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1950年代のアメリカで台頭した家族病理論は、統合失調症の原因を家族関係に求め、医療化し、家族主義イデオロギーを強化した。(家族問題と家族支援第7回)#放送大学講義録

何もかも家族の問題にするのは間違っているといえる。

 

-----講義録始め------

 

1950年代後半のアメリカにおいて、統合失調症の原因を家族関係の問題とみなす「家族病理論」が注目を集めました。この理論は、精神障害の理解と治療に対するアプローチに大きな転換をもたらし、家族を治療の重要な対象として位置づけることを意味しました。具体的には、精神疾患の発生や症状が個人の内部的な問題だけでなく、家族関係の病理に根ざしていると考えられるようになりました。

家族病理論によると、特定の家族内の相互作用パターンが、正常な自我形成を妨げ、結果として精神障害を引き起こす可能性があるとされました。この理論は、精神障害を個人の問題としてだけでなく、家族全体の問題として捉え直すことを提案しました。家族病理論の台頭は、家族を医療の対象とする「医療化」の一例としても解釈され、家族関係を医療実践の領域に取り込む動きとして位置づけられます。

この理論に基づく治療アプローチは、患者本人だけではなく、家族全体を治療計画に含めることを重視しました。家族病理論は、患者の症状を異常な家族環境に直面した合理的な反応として再解釈し、患者に対するスティグマを軽減しようと試みました。しかし、この過程で家族に新たなスティグマが付与されることにもなりました。

家族病理論の影響は複数の側面にわたります。第一に、患者の問題が家族関係の問題として捉えられるようになり、社会的問題を家族の内部に封じ込める機能を果たしました。第二に、家族主義イデオロギーを強化し、正常で健康な家族像を創出しました。この理想の家族像は、性別役割分業を基礎とし、成人のパーソナリティ安定化や子供の社会化をその主な機能とする近代核家族でした。

家族病理論の台頭は、精神医療における家族の役割と治療への関与に対する理解を深めるきっかけとなりました。しかし、同時に、家族に対する新たなプレッシャーやスティグマを生み出すことにもなり、現代の精神医療における家族支援のアプローチの発展に影響を与えています。家族病理論の提唱以来、家族を支え、患者のリカバリーを促進するための包括的な支援策の重要性が強調されています。