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バルザック『ゴリオ爺さん』(ヨーロッパ文学の読み方近代篇第8回)

父なき社会でどのように生きていけば良いかヒントが掴めるかもしれないと思う。

 

野崎歓。バルザック「ゴリオ爺さん」。1835年に発表。近代文学の創始者。フランス文学だけではなく世界文学に影響を。何処から読む?人間喜劇を代表する一作。「ゴリオ爺さん」という題名。そのものに思想観や歴史観が。リアリズム小説とは?
小説の歴史を分かつ。以前は文学のジャンルに於いて小説は核が落ちると。巨大な構築物。共通点が無くなる。ゴンクール兄弟も讃える。地位向上はバルザックだけではない。人間喜劇の序説。オルタースコット。フランスでも人気。12世紀のイングランドを舞台に「アイバンホー」。本領は歴史小説。時代描写。文学的意義の発見。スコットに学びつつ現代小説に転用するところ斬新さが。現代をそのまま作品にするのが一般ではなかった。固定主義以来、現在を語るべきではないと。バルザックは現代を描きたいと。己の時代を抱擁した。現代のものを残らず愛する。自分の時代の愛着に根ざす。大きな可能性を小説に見出す。1830年代以降は読者を獲得。活字メディアの勃興期。読者は国外にも。フランス語は共通語としての地位を保っていた。ドストエフスキー。バルザックは偉大だ。宇宙的世代。歴史が結晶したということ。大変な読書家だったが熱狂的。時代の精神を越えて見出そうとしている。バルザックの小説は注意深く観察しリアリズムを。象徴的次元に。
「ゴリオ爺さん」を例として特質を。スケールの雄大さは革命後に近代国家の道を歩んだフランス。19世紀の首都となりつつあるパリを舞台に。都市小説。パリ小説。冒頭でいきなり下宿屋の描写が長々と。ディテールの一つ一つに意味がある。カルティエ・ラタンの奥まった一角。おぞましく知られていないところはない。ソルボンヌ大学の近く。物語の主な舞台となるのは陰湿な。地下墓地。19世紀のパリとの違いがあるが、誇張もある。感じ取れるのはバルザックの意図。おぞましく悲惨な色調で染め上げる。それとの対照で綺羅びやかな社交界を。冴えない住民。バラバラの個人が隣り合って暮らす。都市空間の縮図。ゴリオ爺さん。下宿に入った当時は裕福だった。どんどん落ちぶれていき部屋も移る。女遊びに?事あることにイジメられる。ところが下宿人の内、新参者の学生はうめき声が。部屋の中を。怪しげな作業に。自称パスタ製造業者が。金メッキをした銀を捏ねる。泥棒か盗品販売。普段の姿と怪力ぶり。豪華な銀の皿を延べ棒に。随分と力持ち。かつてのパスタ製造業者として一大で財を成した。この時点では分からない。鍵穴越しに。都市小説のスリル。アパルトマンが興味を抱かずには居られない。ミステリー小説の萌芽。世間知らずの若者の無垢な目で驚くべきものとして。
青年が事実上の主人公であることで社会の有様を学ぶ展開に。何人かの指導者役が導こうとする。父親という重要なテーマ。南仏の貧乏貴族の子ども。貴婦人の後ろ盾が必要。社会的成功には必要。花形の一人。パリでは女にもてることが成功に必要。社交界で2人の美しい貴婦人を見てうっとり。ゴリオ爺さんの娘たちだった。父の財力で貴族と結婚しながら父との付き合いは表上はなくなる。しかし影でお金をねだっている。求めて急遽お金を作る。娘たちは捨てる。父親の末路。父性のテーマを重層的に。冷酷な父親も。下宿に入る娘の父親。1フラン1000円で年60万円。少ない仕送で会おうともしない。血縁とは全く関係なしに父親を。ボートラン。最も印象的キャラクター。筋骨隆々の。胡散臭さ。秘密を感じさせる。脱獄囚。徒刑囚の方にはゆりの紋章の烙印が。逮捕しようとする。犯罪小説として。独特な反社会的哲学を持つ。成年に対し人生の先輩として忠告するだけでなく、自分の野望を追求するようけしかける。危険な誘惑者教育者。ちゃんときれいにする方法を知っておかなければ。人間は上でも下でも真ん中でも皆同じ。法律さえ超越するものも。傲然と胸を張る。娘と結婚したらどうか。兄を片付けてやるから。学生は酷く心を動かされる。危険極まりない。ラスコーリニコフにつながる。悪の哲学を吹き込みながら愛情を。女嫌いだが父親役を。君のボートランパパ。財産を残してやろうと。一方的愛情の親子関係。
様々な父親たち。ゴリオ爺さんを通しての父親像。時代の有様を照らす。娘に無償の愛を注ぐ。娘たちが成長した後にも強まる一方。崇高の語で形容。全くの片思いで報われないばかりか不幸な境遇に追いやる。娘に財産を吸い取られる。周囲は容赦なくいじめる。娘の存在を認めない。ゴリオの人格否定に。救世主が受難を描こうと。父性のキリスト。有名になった表現。宗教画になぞらえる。神々しい?常軌を逸している。1日400円の暮らしに。結婚生活は破綻に瀕する。婿たちをぶっ飛ばしてやるとゴリオが。悪に反転する危険も。ファッショに滅ぼされる。娘たちが破滅の渕に。ゴリオは痴呆症状。時折意識を取り戻しつつ臨終に。自らの人生の真実を悟る。なぜ娘が見舞いに来ないのか。騙されていた。愛してくれたことは一度もない。死ぬのだって察せられないだろう。骨までしゃぶらせる癖をつけてしまった。父親殺しになると伝えてほしい。父親殺しをしてきたのではないか。甘い気持ちは残っている。人生の結論に。父親殺しの犠牲者であり罪人でもある。フランス社会の父性の危機を具現化。19世紀の。ゴリオ自身がより大きな意味を持つ。正義は私の味方。社会は父親を軸に回っている。会いたい。声を聞きたい。何を言われても良いから。痛みが和らぐのに。しかし民法は味方ではなかった。アンシャンレジームならまだしも。フランス革命で父の権利がラディカルに否定。父の打倒。教会が封鎖破壊。神父の迫害。王権神授説が打ち倒され神の権威も。ナポレオンが即位。旧体制的価値を復権させる。復興王朝は革命がなかったことにする反動性を。しかし民法は絶対的な父の権利を与えず。均等配分性。相続により一家の地位が受け継がれるのが崩れる。バルザックは自説を訴える。2人の若妻の日記という作品。現行の民法への嘆き。ゴリオ爺さんの原題。軽んじる意図を込めた。第一の意味は父親。父なる神さえ捨て去る。幾重にも重なる父の存在。深刻かつ悲惨だが文章はエネルギーに満ち愉快な遊びことばにあふれる。作品にはポジティブなたくましさが。青春小説でもある。ゴリオ爺さんが亡くなり墓地に埋葬する。上流社会が息づいている場所を。今度は僕らの番だと。虚栄心と利益追求の世界に。父なき社会へ青年を送り出す。価値観喪失の世界で。続きは他の人間喜劇の作品で。

 

ヨーロッパ文学の読み方-近代篇 (放送大学教材)
 

 

 

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