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行政職員と民意の反映の課題(行政学講説第2回)#放送大学講義録

ーーーー講義録始めーーーー

 

行政を市民が統制するためには、市民自身が行政職員となることも考えられます。行政職員の選抜には、能力実証主義、成績主義、メリットシステム、資格任用制といった基準が用いられることが多いです。しかし、公選や政治任用ではないため、行政職員に民意が反映されるかどうかには疑問が残ります。そのため、市民自身が行政職員となり、自ら行政を統制することが重要です。

つまり、行政職員の就任機会は市民に広く開放される必要があります。例えば、公務就任の機会を日本国籍保有者に限定するのか、外国籍の者にも開放するのかは重要な論点です。また、仮に開放するとしても、どのような職種や職層にまで適用するかも議論の余地があります。現代日本においては、公権力の行使またはその意思形成に関与する行政職員は、日本国籍保有者に限定されるのが当然の法理と解釈されています。これは、市民を国民に限定している現行の制度と対応しています。

もっとも、行政職員の数は市民全体の数より少ないため、行政職員の就任機会が市民に開かれていても、実際に行政職員になれた市民とそうでない市民の間で分断や乖離が生じる可能性があります。さらに、行政職員が終身公務員としての地位を保証されれば、封建時代の身分制度や特権官僚制のように、市民から乖離した為政者層を形成する危険性も指摘されます。

行政職員への就任機会が広く市民一般に認められているだけでなく、行政職員の代表性、つまり市民と同様の背景や価値観を持つ人々が行政職員に含まれていることも重要です。例えば、行政職員が男性多数、富裕層出身者、特定地域出身者に偏り、特定の民族や宗教に限定されている場合、それは市民全体の代表とは言えず、民意を行政に反映させることにはつながりません。ただし、市民と同様の背景を持つ行政職員であっても、市民の意思を反映するとは限りません。

また、行政職員だけが行政的な役割を果たしているわけではありません。事業者や地域住民などの市場セクターや社会セクターの市民も、行政職員と同様の機能を果たしています。行政の業務を事業者やNPO(非営利組織)などの市民に外注することで、市民が自ら行政的業務を担う形を実現することも可能です。その場合、行政職員による直接的な統制がなくても、実際の業務を市民が担うことで問題を回避できる可能性があります。

しかし、こうした市場セクターや社会セクターが広く市民意思を反映している保証はありません。このような状況を考慮すると、行政が事業者や地縁的組織、NPOなどを監督または統制する必要性が生じます。一方で、これらの組織が行政によって監督・統制されると、こうした組織で働く市民の意向を反映することは難しくなるでしょう。最悪の場合、市民が行政の「下僕」となる危険性もあります。