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認知症初期支援と相談の重要性を解説。ソーシャルワーカーの対応や受診拒否への対処法も紹介します。(保健医療心理学特論第8回)♯放送大学講義録

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初期には、本人や家族に治療、相談、診断という認知症に向き合う契機があり、主に近時記憶障害を背景として手段的日常生活動作が障害されます。例えば、服薬や受診を忘れて健康管理がうまくできなくなったり、重複買いや料理での失敗が生じたり、周囲に話の繰り返しを指摘されて落ち込み、社会的交流を避けがちになることもあります。

また、診断後の支援を通じて、本人と話し合いながら、これまでの生活の質を保つ工夫や生活支援の足がかりを作ることが大切です。まず、診断へのアクセスが、その後の生活を左右する最初の重要な支援です。不安を抱えてたどり着いた医療機関での不適切な対応は、その後の一歩を踏み出そうとする本人や家族に精神的ダメージを与えかねません。

相談で出会う専門職はどのような配慮をしているのでしょうか。相談を担当されているソーシャルワーカーの方からお話を伺いました。

「最近はテレビなどでも認知症の特集が多く取り上げられているため、ご本人が心配してお電話くださることも多いです。病院に受診するには予約が必要ですが、病院に相談するために電話をすること自体が意外とハードルが高いと感じる方が多いようです。電話すること自体が大変だと感じる方も多いため、まず電話をくださったことに感謝し、よくご相談してくださったことを強調して伝えるようにしています。」

ご家族からのご相談で、本人が受診を拒否することもよくあります。そのような場合、相談室ではどのような対応をすることが多いですか。

「今までの関係や生きてきたストーリーを重要視しています。例えば、相談者が配偶者か、子供か、友人か、ケアマネージャーか、関係性を見定めて、その状況に合った説明をするようにしています。その上で、本人が本当に受診を拒否している理由を理解しようと努めます。病院に行くことへの怖さや不安、病院にかからずに生きてきたというアイデンティティなど、様々な理由が考えられます。これらを十分に考慮した上で、本人の気持ちを理解し、適切な対応を心がけています。」

 

 

 

認知症の特徴、総合アセスメント、BPSDの重要性を解説。アルツハイマー型認知症の各病期の課題を多職種連携で支援し、心理士の役割を紹介します。(保健医療心理学特論第8回)♯放送大学講義録

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まず、認知症の特徴と総合アセスメントについて見ていきましょう。認知症とは、脳に何らかの疾患が生じることで認知機能が障害され、それによって生活障害が生じる状態を指します。さらに、日常生活の失敗や不適切な環境やケアによって、不安や抑うつ、イライラや幻覚・妄想といった行動心理症状(BPSD)が生じることがあります。これにより介護が難しくなり、身体合併症が生じたり悪化したりします。これらが相互に影響し合うことで臨床像は複雑になります。その結果、社会的孤立、生活困窮、虐待、家族問題、近隣トラブルなどの社会的困難が生じ、本人と家族の生活の質が急速に悪化するのが認知症の本質的特徴と言われています。

心理士による認知症のアセスメントというと、認知機能の評価をイメージしやすいと思います。このつながりを適切に評価し、疾患の特徴に即して生活障害を補う工夫を検討することが重要です。それだけでなく、臨床像の複雑化が生じ得るため、これらすべてを総合的にアセスメントし、支援に生かす姿勢が求められます。なお、認知症の主な種類やアセスメントについては、印刷教材をご参照ください。

それでは、認知症の進行と各病期の課題について見てみましょう。これは認知症の半数以上を占めるアルツハイマー型認知症の経過を示したもので、今回はアルツハイマー型認知症を例に、初期、中期、後期、終末期の4つに分けて話を進めます。緑の線が認知機能、青がBPSD、赤が食事や行為、排泄といった日常生活動作(ADL)の変化を表しています。

認知機能は初期から終末期にかけて緩やかに低下していくのに対して、ADLは初期には保たれ、中期の後半から急速に低下します。BPSDは初期から不安や抑うつなどが見られ、ADLが低下する中期に最も強まり、終末期にかけて目立たなくなっていきます。このように、病期によって認知機能や生活機能、BPSDが変化し、それに伴って本人や家族が直面する課題も様々に変わります。そのため、支援に携わる上で各病期の課題を理解しておくことが非常に重要です。

さらに、家族機能や経済状態によって本人や家族が抱える社会的困難も多様であるため、様々な専門性を持った多職種で切れ目ない支援をしていくことが必要です。今回は、私が勤務する東京都健康長寿医療センターの多職種のインタビューを紹介しながら、認知症高齢者の支援における心理士の役割について理解を深めていきたいと思います。

