-------講義録始め-------
今回のテーマは、他者を認識する過程である対人認知について、社会心理学の視点からご紹介いたします。対人認知という言葉は聞き慣れない方も多いと思いますが、私が専門とする社会心理学という分野では、主要な研究テーマの一つとなっています。本日の講義では、この対人認知というテーマを通じて、社会心理学の魅力をお伝えできればと思います。
それではまず、社会心理学がどのような学問かというところから話を始めたいと思います。社会心理学というのは、その名前の通り、社会にまつわる事象を研究する学問です。ただ、ここでいう「社会」は、私たちが日常生活で用いる社会という言葉とは少し意味合いが異なります。私たちは普段、社会という言葉を、社会生活、企業社会、社会人など、人間の集団としての営みや何らかの共通項を持った人々の集まり、あるいは現実の世界といった意味で使用しています。
しかし、社会心理学という学問名は英語の「ソーシャルサイコロジー」の訳語で、この「ソーシャル」という単語は元々「仲間」を意味するラテン語から派生しています。そのため、社会心理学でいう「社会」もこの意味での社会であり、何らかの形で仲間の存在、あるいは他者の存在を仮定できる環境のことを全て社会と呼んでいます。そのため、社会を構成する他者がたった一人ということもあります。
また、「社会」という言葉のイメージから、しばしば社会心理学は集団行動や集団力学など、集団に関連した事象を扱う学問だと思われがちですが、それも正しくありません。皆さんは、「人間は社会的動物である」というフレーズを聞いたことがありませんか。これは、人間というものは自ずと仲間と関係を築き、その中で生活を営む動物だということです。このフレーズの起源をさかのぼれば、古代ギリシャの哲学者アリストテレスの著作に行きつきますが、現代においても人間は社会的動物であるということを実感する場面は多々あります。
実際、最先端の技術の多くは、SNSのように他者とのコミュニケーションを支援するツールやサービスに積極的に利用されています。また、最近では、同じく最先端の技術を駆使して人型のコミュニケーションロボットまで開発されています。「ロボット」という語には強制労働や労働者という意味がありますが、実際ごく最近までロボットと言えば産業用ロボットが中心で、生産性や作業効率を上げるための利用が主でした。しかし今では、コミュニケーションだけを目的としたロボットが次々と登場し、歓迎されています。
こうした様子を見ると、なぜ人はこれほどまでに他者とコミュニケーションを取ることを求めるのだろうかと思いますが、その一つの答えが「人間はいつの時代であっても社会的動物である」ということではないでしょうか。