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そこで、もう1つの知識、すなわち第2の政策過程に関する専門家が必要です。なぜならば、政策は単に政策案で終わっては意味がありません。具体的に法律や予算のような形で立案し、それを実施していくための道筋を作らなければ実効性を持たないからです。そのためには、過去の成功や失敗を含めて利害を調整し、実行可能な形にし、この科目の前半で扱った人的資源や金銭資源など各種の政策資源を確保することが求められます。
したがって、政策領域ではなく、政策の作り方そのものに関する専門家も重要となります。こうした政策過程そのものに関する知識を、先ほどの「院の知識」と対比して「ナレッジ・オブ・プロセス」と呼びます。
以上をまとめますと、これら異なる専門家を適切に組み合わせていくことが公共政策を形成していく上で極めて重要だということがお分かりになるでしょう。しかし、適切に組み合わせるとは言っても、それはそう簡単ではありません。政策領域に関する専門家と政策過程に関する専門家はどこにでもいるわけではないからです。
むしろ、やや図式的に言いますと、これら2つの専門家はそれぞれ異なる場所で作られ、異なる人たちが保持しているものと考えられます。すなわち、2つの専門家の特性は、そのまま社会の中での所在の差異としても現れるということでもあります。別の見方をすれば、両方の専門家に精通することは非常に難しいということです。要するに、どこかの誰かがすべての知識を持っているわけではないのです。
政策領域に関する専門家は、一般的に政府の外部にあります。大学の研究室や企業の開発現場を考えてもらえればお分かりになるかと思います。そのため、こうした専門的知識を政策過程に取り入れるためには何らかの仕掛けが必要です。もちろん、軍事技術など政府内で研究機関を設置し研究開発を行っている領域もなくはないですが、例外的と言えるでしょう。
これに対して、政策過程に関する専門家は政策過程に深く関与している関係者です。例えば、中央府省の行政官が典型でしょう。国レベルの政策過程においては、原案を実現するのはほぼ中央府省ですから、その意味で政府内部に囲い込まれていると言っても良いかもしれません。中央府省の官僚は、政策過程を管理する専門家としての役割を発揮するべきという見方もあります。
したがって、政策領域に関する専門家と政策過程に関する専門家を組み合わせるということは、すなわち政府外部の関係者と政府内部の関係者が共同することを意味しますし、むしろ共同せざるを得ないと考えるべきでしょう。