです。
それでは、日本の成人学習者の特徴はどうでしょうか。国立教育政策研究所の調査によると、日本の成人学習者の特徴は、地域や学歴、年収による違いというよりも、就労形態による差が見られます。調査では、正規雇用者、非正規雇用者、専業主婦、求職者、無業者の5つに分類し、それぞれの学習目的、学習費用、自由な時間の有無について調べました。
調査結果によると、正規雇用者は自分で学習計画を立てて実施できる人が多く、学習費用を負担する余裕はありますが、学習に使える時間が限られています。そのため、職場での研修や限られた自由時間を使って独学することが多く、職業上の必要性や興味・関心を動機に学習しています。
非正規雇用者は、職業に直結する学習を希望し、外部からの学習支援が必要な場合もあります。学習費用は低額であることが望ましいとされています。専業主婦は、学習に費用をかけたくない、もしくは無料で提供される学習機会を希望しており、日中の自由時間を使って公民館や図書館で無料の講座や講演会に参加することが多いようです。求職者は学習意欲があるものの、自主的に学習する能力が低く、適切な指導が求められます。無業者はさらに学習意欲が低く、積極的な支援や社会福祉的な介入が必要です。
求職者と無業者の違いは、仕事を求めるかどうかという意欲にあります。求職者は意欲があるため、学習支援を受けることで再就職につながりますが、無業者に対しては、まず意欲を引き出すための支援が必要となります。学習は自発的な活動であり、そのため成人学習者には偏りが見られます。過去の学習経験が、その後の学習に大きく影響するのです。
また、学習は家庭の文化的資本、つまり家にある書籍やコンピューター、家族の知識や情報、価値観の影響を受けるとも言われています。学習機会をうまく活用するのは、学習に対して肯定的な態度を持ち、学習スキルを持つ人々です。こうした学習経験の違いが成人学習に強く影響し、学習の機会を持つ者と持たざる者の間で格差が広がっているのが現状です。
成人学習には、社会や個人を変革する大きな可能性がありますが、そのすべての人がその恩恵を享受するためには、学習環境の整備や学習支援がますます重要になります。学習意欲や学習スキルの有無が、人生の豊かさに大きく影響を与える現実があります。次回からはゲストをお迎えし、成人学習の実際の事例を紹介しながら、皆さんと一緒に考えを深めていきたいと思います。