ーーーー講義録始めーーーー
それでは、法と宗教について説明します。
宗教とは、一般に人間や自然の力を超えた存在、例えば神や仏などへの信仰や、それに基づく営みを指します。宗教には、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教のように万物を創造し、固有の意志を持つ人格的存在としての神を中心とするものと、仏教、儒教、道教のように「法」と呼ばれる抽象的で非人格的な原理や法則を根底に置くものがあります。
日本の宗教は、仏教、儒教、キリスト教といった外来の世界宗教を受け入れつつ、民族宗教である神道が社会生活全般に深く浸透しているのが特徴です。宗教は個人の心の救いを本質としつつも、人の行動規範としての側面を持ち、行為規範に該当します。
法と宗教の相違点として、以下の点が挙げられます。
-
目的と基盤
- 法:組織的な社会力、特に国家権力によって強制され、社会秩序の維持を目的とします。
- 宗教:神仏への信仰を基盤とし、個人の安心や精神的救済を目的とします。
-
権利と義務
- 法:原則として権利と義務の対立関係を前提とします。
- 宗教:信仰者に義務のみを課す平面的な規範です。
-
判断基準
- 法:現実社会における正義を追求し、正不正を理性的に判断します。
- 宗教:神仏の世界や精神的な領域において、絶対的な愛や慈悲の心を重視し、現実の悲劇も方便として受け入れる態度を取ります。
現代社会において、多くの国では宗教と法律が分離されています。しかし、法文化の起源をたどると、宗教の影響が非常に深いことがわかります。宗教における組織秩序や禁忌などの規律が、法の誕生に重要な役割を果たしてきたことは否定できません。
日本では戦後、「政教分離の原則」が導入されました。この「政」は政府や国家を、「教」は神社、寺院、教会などの宗教団体を指します。政教分離の原則とは、国家と宗教を切り離して考えるべきという理念です。日本国憲法のもとでは、法と宗教の関わりは必要最小限にとどめられています。
以上のように、道徳、慣習、宗教はいずれも行為規範に該当し、法とこれらの社会規範が重なる部分は、法規範の中でも行為規範に属します。一方、重ならない部分は裁判規範や組織規範です。また、法は社会的な強制力を伴う点が、他の社会規範との最も大きな違いです。