 

 

 

認知症高齢者支援の実体を解説。認知症の特徴、総合アセスメント、多職種連携の意義を学び、初期から終末期までの心理支援の重要性に触れます。(保健医療心理学特論第8回)♯放送大学講義録

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今回は、第8回の講義として、支援の実体としての認知症高齢者について取り上げます。今回の講義のポイントは以下の通りです。まず、基本的な知識として、認知症の特徴と総合アセスメントについて説明します。次に、認知症の経過と多職種による支援の意義を説明し、その後、4つの病期に沿って本人と家族への支援を取り上げます。

現在、世界一の長寿国である日本では、2025年に高齢者の5人に1人、約700万人が認知症になると推計されており、その対策は喫緊の課題となっています。今回は、認知症の初期から終末期まで、それぞれの経過で重要な心理支援について学びます。

 

 

 

 
 

子育ての孤立化が問題視され、コミュニティ支援が重要。アタッチメント理論と社会的ネットワークを通じて生涯発達を支える視点を強調します。(発達心理学特論第6回)♯放送大学講義録

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子育ての孤立化が問題視されています。子育てが「子供の育て」ではなく、「孤立の子育て」とも言われています。子育てを孤立化させずに、人の生涯にわたるより適応的な発達を支えるためには、いくつかの課題があります。

例えば、子育て中の親子をサポートする環境を作ることです。コミュニティ内で遊びのグループを作るなどの仕組みが必要です。この写真は、ドイツの親子サークルが香港で開催したイベントの様子を示したものです。親子が集まり、赤ちゃんのマッサージなどをしながら、互いの子育ての悩みを話し合います。そこにはアドバイザーが同席し、必要に応じてアドバイスもしています。

開放的なコミュニティであれば、子育て中の家族に声をかけ、「困っていることはないか」と尋ねることができます。しかし、オートロックのマンションでは、子供の泣き声が聞こえてきても声をかけること自体が困難です。物理的なバリアだけでなく、隣人が誰かわからない状況では、助けを求めること自体が難しくなっています。さまざまな形でヘルプの信号を発している親や子供に気づき、その声を聞く力を一人ひとりが持つことが今日の課題だと思います。

本日は人間関係の生涯発達をテーマに、特にアタッチメント理論について詳しく触れました。親子関係を中心としたアタッチメントの考え方だけでなく、より広い社会的ネットワークの中で人の発達を捉えることが、これからますます重要になると思います。今日の話がそうした視点への理解を深めることにつながると良いと思います。

 

 

 

アタッチメントと社会的ネットワーク(発達心理学特論第6回)♯放送大学講義録

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先ほどの図をもう一度見てみましょう。モデルBは、当初から親との関係だけでなく、仲間との関係も成立するとするものです。仲間に限定せずに人を取り巻く様々な人間関係を想定すれば、社会的ネットワークという人間関係の網の目によって、一人の人が支えられつつ育っていくと考えることができます。これが社会的ネットワークモデルです。

親と言っても、父親や母親だけでなく、祖父母や兄弟、近所の人間関係などの多様な関係性の中で人は育ちます。幼い子供であっても、身近な関係の中で人との関係を使い分けていることが知られています。日常のケアは母親、遊びは父親、甘えたい時には祖父母などです。

カーンとアントヌッチによって提唱されているコンボイモデルも社会的ネットワークモデルの一つと言えます。コンボイとは護衛艦という意味で、人の育ちを支え、人生という困難な航路を進む際に、その航行を守り、共に進んでいく護衛艦を周囲に持っていると考えるものです。最も身近なところで支える関係、中間的な関係、周辺的な関係の三重の円でモデル化していますが、実際にはもっと複雑な関係性の中で支えられているのが実態です。

アタッチメント理論に示されるような身近な人間関係の中で人が育つという視点は重要ですが、その特定の関係だけに依存することは、逆に人の成長にリスクをもたらすこともあります。家族やそれを取り巻くコミュニティの関係性が密で、様々なセーフティネットが機能していれば良いのですが、今日の虐待の問題などは、それが機能しにくくなっていることの表れでもあります。そうした意味で、社会的ネットワークの考えをもっと積極的に取り入れ、子供の育ちを支えるネットワークづくりが今日の課題だと言えます。

 

 

 

アタッチメント理論と多様な関係の影響(発達心理学特論第6回)♯放送大学講義録

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アタッチメント理論では、親子の特定の関係に焦点を当てています。ただし、人が育つのは親子といった閉じた関係の中だけではなく、実際には多様な人間関係の中で人の暮らしが支えられています。

