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政策過程におけるリスク評価と管理(公共政策第11回)♯放送大学講義録

-----講義録始め-----

 

政策過程で専門知識が使われるといっても、さまざまな局面があります。ここでは大きく2つに分けて考えることで、見通しを良くしたいと思います。そこで参考になるのが、しばしばリスク研究で用いられるリスク評価とリスク管理の区分です。

今日においてリスクは社会の様々な事柄に用いられる言葉となっています。化学物質の毒性や、感染症、災害の発生など、環境や科学に関することはもちろん、犯罪の発生や金融取引など人間社会に関する事柄にも幅広く見られます。こうしたリスクとは、被害の大きさと発生確率を掛け合わせたものと捉えるのが一般的です。小さい被害でも頻繁に発生する場合はリスクは高くなりますし、逆に甚大な被害でも発生確率が低ければリスクは低くなります。

したがって、リスクをいかに正確に見積もるかが鍵と言えるでしょう。その見積もりを行う活動をリスク評価と呼びます。このリスク評価を政策過程における様々な営みに援用し、これを政策過程の評価的活動とします。評価的活動には、影響の見積もりだけでなく、その前提となる実態を調査し把握する活動も含まれます。人口動態を調査し予測する活動や、子どもたちの学力を測定する活動なども評価的活動の一つと言えます。主に政策領域に関する専門家が活躍する局面だとまとめることができます。なお、ここで言う評価とは、第10回で取り上げた政策評価とは異なる使い方ですので、注意してください。

さて、このリスク評価に対してリスク管理があります。リスク管理とは、リスク評価をもとに、どの程度までリスクを許容するのか目標を定めたり、どのような手段を使ってリスクを低減するかを具体的に決定したりする活動のことです。一般的に、リスクを低くしようとすればするほど、資源を投入していかなければなりません。いわゆるゼロリスクは難しいということです。感染症をゼロにしたり、犯罪をゼロにしたりしようとすれば、膨大なエネルギーをかけて仕組みを作っていかなければなりません。地震や火災のリスクをゼロにすることもまた同じです。

そのため、ある程度はリスクを許容することが必要になります。その度合いによって、必要となる政策資源も変わってきます。これらを総合的に判断して決定することがリスク管理の中核をなしますが、それはまさに公共政策を決定するということでもあります。そして、こうした決定に関する活動を管理的活動と呼びます。管理的活動とは、評価的活動の結果を踏まえつつ、民主的正当性を持った形で最終的な判断に至るまでの活動ということができます。ここでは、政策過程に関する専門知識が活用されることになります。

さて、この評価的活動と管理的活動との区分は、単に性質の異なる活動があるということにとどまりません。評価的活動と管理的活動を機能的に分離する仕組みが提供されます。リスク研究におけるリスク評価とリスク管理の分離と同じです。それは、両者が混在していると、管理活動の意向に評価的活動が引きずられてしまいかねないからです。政策としてやりたくない場合は、過小な評価となって大したことがないので対応しないという結論に導かれやすくなります。逆にやりたい政策の場合は、あたかも大きな被害が出るとして政策転換を図ることもあり得ます。とはいえ、評価的な活動と管理的な活動とは繋がっている部分もありますので、単純に分ければ良いというわけでもありません。