ーーーー講義録始めーーーー
行政過程への市民参加では、市民の意見そのものが必ずしも民意として行政や為政者を民主的に統制するわけではありません。しかし、行政には市民の意見や感情に直接応答する責任があります。この応答は行政職員の直感に依存する部分もありますが、むしろ行政業務の遂行過程で、行政職員が市民との対話を通じて様々な判断や再考を行うことに基づいています。したがって、行政過程における市民参加が実効性を持つためには、市民の声を傾聴し応答する能力を持つ行政職員の存在が不可欠です。
市民参加が形式的に行われても、行政職員に傾聴や応答の姿勢や能力がなければ、それは形骸化してしまいます。例えば、公募市民や団体代表を集めた会議体や、特定の事業案に関する関係者を集めた説明会で市民の意見を求める場合でも、意見がうまく表明されないことがあります。また、意見が表明されても、適切に意見を集約できるとは限りません。
そのため、市民参加を効果的に促進するには、意見を引き出し集約できる能力を持つ行政職員が必要です。また、市民は意思形成の過程で行政の力を借りることもあります。時には、専門家がファシリテーターとして会議を調整したり、市民参加に精通した市民が世話人や役員、幹事グループとして会議運営を行う場合もあります。このような仕組みを整えれば、必ずしも行政職員が直接意見を引き出す必要はなくなります。
しかしながら、市民の意見が集約された後、それを行政が受け止めて政策に反映するためには、行政職員の判断力と実行力が不可欠です。行政が市民の意見を受け止められない場合、それは無視されたと感じられ、市民参加が形骸化する恐れがあります。そのため、市民の意見は行政職員が受け止められる範囲に調整される必要があります。
市民の議論過程で行政との意見交換を行い、相互理解を深めることが重要です。しかし、このような濃密な調整が行われると、行政が実現不可能と考える大胆な意見が、あらかじめ議論から排除される傾向が生じる可能性もあります。このような状況では、市民の声が行政に届かず、形だけの参加に終わるリスクも指摘されています。