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大人の発達障害対応、2次障害治療、発達性トラウマ障害理解、保護者支援と感覚過敏配慮の重要性を解説。(精神疾患とその治療第11回)#放送大学講義録

「発達性トラウマ障害」というのは私も知らなかった。

 

-----講義録始め------

 

次に、大人の発達障害の対応について少し話します。

どうしてもうまくいかないことばかりが注目されがちですが、大人になるまでなんとかやってこられたという本人なりの対処行動もあります。それに注目するのが支援の基本です。子供のうちから診断を受けて支援を受けてきた場合は、どんな支援が役に立って、どんな工夫をして切り抜けてきたのかを一緒に考えます。

大人になって初めて診断を受けた場合は、診断なしでやってこられた強みがあるわけです。自分なりに、あるいは家族なりに工夫して対処してきた成功体験を一緒に振り返り、その限界点について一緒に検討していきます。これまでの努力を認めつつ、より良い対処行動を探していくことが必要です。

一方で、2次障害がきっかけで発達障害が明らかになる場合もあります。2次障害とは、発達の凸凹に対する不適切な対応が長く続いている状態から生じます。体の症状がメインの心身症的な状態や、精神症状のメインの状態、抑鬱や適応障害、あるいは引きこもりや暴力行為などの反社会的な状態になる場合があります。2次障害への対応は、表1-1-4にも記してあります。どんな2次障害であっても、まずは目の前の症状への対処療法を行います。お腹が痛い、頭が痛い、眠れないなどの症状があれば、それに対する治療を行っていきます。そしてその次に、2次障害を引き起こすに至った不適切な環境を少しずつ変えていきます。ただし、複雑な状況はすぐには改善されません。したがって、本人の辛さを受け止め、家族を支えつつ、少しずつ改善していけるように、長期的な視点でじっくりとサポートすることが必要です。

9番目に、発達性トラウマ障害について少し触れたいと思います。発達障害は生まれつきの中枢神経系の障害ですが、実は発達障害のような状態を呈していても、強烈なトラウマ体験が原因となっている場合があります。これを発達性トラウマ障害と呼んでいます。長期のトラウマ、例えばいじめや戦争レベルの過酷な状況によって、脳の機能や形態が変化し、攻撃性や感情の不安定性、激しい気分の変調、種々の依存症など、発達障害や精神疾患に発展することがあります。ほとんどの場合、虐待の後遺症であることが多いです。この場合、元々の発達障害がなくても、発達障害と同じような症状を呈します。ですので、支援には区別が必要です。しかし、実際は発達障害と発達性トラウマ障害が混在していることも多く、注意が必要です。詳細は参考文献もご参照いただければと思います。

保護者への支援についても触れたいと思います。発達障害のある子供の育児は非常に大変で、通常よりも多くの努力が必要です。例えば、泣いている幼児をよかれと思って抱きしめても、感覚過敏や皮膚過敏の強い子供では余計に泣きやみませんし、抱っこした親が途方に暮れることも少なくありません。親が頑張って育ててきたことを認め、責めることなく、親の辛さに耳を傾け、親なりに工夫してきた対処行動を認識し、さらにその時点から子供の特性に見合ったより良い対処行動を一緒に考えていきます。もちろん、親だけの育児には限界があることも多いため、様々な社会資源を活用し、地域全体で親子を支え、見守りながら育てていくことが不可欠です。