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事業承継と遺留分問題を考える(人生100年時代の家族と法第13回)#放送大学講義録

ーーーー講義録始めーーーー

 

最後に、3番目の遺言について説明します。遺言とは、株式の所有者が後継者に自分の会社の株式を相続させるために遺言を作成する方法です。例えば、株式の所有者、つまり遺言者が以下のような遺言を作成します。

「遺言者は、遺言者が保有する株式会社Aの株式のすべてを長男Bに相続させる。」

ただし、2番目に説明した生前贈与の場合や、3番目の遺言による相続の場合、非相続人が死亡した後の相続において「遺留分」の問題が発生することがあります。遺留分とは、相続において特定の相続人に保障される最低限の取り分であり、相続の公平性を保つための制度です。

例えば、次のような状況が考えられます。現社長が生前に後継者となる子供の1人に対して、社長が保有する全株式を贈与しました。その5年後に社長が死亡し、生前贈与された株式以外に社長は他の財産を残していなかったとします。この場合、社長の相続人は配偶者と子供3人です。配偶者の遺留分は法定相続分の2分の1、つまり全体の4分の1、子供たちの遺留分はそれぞれ法定相続分の2分の1で、全体の12分の1ずつとなります。

しかし、後継者以外の相続人は、株式を除く相続財産がないため、遺留分が侵害されることになります。遺留分が侵害された相続人は、後継者に対して「遺留分侵害額請求」を行い、後継者は請求に応じて資金を捻出しなければなりません。しかし、後継者に自己資金がなかった場合、生前贈与で受け取った株式を売却する必要が生じます。ところが、取引相場のない株式であるため、簡単に売却することはできません。たとえ売却できたとしても、後継者が保有する株式が減少し、会社の経営に必要な議決権の過半数を失うことになり、安定した経営が難しくなるリスクがあります。

こうした事業承継に伴う問題を解決し、円滑な事業承継を実現するため、事業承継税制遺留分に関する民法の特例などが定められた「経営承継円滑化法」が2008年5月に成立しました。さらに、補助金や融資などの金融支援、後継者育成のための教育制度、ガイドラインやマニュアルの作成など、様々な公的支援策も提供されています。