-----講義録始め------
その診断前後からの心理支援、いろいろな意味での支援において、心理職が関われることや心理士に期待できる役割について教えていただけますでしょうか。
「心理の専門家は、もちろん認知症の診療の場で心理検査を行うことが多いですが、心理検査も大事です。ただし、単に検査を行うだけでなく、認知症とともに生きることがどういう体験なのかを考えながら心理検査をすることが重要です。心理検査だけが心理の仕事ではないので、検査をしている時でも、終わった後でも、認知症と共に生きることについて語り合い、感じ合うことが大切です。心理の専門家であるからこそ、一方通行のQ&Aではなく、お互いに思いを話しながら理解し合うことをしてもらいたいです。
認知症と診断されることが絶望ではなく、診断によって良いこともたくさんあると知ることが重要です。いろいろな体験を共有することで、時には喧嘩もするかもしれないし、時には妄想を持つかもしれないし、時には不安に怯えるかもしれませんが、そうした体験を共有することで、関係性が築かれ、世界に対する信頼を取り戻すことができます。そうすることで「生きててよかった」と感じることができるかもしれません。
心理士だからこそ、人と人との関係を大切にすることが重要です。心理士や精神科医のプロフェッショナリティは、エリクソンの言う「生き生きとした関与」を実現することです。どの年代でも心理的な発達に関係しており、90歳でも100歳でも可能です。認知症と共に生きるには大変な課題がありますが、それを乗り越えるためには心的発達が求められます。生き生きとした関与は、一緒に体験したり語り合ったりすることで築かれます。時には一緒に泣いたり、心配したり、怒ったりすることも大切です。そうした関係性の中で、信頼関係や世界との関係、そして自分自身の心理的な発展を得ながら、人生の最後を迎えることが望ましいです。
このような関わりを作る多くの人々が増えることが、我々の社会にとって非常に重要です。1つ1つの現場での支援が、いろいろな場所に届くことが大切です。」
専門家の話を聞いて、たとえ短期間の関わりでも、心理士としてご本人と生き生きとした関わりをすることが終末期までの関係性の基礎になると感じました。そして、そのような現場が一つ一つ増えていくことが重要だと感じました。