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ローレンツのインプリンティング研究を解説。動物が生存のために「非可逆性」と「臨界期」の概念を通じて親に追尾する行動を学ぶ過程を明らかに。(発達心理学特論第6回)♯放送大学講義録

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もう1つの動物からの知見は、比較行動学のローレンツの研究によるものです。ローレンツは自分が飼育していた大型の水鳥が子供として自分に付いてくるという現象をインプリンティングとして捉えました。

大型の水鳥は、卵から孵るとすぐに親鳥にくっついて餌場に移動する習性を持っています。親鳥とは言いましたが、自然環境では子供が初めて目にする一定の大きさを持ち動くものが親鳥となりますが、ローレンツは自分が飼育したことから人間にとっての親になってしまったわけです。

インプリンティング、または刷り込みとも呼ばれますが、これはひなが生きていくために必要なシステムとして備わっているものです。子供には、目にした一定の大きさがあり、動くという条件を満たす刺激が必要です。これを発達刺激と言いますが、これがなければ、子供は誤ってアリにくっついていったり、岩のそばにうずくまってしまうことがあります。また、それは一定期間内に成立することが分かっています。孵化後1日くらいで、それ以降になると成立しなくなります。これを臨界期と言います。さらに、一度作られたものは元には戻らない、作り直しができないという意味で、非可逆性を特徴としています。

厳しい自然環境の中で、敵に襲われるなどの生命の危機を避けるために、親と認識された対象にくっついていくことが必須となります。そこで、追尾努力と言いますが、親という対象にくっついていくのが困難であればあるほど、より強く接近を維持しようとする傾向があることが知られています。過酷な環境で追いかけるのが大変な岩場や水中では、親から少しでも離れてしまうことは生命の危険を意味します。ですので、追いかけるのに苦労するほど、より対象を強く求めることになるのは、生存上の必要条件となります。

このことから、人間の親子関係についての示唆があるとするならば、虐待の親子関係の場合、そばにいることが辛い場合でも、いつも心地よいケアを受けるわけではなく、逆に一緒にいることが苦痛をもたらすような親子関係であっても、子供は親から離れることはしません。それは、親にくっついていくのが困難であればあるほど、より不安が強く、その分より強く親を求めるという状態を作っていると考えられます。