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翻訳という営み(2) -日本文学を横文字で読む-(異言語との出会い第8回)

日本文学は国際的でもあるのだろう。なお川端康成は私の出身高校の大先輩。

 

宮下志朗。翻訳の営み。日本文学を横文字で読む。日本文学の翻訳を味わう。英訳や仏訳、イタリア語訳も。優れた文学の朗読を。
川端康成の「伊豆の踊り子」。68年にノーベル文学賞を。中編小説。冒頭。天城峠。高等学校の制帽を被り。伊豆の旅に出て4日目。一つの期待に。茶屋にたどり着くと入り口で立ちすくむ。旅芸人の一行が。度々映画化。淡い恋の物語。自分も清められて救われる。「雪国」と似ている。学生時代に天城峠に。英訳を。ドナルド・キーンとともに著名。訳をもう一度日本語に戻す。反訳の作業を。辞書的な定義だと元の言葉に戻す。日本語の原文と英訳では細部が異なる。温泉の具体名が英訳では出てこない。imageの湧く話でもないので本質を損なわない。凝縮されたimageで。20才が英訳では19歳に。数え歳から満年齢に。欧米の読者に対するある種のサービス精神。アバウトなところがある。他にも川端康成作品を英訳してノーベル文学賞の手助けをしている。川端康成も国際ペンクラブ大会を東京で開催している。自分の文学を海外に知らしめた恩人。谷崎潤一郎や源氏物語を。翻訳の名手。かなり組み替えて西欧人の文脈に。しかし誤訳ではない。突き詰めると翻訳はすべて誤訳。別のバージョン。川端康成自身も授賞式に招いてスピーチでも念頭に置いて行った。原文尊重主義に立脚した取り組みも。フランス語の「伊豆の踊り子」。温泉の名前まで律儀に訳す。注も細かい。既に小さなトンネルがあったことまで書いてある。川端康成も後の描写でトンネルがあることを書いて区切りが終わる。トンネルはシンボリックな機能を。別の世界に入り込んでつかの間の恋を。しかし都会という現実に戻る。トンネルは雪国でも象徴的な機能を。親切すぎるのかもしれないが。フランス語訳には読者に親切なのが目立つ。
国語の教科書にも入っている作品の冒頭。芥川龍之介「蜘蛛の糸」。お釈迦様。極楽の蓮池の底は地獄に。三途の川や針の山の景色がハッキリと見える。地獄の底に男が一人蠢いている姿が。悪事を働いた大泥棒。朗読に合う。英訳。06年の新しいもの。ノルウェイの森の訳者ルービン。蜘蛛の糸の作品は児童文芸誌の赤い鳥に掲載されたのが最初。訳者は承知の上で付け加えている文章が。子どもたちに語り聞かせる雰囲気を。語り手の私。明らかにすることでお話を聞かせている状況設定をしている。全体に巧み。言葉も子どもが読めるように。今から半世紀前にフランス語に。森有正。東大在職中にパリに行きそのまま定住してしまった。日本語を教えて世に研究者を。芥川龍之介の18の作品を訳す。50年には羅生門がグランプリを。芥川龍之介の名前は知られていたが、魅力を紹介したのが森有正訳。単語の難易度は高い。読むテクストとして呈示。蜘蛛の糸をお釈迦様が垂らすと登る。数多くの悪人がついてきてしまう。叫ぶ。降りろと。蜘蛛の糸がぶら下がっているところから切れる。あっという間に闇の底に落ちる。後には蜘蛛の糸が細く光りながら短く垂れているばかり。ため息をついたことが忘れられない。
エッセイに。谷崎潤一郎。「陰翳礼讃」。冒頭で京都や奈良の寺の経験。衛生上西洋のトイレがあったが、厠から東西の文化の比較を。すべてを照らし出す近代ヨーロッパの照明より薄暗い灯に日本的なものを。紙に及ぶ。シナ人の発明と聞く。和紙を見ると温かみを。同じ白さでも東西は違う。木の葉に触れているのと同じ。ピカピカ光るものを見ると落ち着かない。表面の光が消えていくのを喜ぶ。病院の壁の色や医療機械ももう少し暗く柔らかみを。借り物をして損をしている。英訳。雑誌に掲載したのを本に。同じ白いのでも。WesternPaper。難しい単語を避けている。フランス語訳も。東洋語学校で教え様々な作品の訳を。全体としてフランス語が1割長い。厳密さを追求。全体的に仏語訳が長い。
イタリア語訳の「陰翳礼讃」。訳者は須賀敦子。現代イタリア文学の翻訳者でもあったが、かつて長く暮らしたイタリアを舞台にした散文で読者を獲得。69歳で天に召される。何度か会ったことも。イタリア時代に川端康成や谷崎潤一郎など日本文学を訳したことは知られていない。夏目漱石から合計25人の作家の短編が。初めてイタリアの読書界に開かれる。須賀敦子は谷崎がお気に入りだった。83年に発表した。恐らく帰国後に訳された。イタリア語は耳に心地よい。日本文学を原文で味わうことができる。更に一歩進んで外国の翻訳も読めば、ワンクッション置くことでimageが膨らんで原作が違うように味わえる。異言語体験を。

 

 

 

伊豆の踊子 (新潮文庫)

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雪国 (新潮文庫)

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陰翳礼讃 (角川ソフィア文庫)

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