ーーーー講義録始めーーーー
では、親族内承継を例に、株式などの財産を親から子へ移転するケースを考えてみましょう。
この図の例を見てください。現在の社長が会社の株式の80パーセントを持っている株主だとします。
現在の社長と次期社長は親子の関係です。現在の社長は、後継者である次期社長が安定して経営ができるように、社長が持つ株式をすべて次期社長に承継させることにしました。株式を承継させる方法としては、売買、贈与、遺言が考えられます。
まず1つ目の売買についてです。
この図は、株式の評価という観点で株式を分類したものです。株式には、上場会社の株式、つまり証券取引所に上場されている株式と、それ以外の株式があります。これ以外の株式を「取引相場のない株式」といい、中小企業の株式の多くがこれに該当します。取引相場のない株式は、上場株式と違い、株式の価格が市場で決まりません。
そのため、取引相場のない株式を売買する場合は、価格を決める必要があります。前にお話しした通り、売買は民法で定められていますが、民法は売買する価格の決め方までは定めていませんので、売買代金は当事者の合意で決めることができます。
株式を購入する後継者は、代金の資金調達をしなければならないため、できるだけ低い金額で株式を譲り受けたいと考えます。しかし、あまりに低い金額での譲渡を行うと、税法上、予期しない税負担が発生する可能性があります。時価よりも著しく低い金額で株式を譲渡すると、時価と譲渡価格との差額が贈与とみなされ、譲受人に贈与税が課される可能性があるのです。これを「みなし贈与課税」といいます。
そのため、取引相場のない株式については、一定の評価方法により時価を算定し、できるだけ時価に近い金額で売買することが推奨されます。
なお、株式を売却した場合、株式を取得した時の価格よりも売却時の価格が高い場合、その増加益に対して所得税が課されます。
このように、株式売買では、税金や資金調達方法などを十分に検討する必要があります。
次に、2つ目の贈与です。
現経営者が生存しているときに、後継者に株式を贈与することを「生前贈与」といいます。生前贈与では、贈与を受けた者、つまり受贈者に贈与税がかかりますが、前に述べた通り、歴年課税と相続時精算課税のいずれかを選択することができます。
生前贈与は無償で譲り受けますので、売買と違って買い取り資金を準備する必要はありませんが、贈与税がかかりますので、その納税のための資金は必要です。