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認知症高齢者の不動産契約リスク(暮らしに活かす不動産学第11回)#放送大学講義録

-----講義録始め------

 

「ちょっとお母さん、それ本当?その人の連絡先を教えて。

わかった。じゃあまた電話するから。うん。じゃあね。」

「今度は何があったの?」

「いや、なんか突然人が訪ねてきて、マンション買いませんかって言われたらしい。今買っておけば10年後には500万円は高くなるって。」

「あなたのお母さん、マンションを買うお金があるの?」

「自宅を担保に借りるとかなんとかって。この間電話がかかってきた時、最近よく物忘れをするとか、買い物に行く道を間違えるとか言ってたから、認知症かもしれないから病院に行ったらって勧めたばかりなんだよ。とにかく、明日その人に電話してみる。」

 

太郎さん、花子さん、悩んでいましたね。認知症のお母さんが不動産契約を結ぶことが有効でしょうか。心配ですね。教えていただきましょう。

太郎さんと花子さんの会話のように、高齢者と不動産をめぐってトラブルになることがあります。最も深刻なケースは、高齢者が不動産を売却した際に、その契約の有効性が争われることです。そこでの争いのポイントは、認知症などにより正常な判断ができない状態にある高齢者が、契約を有効に結ぶことができるかどうかという点です。有効な契約を結ぶためには、意思能力が必要です。

意思能力とは、自分が結ぼうとしている契約の内容、特に権利義務、何を得て何を失うのかについて理解する能力を意味します。つまり、所有している不動産を売れば代金を得ることができますが、その一方で、代金以上の価値があるかもしれない不動産を手放すことになります。その意味を理解する能力です。また、自宅を売却すれば、住む場所を他に求めなければなりません。あるいは、不動産を担保として差し入れれば、競売にかけられてその所有権を失うかもしれません。そうしたリスクを含めた契約の結果について理解する能力が意思能力です。

そして、意思能力は常に持っていなければならないわけではなく、契約時点における意思能力の有無により契約の有効性を判断します。ですから、認知症の高齢者であっても、症状が一時的に改善して正常な判断ができる場合には、有効に契約を結ぶことができます。他方、若い人でも泥酔して判断ができない状態にある時は、意思能力があるとは言えません。

高齢者が不動産を売却して、その契約の有効性をめぐって裁判で争われた場合には、裁判所は関係者の証言、医師の診断、関係書類などの証拠に基づき、契約当時の本人の心身の状況、売却の事情や経緯、契約の内容などを総合的に考慮して、本人にどの程度の判断力、理解力があったかを判断します。その結果、契約当時に意思能力がなかったと判断されれば、契約は無効とされます。

しかしながら、認知症などで判断能力が衰えた人が契約を結んだ場合、争いがあるたびに裁判所に判断を求めなければならないのは非常に大変です。今お話しいただいたように、今後ますます深刻になる問題ですね。