ーーーー講義録始めーーーー
内発的動機づけの重要性
先ほど小宮山さんから余裕、粘り強さ、真面目が学力向上には大事というお話がありました。同時に、このような余裕、粘り強さ、真面目といったものを持って学習しようという動機には、内面的なところからの興味や関心から生じる内発的動機と呼ばれるものが大事とされています。
内発的動機の根底には、知的好奇心と自律性、つまり自分を律することがあると言われています。
これに対して、先ほどの森高さんの歌の冒頭にも、「テストさえなかったなら学校は楽しいとこ、勉強は嫌いだった」というフレーズがありました。知的好奇心や自律性といった内発的動機づけに対し、外部からの報酬や罰、つまりテストでの評価などにより動機づけられる外発的動機では、人はなかなか勉強したい気持ちになれないことが多いわけです。
一般に、内発的動機の方が物事は身につきやすいとされています。
楽しい学習と記憶の関係
皆さんは、楽しい気分で学習したことは良い記憶として残っているものの、いやいや勉強したことはその時は覚えていても、後から振り返ると記憶から消えていってしまうことが多かったという経験はないでしょうか。
小宮山さんも、受験生を教える時とてもよくあったそうです。いやいややっていると覚えることも覚えられない。そういう子どもはいっぱいいたとのことです。
学習は自主的にやりがいや目的を持って、自己実現欲求や内発的動機づけに基づいて行われる場合、非常に大きな成果があると言われます。
フロー体験とは
学習に夢中になってのめり込むような精神状態にあることを、ハンガリー出身のアメリカ人心理学者であるチクセントミハイ(Csikszentmihalyi)はフローという言葉で表現しました。
学習においても、学ぶことが面白いという経験は、しばしばフローの状態に近い経験をしていることであり、学習の本質であるやる気を喚起するものなのでしょう。
言葉自体は「流れ」といった意味です。チクセントミハイの言う心理学におけるフローという言葉は、夢中になっている時の没頭している状態を指しますので、子どもの場合は学ぶというよりは遊んでいる時の状態かもしれません。
フローの状態では注意が強く集中しているので、その行為と無関係のことを考え、あれこれ悩むことに注意が割かれることはありません。自意識は消え、時間の感覚が変化するとも言われます。
小宮山さんのフロー体験
小宮山さんは、子どもを見ていて、フローというのは休み時間に夢中になって遊んでいる時だったのだと気づかれたそうです。
ご自身では、フローに近い状態というのは、単行本を書くようになってから度々経験されたとのことです。1冊の作品を書く前の準備として、まずテーマを決め、その後30冊から40冊の本を読みます。全体のプロットを組み立て、その後に一気に書くタイプだそうで、大体1ヶ月から2ヶ月で、比較的短い期間に400字詰め原稿用紙で300枚から400枚のものを書き上げるそうです。短い時は10日間の時もあったとか。
原稿を書いていて、流れにうまく乗ってくると、不思議なことに書きたいことが次から次へと出てくる。情景が浮かんでくる時がある。多分、その時は他のことを何も考えていなかったと思う。勝手に手が動いている感じ。これがフローな状態だったのかなと今考えると思われるそうです。
フロー体験の意義
成人学習は自発性に基づくものですので、このフローのように学習が楽しいということが、個人の学習を非常に強く動機づける要因の1つということが言えます。その意味でも、私たちが学習活動を行う中で、興味や関心を持って学習に夢中になり、フロー体験をもたらす時間を忘れて没頭できるような興味ある内容に巡り合うことができれば、本当に幸せなことなのでしょう。
参考図:内発・外発・フロー体験の整理(概念表)
※新しい事実ではなく、今回の講義内容と主要理論を結びつけて整理した表です。
| 視点 | 内発的動機づけ | 外発的動機づけ(統制的) | フロー体験(学習場面) |
|---|---|---|---|
| 動機の源 | 好奇心・関心・楽しさ・価値そのもの | 報酬・成績・罰の回避・他者の期待 | 活動それ自体が非常におもしろく、没頭している |
| 心理的条件 | 自律性・有能感・関係性の充足 | 強い外的コントロール、自律性の低さ | 高い挑戦 × 高い技能、明確な目標とフィードバック |
| 学習との関係 | 深い理解・持続的な取り組みと関連 | 短期的には行動を引き出すが、質や継続に不利なことも | 深い集中・時間感覚の変容・高いエンゲージメント |
| 講義での位置付け | 「興味・関心からの学び」の中心 | テスト・評価だけに頼る学びの危うさ | 学習が「楽しい」「夢中になれる」状態の典型例 |
