ーーーー講義録始めーーーー
看護に携わる人にとって重要なのは、対象となる人間への理解を深めることです。以下では、看護の対象である人間の捉え方について説明します。
看護の対象は、単なる部分の集合としての人間ではなく、要素に還元できない全体としての人間です。看護師が注目するのは、患者が患う疾患そのものではなく、病を通してその人が経験していることにあります。この考え方はフローレンス・ナイチンゲールの時代にまで遡ります。ナイチンゲールは、人間を自然の一部と捉え、人間の生命現象は自然科学の法則だけでは説明できないものであり、病気はその人が置かれた状況と切り離せないと述べています。
世界保健機構(WHO)は、健康を「完全な肉体的、精神的、社会的に良好な状態であり、単に疾病または病弱がないということではない」と定義しています。この健康の定義は、人間を全体として見る必要性を示し、要素還元主義に対する全体論的な視点を反映しています。
人間は臓器や細胞といった部分に分けて観察することで理解が進む一方、人間を社会から切り離して部分だけを見ても十分には理解できません。人間は部分の総和ではなく、全体として統合されている存在です。
看護が対象とする人間を捉える枠組みは理論によって異なります。ヘンダーソンは、人間を「14の基本的ニーズを持つ存在」と定義し、これら全体を捉えることで人間の統合的な理解が得られると考えました。一方、オレムは、人間をセルフケア要件とセルフケア能力を持つ存在と捉え、普遍的セルフケア要件、発展的セルフケア要件、健康逸脱時のセルフケア要件の3つに分類しました。これらの要件が潜在的または顕在的に表れる人間を看護の対象とし、それぞれのセルフケア能力を支援することが看護の役割であるとしています。
さらに、ロイは、人間が生理的様式、自己概念様式、役割機能様式、相互依存様式の4つの適応様式を持つ存在であるとし、これらの適応を促進することが看護であると述べています。
これらの理論的枠組みは異なりますが、共通しているのは、人間の統合性を考慮し、統合的に捉えることを重視している点です。どの理論的枠組みを用いるにしても、人間の全体性を理解しようとする姿勢が重要です。