ーーーー講義録始めーーーー
仮説4:学習への方向付け
次はノールズの第4の仮説ですが、それは学習への方向付けは、学んだことが生活や仕事の課題に結びつき、課題達成や問題解決が志向されるというものです。
堀先生:そうですね。子どもは学校教育において教科中心的な学習を方向づけられている。これに対して、大人の学習は生活中心、課題中心、問題中心ということです。現実的な問題解決に焦点が当てられます。
大人は最も自分にとって有益である学習を重要視します。その多くは、目の前の関心事である課題や問題に対処する場合などですが、そこで動機付けが起こります。そのため、新しい知識やその理解、技能、価値観、態度など、学習で習得されたものによって現在の生活における課題を達成し、問題を解決することが可能だと見通せる場合、大人はより効果的に学ぶことができるということになり、そしてそのための支援も望みます。
つまり、学習は生活や仕事に結びつく実践的な意味を持つことが好ましいとされ、学習を計画することへの情報提供や選択肢の提示などのガイダンスといった形で支援を求めます。大人の学習は学校や大学といった制度的な学習に限られず、さまざまな場での実践や経験と結びつきながら進む、こういう特徴があるということですね。PMC+1
なるほど、確かに大人の学習は生活中心、課題・問題中心で、現実的な問題解決に焦点が当てられるというのはそうですね。
仮説5:内発的動機づけ
次に、ノールズの仮説の第5は、成人は動機づけにおいて外発的な要因も無視できないものの、むしろ内発的な要因が重要になりやすいというものです。
堀先生:はい。このことに関しては、大人は学ぶ必要があると思ったことだけを学ぶとよく言われます。成人の学習では、学びたいという思いは重要なんです。
より良い職業や給料が上がるといった、そういう外発的な状況要因だけではなく、満足度が上がる、自尊心が高まる、生活の質が上がる、自分自身の成長や発展につながるといった内発的な要因によって学習に動機づけられることが多いということですね。
本当にそうですね。
仮説6:学ぶ理由を知る必要性
次に、ノールズの仮説の第6は、成人は学ぶ理由を知っておく必要があるということです。
堀先生:そうですね。この柱は、のちに第6の柱として挙げられることが多いのですけれど、大人はニーズに沿って適切で、自分たちの求める目標を達成するのに役立つものを学ぼうとします。しかし、そうではあっても、大人は何かを学び始める前に、なぜそれを学ばねばならないのか、それを知る必要があると言われます。
もし、学習者が学習を始める前に、学習することがなぜ必要なのかを考えていれば、学習に対する動機はより強くなるでしょう。そのため、成人教育者や学習支援者は、学習者が学習の必要性を理解するような支援をすることが重要だということになります。
堀先生、ノールズの6つの仮説についてのご説明をありがとうございました。
6つの仮説の一貫性
さて、ノールズの6つの仮説は皆さんに当てはまっていたでしょうか。堀先生、この仮説について、さらにコメントがあればお願いします。
堀先生:そうですね。これらの仮説において一貫する考え方は、知識を得てから後で応用するというよりも、その場での活用、つまり生活や仕事の課題に結びつく形での知識の活用が重視されやすい、という点だと思います。
そのため、学習への方向付け、学習の志向は、教科中心的なものから課題達成中心的なものになると考えていいかと思います。
ペダゴジーとアンドラゴジーの違い
そうですね。このノールズの仮説に立脚し、子どもの学習の教授法であるペダゴジーと、成人の学習の教授法であるアンドラゴジーとの違いを具体的に考えてみましょう。
私たちの小学校時代の教室での授業風景を思い浮かべれば分かるように、子どもに対する教育は、社会の構成員として自立した社会人を育てるために、同年齢集団に対して、教師により、教室において教科書や教材を用いて標準化されたカリキュラムにより教科内容の教授が行われます。ここで行われる学習は、社会による将来への投資というわけです。
一方、成人の場合は、現実生活の課題や問題への対応を目的に、自分の意思で学習するのです。その場合の学習資源はそれぞれが有する経験であり、それを生かすための学習方法として、討論、問題解決、事例研究、シミュレーション、ワークショップなどが用いられます。
このように、子どもの学習と大人の学習とは異なり、教授法もそれに応じて違ってくるということなのです。ノールズは、このように成人学習の特徴を明確にし、子どもの学習モデルとの違いを説明する枠組みとしてアンドラゴジーを提示したということになります。