この図は、人の発達を捉える際の2つのモデルを示したものです。モデルAは、乳幼児期の親との関係を土台として、児童期以降の親子以外の関係、特に同年齢の仲間との関係が作られていくというものです。モデルBは、発達の初期から親との関係と同時に同年齢の仲間との関係も作られ、両者が相互に影響を与えつつ人は発達していくというものです。アタッチメント理論はモデルAに該当します。漸成説(エピジェネシス)と言いますが、少しずつ人との関係が作られていくというものです。

アタッチメント理論は、ボウルビーが理論化した当初、モノトロピーを暗黙の前提としていました。モノトロピーの「モノ」とは「一つ」という意味です。アタッチメントの「指定席」が一つあり、そこに優先的な絆が作られ、そこで作られたアタッチメントの影響によって、その後の人間関係の発達が影響を受けるというものです。これが拡大解釈され、「母親剥奪理論」、つまり母親との関係が不適切な場合、その人の発達にネガティブな影響が大きくあるという見方に発展し、それに対する批判も出てきました。

子供の成長が特定の親との関係に大きく依存するという考えは、親に大きな負担をかけることになります。本当に特定の親との関係だけがその後の発達を決定するのでしょうか。実際、第2次大戦中にも、親を失った子供が互いに助け合いながら適応的な発達を遂げているケースが報告されていますし、私たちの今日の日常を考えても、親に全ての責任を負わせることが大きな問題となることも考えられます。

 

 

 

 

 

 
 

アタッチメントの成人分類と一貫性。(発達心理学特論第6回)♯放送大学講義録

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成人のアタッチメントも、4つのタイプに分類することができます。1つ目は、拒絶・脱愛着型です。これは、親との記憶に適切にアクセスできないタイプです。2つ目は、安定・自立型です。一貫した語りができ、適切に親との記憶にアクセスできるタイプです。3つ目は、とらわれ型です。親との関係やそれに伴う感情に囚われているタイプです。4つ目は、未解決・崩壊型です。語りの一貫性がなく、未解決の喪失やトラウマの語りが目立つタイプです。

乳児期のアタッチメントと成人期のアタッチメントにはどのような関連があるのでしょうか。乳幼児期のアタッチメントは、先に紹介したストレンジ・シチュエーションの手続き(SSP)によって捉えることができ、4つのタイプに分類されました。aタイプ、bタイプ、cタイプ、dタイプです。ここで捉えられるのは、その時の現実の乳児と親との関係です。そして、その親は、親自身が子供だった時の親との関係をアダルト・アタッチメント・インタビュー(AAI)によって捉えることができます。

もちろん、乳児だった人が成人になるまで追跡し、その人が親になった時にAAIを実施することもできます。ただし、成長するまでの追跡を必要とします。今日では、そうした追跡研究も行われています。アダルト・アタッチメント・インタビューでも、4つのタイプが区別されることが指摘されています。

そして、SSPとAAIのタイプには一貫性があることもデータ上で確認されています。乳児の安定型は成人の自立型に、乳児の回避型は成人の拒絶・脱愛着型に、乳児の抵抗・両極型(アンビバレント型)は成人のとらわれ型に、そして乳児の無秩序型は成人の未解決・崩壊型にと、アタッチメントタイプは生涯を通して一貫性が高いとされています。

なぜこうした高い一貫性が見られるのでしょうか。これは、アタッチメントの世代間伝達という概念で捉えられています。当初、ボウルビーは、幼少期の養育体験、つまり自分が育てられた時の体験に基づいて作られた内的作業モデル(インターナル・ワーキング・モデル)が、その人が親になった時に自分と子供との関係に適用されることから、アタッチメントの質の連続性が認められると考えました。その後の研究から、親の敏感性や家族の情緒的雰囲気などがアタッチメントの質の世代間伝達に寄与していると考えられるようになってきています。確かに昔から臨床の場で親子関係の難しさが世代を超えて影響するとの指摘がありますが、そのメカニズム自体は明確にはなっていません。

また、世代間伝達が指摘される一方で、「獲得された安定型」(Earned Security)と呼ばれる、過去の親子関係が不安定でありながら、後に適応的で安定したアタッチメントを獲得しているケースも少なくないとの指摘もあります。ネガティブな連続性を断ち切り、獲得された安定型のような安定した関係を作る要因を解明することは、今後の課題です。

世代間伝達を強調しすぎることは、自分自身の関係が不遇だった人が「自分が親になってもうまくいかないに違いない」という不適切な自己暗示を作ってしまうことになりかねません。臨床家としてはそうした視点を持つことも必要ですが、当事者にはむしろ獲得された安定型の事例が多々あることを強調しておきたいと思います。