F-nameのブログ

はてなダイアリーから移行し、更に独自ドメイン化しました。

民主主義と間接統制の課題(行政学講説第2回)#放送大学講義録

ーーーー講義録始めーーーー

 

多数の市民が直接行政を統制することは容易ではありません。第一に、行政を指揮・監督するためには、多様な市民の意見を単一の「市民意思」に集約する必要があります。第二に、集約された市民意思に基づいて、具体的に行政を統制する作業を担う人間が必要となります。このため、選挙によって公選職の政治家を選出し、間接的に行政を統制する「間接民主制」または「代議制民主制」が採用されることが多いのです。市民は選挙を通じて公選職の政治家を統制し、公選職の政治家が市民に代わって意思決定を行い、それに基づいて行政を統制します。

公選職の政治家は、為政者として行政職員と同様の役割を担う存在でもあります。つまり、公選職の政治家と行政職員が一体となって為政者、すなわち公務員として、主権者である市民に対して支配を及ぼします。公選職の政治家が市民意思から逸脱しない限り、民主制は維持されます。しかし、しばしば政治家は為政者として市民、すなわち主権者である市民の意思から離れることもあります。政治主導であるため、官僚支配とは異なるものの、政治家による支配が生じることになります。

市民全員に代わって行政統制を担う人間を選抜するためだけであれば、選挙である必要は必ずしもありません。例えば、くじ引きによる選抜でも十分です。実際、裁判員裁判や検察審査会、陪審制や市民討議会のように、意思決定を担う人間を無作為抽出で選出する方法も存在します。また、市民が自ら公選職の政治家となることで、行政を直接指揮・監督する立場につくことも可能です。

もっとも、人数的には市民のごく一部しか公選職の政治家になることはできず、市民が「政治家」と「非政治家」に分断される状況も生じます。つまり、政治家となった市民による、政治家にならなかった、あるいは政治家になれなかった市民に対する支配が発生するのです。そのような場合には、できるだけ多くの市民が公選職の政治家となれるように、例えば「多選制限」などを設けてローテーションを行うことが考えられます。

さらに、二大政党制のような政権交代制は、政権与党の政治家がローテーションする仕組みともなっています。