ーーーー講義録始めーーーー
1.問題提起:協働の学びを阻む教師主導の構造
中学1年生の冬、私は女子だけの吹奏楽部に所属しました。そこでは小グループごとにリーダー格が決まり、ピラミッド型の上下関係ができていました。転校生であった私は最下層に置かれ、いじめまがいの孤立を経験しました。そこで先生に相談しましたが、「みんなと仲良くしなさい」という指導しか得られず、最終的に私が部活を辞める形でしか解決できませんでした。
2.現状分析:教師の授業設計と生徒の主体性
実習先の先生は、「授業をあらかじめ筋道立てて計画するほうが教えやすい」「生徒の思わぬ発言を即興で取り入れるには高度な技術が必要」と話していました。しかし、このような教師主導の授業構成では、生徒が自分の意見を出しづらく、協働学習の場が形式的になりがちです。私は、子ども時代に「既定の流れを急いで進めなければならない」という空気を感じ、自らの考えを抑え込んだ経験があります。
3.理想像:区別ある協働と内発的動機づけ
道徳教育の目的は、単に「仲良くしなさい」と教えることではなく、子ども同士が「嫌いな相手でも協力できる技能」を身につけることにあります。たとえば国語のペア学習では、個人的な好き嫌いを超えて「授業だから一緒に取り組もう」「互いの解答を丸つけし合おう」といった区別ある協働を教える必要があります。これによって、「嫌いだから拒否する」という思考習慣を防ぎ、相互尊重と責任感を育みます。
さらに、子ども一人ひとりが「自分にとって格好いい振る舞い」や「なりたい自分」のイメージを自ら見つけ、内発的に動機づけられる学びの場を設けることが重要です。教師は自身の人格や指導技術を通じて、子どもが主体的に価値を発見し、自己実現への一歩を踏み出せるよう支援すべきです。
4.具体的提案:即興的対話と多様な活動の導入
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即興的対話の技術研修
教師が生徒の発言を深堀りし、授業の流れを柔軟に組み替えるためのワークショップを導入。 -
区別ある協働プログラム
学級活動や部活動で、苦手な相手との協働を経験し、役割分担を体験的に学ぶカリキュラムを実施。 -
内発的動機づけを引き出す教材開発
二つの立場を提示し、生徒自身が判断軸を探るディベート形式やプロジェクト型学習を拡充。
以上の改革により、子どもたちは他者への共感力と主体的な判断力を身につけ、「分かり合える場」と「分かり合えない場」を適切に扱いながら、自らの価値観を形成していくことができるでしょう。