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レジリエンスを広げるアプローチ ― 4つの方向性 #放送大学講義録(レジリエンスの科学第4回その5)

ーーーー講義録始めーーーー

 

教育的介入の可能性

レジリエンスは発達に伴って自然に変化していきますが、自然な変化だけでなく、教育や心理的介入(psychoeducation)といった意図的な働きかけによって促進させることも可能です。
こうした介入は、近年では学校教育、医療、福祉、企業研修などの幅広い場面で導入されています。


レジリエンスを広げる4つのアプローチ

ここで紹介する「レジリエンス促進の4つのアプローチ」は、**「増加」/「顕在化」と、「個人」/「他者」**という2つの軸から整理したものです。
これは、個人の内的成長と社会的関係の相互作用を可視化したモデルとして位置付けられます。


2つの軸の説明

  • 縦軸:増加 vs 顕在化

    • 増加:もともと十分に持っていないレジリエンスを新たに育む

    • 顕在化:潜在的に持っているレジリエンスを意識的に表に出す

  • 横軸:個人 vs 他者

    • 個人:自己理解や自己成長を通じてレジリエンスを広げる

    • 他者:他者との関係や社会的文脈の中でレジリエンスを広げる


4つの象限の詳細


第1象限:知識やスキルを得る(個人×増加)

内容

これは、心理教育や学習を通して新しいストレス対処法やポジティブ心理学的スキルを獲得し、レジリエンスを高めるアプローチです。

具体例

  • 呼吸法やリラクゼーション技法などのストレスマネジメントを学ぶ

  • 「物事の捉え方を変える」リフレーミング技法を習得する

  • 問題解決スキルやセルフモニタリングを学ぶ

背景理論

この領域は、Banduraの自己効力感理論(self-efficacy)やSeligmanのポジティブ心理学に基づく教育的介入と対応しています。


第2象限:客観的資質への気づき(個人×顕在化)

内容

これは、すでに個人が持っている強みや特性に気づき、それを自覚的に活用できるようにするアプローチです。

具体的アプローチ

  • 自分の性格の長所や得意なことを整理する

  • 過去の困難を乗り越えた経験を振り返り、どのような力が役立ったかを確認する

  • 自分が関心を持ち、集中できる活動を明確化する

重要な視点

他者との比較ではなく、「自分にとって役立つ資源」を見出すことが重要です。
これまでの人生の中で培ってきた力を再認識することで、潜在的なレジリエンス資源が顕在化していきます。


第3象限:他者からの評価と承認(他者×顕在化)

内容

他者との相互作用やフィードバックを通して、自分の中にあるレジリエンスに気づくアプローチです。
社会的承認(social acknowledgment)は、自己肯定感を支える重要な要素とされています。

具体例

  • 家族や友人、教師など身近な人から、自分の良い点を評価してもらう

  • グループワークやピア・フィードバックを通して、自分の強みを再認識する

  • カウンセリングやスーパービジョンの中で、自分の人生経験を整理し、支えとなった力を見出す

補足

この過程は、**社会的レジリエンス理論(Ungar, 2012)**にも通じます。レジリエンスは個人の内にあるだけでなく、他者との関係性の中で構築される社会的プロセスでもあるのです。


第4象限:関係性の中での発揮(他者×増加)

内容

他者との関係性や社会的役割の中で、これまで発揮されなかった能力が引き出され、新しいレジリエンスが形成される領域です。

理論的背景

レジリエンスは固定的な個人特性ではなく、状況依存的・関係性依存的に変化します。
すなわち、パーソナリティや対処行動は「誰と」「どのような状況で」発揮されるかによって変わるのです。

具体例

  • 「この人といると前向きな自分でいられる」

  • 「この仲間といると冷静に対応できる」

  • 「信頼できる友人と関わることで柔軟になれる」

応用

このように、人との関係や役割の中で生じる力は、**相互的レジリエンス(mutual resilience)**とも呼ばれます。
社会的関係が新たな回復力の源泉となるのです。


自己理解への応用

最後に、自分自身の経験を振り返ってみましょう。
「自分が自分らしくいられる」「力が湧いてくるような場所」はどこにあるでしょうか。
それは、信頼できる他者の存在や安心できる場との関係の中で支えられているかもしれません。
レジリエンスは、個人の内にある力と社会的なつながりが交差する場で最も豊かに育まれるのです。