F-nameのブログ

はてなダイアリーから移行し、更に独自ドメイン化しました。

グレイらのマインドサーベイ研究では、対象の心の知覚が「経験性」と「行為性」の2つの次元に基づいて評価されました。成人や乳児、神など13種類の対象に対する知覚を調査し、各次元の評定が明らかになりました。#放送大学講義録(心理と教育へのいざない第9回)

------講義録始め------

 

しかし、そもそも対象に心を知覚するというのはどのようなことなのでしょうか。グレイという研究者たちは、マインドサーベイと呼ばれるとてもシンプルな調査を行いました。

具体的には、13種類の対象を2つずつ対にして示し、どちらの方が様々な心の働きや能力を持ち合わせているかを尋ねました。例えば、生後5カ月の赤ちゃんとロボットの写真を左右に並べて示し、どちらの方が痛みを感じやすいかを5段階で尋ね、同じ程度だと思えば真ん中を選ぶ、といった具合です。評価する13種類の対象には、例に挙げた生後5カ月の赤ちゃんやロボットのほか、生きている人間として5歳の少女、成人の男性、女性、植物状態の男性、人間以外の動物として飼い犬、野生のチンパンジー、さらに死んでいる女性や神、回答者本人も含まれていました。

調査の結果、私たちの心の知覚は次の2つの次元に基づいていることがわかりました。1つは「経験性」(エクスペリエンス)と名付けられたもので、対象に飢え、恐れ、痛み、喜び、怒り、欲求などを知覚するというものです。もう1つは「行為性」(エイジェンシー)と名付けられた次元で、こちらには自己統制、道徳性、記憶、感情の認識、計画性などが含まれます。

印刷教材には、マインドサーベイの結果を図示したものを掲載しています。縦軸が経験性、横軸が行為性となっていますので、経験性については上の方にプロットされた対象ほど、また行為性については右の方にプロットされた対象ほど、それらが高いと評定されたことを示しています。

したがって、両次元の評定値が高い右上にプロットされた対象、具体的には成人男性や女性、回答者自身は心の働きや能力が知覚されやすいのに対し、左上にプロットされている乳児は経験性、つまり恐れ、痛み、喜びなどは経験しやすいけれども、自己統制、道徳性などの行為性は低いと評定されていることがわかります。また、それとは反対に神は右下にプロットされていることから、行為性次元の評定値は高いものの、経験性次元における評定値は低いことがわかります。

ただし、この結果は2000名以上が参加したウェブ上での調査による平均的な結果だという点にご注意ください。人によってそれぞれの対象の位置づけは異なるでしょう。また、成人の男性、女性は経験性、行為性ともに高く評価されていますが、外集団のメンバーであれば話は別でしょう。自分だったら様々な対象をどこに位置づけるかを考えてみると、その対象のことを自分がどのように認識しているかを振り返るきっかけになるかもしれません。

なお、このマインドサーベイでは他にもいくつかの質問をしていますが、経験性も行為性も高いと評定された対象ほど好意的に評価され、その対象を幸せにしたいと考えられていました。しかし、もしそれぞれの対象が人を殺したとしたら、どちらを罰するべきですか?といった質問には、行為性の方が関係しており、反対にどちらか一方に危害を加えざるを得ないとしたら、どちらに危害を加えるのがあなたにとってより苦痛ですか?といった質問には、経験性が関係しているなど、1つの次元に強く関係しているものもありました。

非道徳的行動を行った際には、自己統制力や道徳性のように自ら行為を行う際に必要とされる能力を持った存在は、より大きな責めを負うべきと考えられる一方で、飢え、恐怖、痛みなど主観的な経験を持つとされる存在は、加害行為で傷つくことが予測されるため、保護の対象とされやすいということです。