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予言がはずれるとき(社会心理学第4回)

翻訳書を読んでみたいなと感じた。某宗教に入っている「ことになっている」ので、分析するのに面白そう。

 

レオン・フェスティンガー。「予言がはずれるとき」。この世の破滅を予言した宗教集団。それが結局は外れてしまった時、信者らの振る舞い。集団の中から信者を観察。関与観察。関心のある実験を設定したのが殆どだが、今回は異色。実験という手法を取らなかった訳ではないが。1年後には認知的不協和理論を唱える。その際には実験を用いている。何故宗教集団に潜入を試みたのか?宗教には様々な予言がつきもの。世界の破滅など。信者たちに影響を与え、最悪の結果を回避しようとする。しかし予言は外れるのが殆ど。外れた時は信者の信頼を無くすと思われがち。しかし様々な歴史的文献を読むと、全く逆なのにフェスティンガーらは気づく。より活発に布教活動をする。不協和、という概念で説明をする。まだ認知的不協和理論は出てこないが、骨格となる理論が書かれている。認知的不協和理論とは?不協和というのは認知の関係性。2つの認知が矛盾したものとすれば、不協和の関係にあるとされる。一人の人間が持つ心理に相容れないところがあった場合、不協和とされる。ヘビースモーカーが、煙草は肺がんを引き起こすというのは不協和。不協和は不安をもたらす。不快感情は不協和を低減する方向に。真っ先に考えられるのは喫煙行動自体を止めてしまうこと。とはいえ、大変難しい。ヘビースモーカーにとっては禁煙は並大抵ではない、過去も変えられない。その場合には、もう一方の認知の内容を変えること。煙草は肺がんを起こすというのは迷信、とする。煙草が健康に悪くないのなら矛盾はない。リスクを増加させるが、ストレス解消になってメリットの方が大きい。不協和のインパクトを減らす。不協和の源泉となるような認知を遠ざける。煙草と健康の関係を取り上げたTV番組を見ない。より熱心な布教活動に勤しむ。予言が外れる、不協和が発生する。教団の予言はあてにならない。不協和の解消に迫られる。教団を脱退する?教団と関係なければ予言が外れても関係ない。しかし戻るべき場所が無くなるし、時間や金銭が無駄になる。予言は外れていないという認知、私達の祈りで予言が外れたのだ、という認知。社会的証明。様々な宗教集団の文献で、理論を組み立てる。しかし理論が限定的。教団に観察者を送り込み、プロセスを把握しようとした。キーチ婦人。教団は実在。終末思想。大きな洪水が遅い、信者のみ救出される、という教え。宇宙人からの啓示。生物は知性や技術を持っている。定期的に宇宙人のメッセージが伝えられる。空飛ぶ円盤で地球の外へ連れ去ってくれる。しかし予言は外れる。しかし布教活動は活発化する。マスコミへの態度。予言の前はマスコミからのアプローチは殆ど拒否的。予言が外れると、マスコミに積極的にアプローチ。自ら導かれて信者になるとされた。予言が外れると、熱心に勧誘しだす。予言の内容すら外部に知らされなかったが、予言が外れると秘密は公開される。実は外れていない、という説明も。予言日の偶然の出来事を予言の一部的中と。新たな予言として続いている、とも。教団や信者たちの行動は認知的不協和理論に沿っている。フェスティンガーと同様のケースが。日本。京都に大地震が起こると予言。外れると教祖は割腹自殺を図る。死ななかった教祖は解散を宣言して教団が無くなった。しかし信者らの教祖への信頼は揺るがなかった。認知的不協和理論としての理論的根拠は不充分。現実に起こった出来事は理論の根拠としては問題。改めて実験を。フェスティンガーはもっと幅広い人間に適用できると考えていたので、実証をしようとする。最も有名な実験。被験者は極めて退屈な作業を1時間。わざとつまらないと思わせる。被験者には、作業を行う際に事前の期待があるかどうかを調べたけれど。さくらを務める人が来なくて困っているので、代行してもらえないだろうか。偽りのストーリー。レセプションと呼ばれる嘘を実験で使うことがある。使ったとしても必要最小限に留めることが必要だし、からくりを明かして理解を求めることも必要。請け負った参加者の内、20ドルと1ドルの報酬。別の部屋で待つ別の被験者に、面白かったと伝える必要がある。相手を説得する必要がある。結果は奇妙。1ドルしか与えられない参加者は面白かったと。20ドルの参加者は純粋に参加した人と評価が変わらなかった。本来の気持ちを偽って伝える。認知と行動についての認知に不協和。報酬として20ドル。自分の行為を正当化出来る。嘘でなく仕事の一部だったなどと幾らでも言い訳が。1ドルの場合、正当化には充分な報酬とは言えない。1ドルで他人を騙してしまった。強い認知的不協和。大きな圧力。言ってしまった事実は変わらない。作業は実際には面白いものだと考えを変えることで、認知的不協和を解消する。報酬がわずかであっても何の問題もない。1ドル条件は20ドル条件より面白いと自己暗示をかけて正当化した。この他にも実験が。それに対する報酬や罰が充分だった場合には不協和は生じないが、不充分だったら不協和が生じる。不充分な正当化実験。認知的不協和理論は適用範囲が広い。自分を振り返る時にも使える。認知と認知の間に不協和が生じる。それを解消しようとするのは生得的なものかもしれない。認知的不協和理論は古典としての理論となっている。
面白いと感じた点。興味深いのは当該の宗教集団がどのような反応をしたのかが詳細に描かれている。社会心理学の専門書の枠を超えてルポルタージュとして。56年の出版だが、邦訳書が出版されたのが95年。オウム真理教も終末思想を持っていた。大いに参考になる。翻訳者の解説も事細かに書かれている。新興宗教にも参考になる。信者たちの振る舞いは熱心な信者によく見られる。自分には関係ないと思うのは危険。宗教という枠を取り除けば、特定の活動にのめり込む人はよくいる。仕事や好きなアイドルなど。特定のモノ・コト・ヒトにのめり込むのと宗教との違いはない。時間や費用をかけているものが否定された時に認知的不協和が起こるのはあること。退路を作っておくことが必要。否定されても受け入れる心の余裕も。如何に自分の過ちを受け入れられないか。不協和を解消しようとしてかえって悪化することも。不協和を冷静に分析を。状況のみではなく自分の置かれた状況をどう捉えるか。状況と認知の関係をどのように捉えるか。状況の力は協力。行動は大きく影響される。報酬が小さい場合に面白いと感じた点。原書の時代は行動主義が幅をきかせていた頃だった。私たちの行動を予測するにはどう考えているかという点も考慮する必要がある。20世紀後半になると認知革命に影響される。次回以降も認知に着目する研究を取り上げる。認知主義的社会心理学の魁に。わずか1ドルの報酬、というオーバーな表現。心の声は一般に自覚されないし、意図的に捉える訳でもない。自動的にその状況を解釈して。多くの過程は無意識的。「影響力の武器」。

 

社会心理学 (放送大学教授)

社会心理学 (放送大学教授)