ーーーー講義録始めーーーー
個人要因と環境要因
レジリエンスの個人差を考える際、これまで見てきたように個人が持つ要因(個人要因)に注目しがちです。しかし、レジリエンスが実際に発揮されるかどうかには、個人要因だけでなく、むしろ環境要因の影響が大きいとする研究が数多く報告されています。
環境要因とは何か
環境要因とは、主に人間関係や社会的資源を指し、以下が含まれます。
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ソーシャルサポート
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コミュニティや社会とのつながりの感覚
家族や友人といった身近な存在の影響は大きいですが、地域コミュニティ、国、社会、文化といった広い枠組みからの影響も個人に及びます。
重層的な相互作用
国や社会、文化が地域コミュニティに影響を与え、地域コミュニティが家族を支えるなど、複数のレベルで相互に作用します。このように、環境要因は重層的な相互作用システムとして捉えられます。
ソーシャルサポートの質的側面
ソーシャルサポートは単に支援者の数の多さではなく、以下のような質的要素が重要です。
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フィット感:提供されるサポートと本人のニーズが合致しているか
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認識可能性:本人がそのサポートを存在として認識できるか
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受容可能性:本人がそのサポートを受け入れられるか
一方で、過剰なサポートは本人の主体性や本来の力を弱め、レジリエンスを低下させる可能性があります。
相互作用の視点
環境要因は「支援の有無」だけでなく、個人と環境との相互作用の質に注目する必要があります。個人と家族・地域・社会・文化とのやり取りの中で、環境がどのような影響を与え得るのかを多層的に考えることが重要です。
環境要因の具体例
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家族・友人レベル
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情緒的サポート(共感・理解)
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道具的サポート(具体的援助)
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情報的サポート(助言・情報提供)
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評価的サポート(承認・励まし)
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地域コミュニティレベル
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近隣住民との関係性
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地域の文化的価値観
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コミュニティの結束力
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地域資源の充実度
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社会・文化レベル
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社会保障制度
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文化的価値観
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偏見や差別の有無
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メディアの影響
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環境要因が個人要因に与える影響
環境要因は単独で機能するのではなく、個人要因と密接に相互作用します。
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楽観的な人でも、周囲が悲観的なメッセージを送り続ければ楽観性を維持しにくい
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援助要請能力が高くても、支援者が存在しなければ能力を発揮できない
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問題解決力が高くても、必要な情報や資源がなければ活かせない
このように、個人要因と環境要因は切り離せない動的なシステムとして理解されます。
レジリエンス支援への示唆
この理解から得られる支援への示唆は次の通りです。
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個人介入の限界:スキルや能力強化だけでは不十分。環境整備も必要。
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環境整備の重要性:支援者の養成、コミュニティ形成、制度設計も不可欠。
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マッチングの視点:個人特性と環境資源を適切に組み合わせることで効果的支援が可能。
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予防的視点:困難が生じる前に環境要因を整備し、レジリエンスを発揮しやすい基盤を作る。

「環境要因の多層構造図」を作成しました。
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内層(家族・友人):情緒的・道具的・情報的・評価的サポート
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中層(地域コミュニティ):近隣関係、文化的価値観、結束力、地域資源
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外層(社会・文化):社会保障、文化的価値観、偏見・差別、メディアの影響
