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盛期スコラ学とイスラム哲学(西洋哲学の起源第13回)

未だにヨーロッパ世界の「中世」は暗黒な世界であったとのドグマが一般的なのは嘆かわしい。

 

桑原直己。13世紀。哲学と神学を中心とする学問は飛躍的発展を。大学という知的空間の成立。12世紀に知識人のギルドとして成立。中世ヨーロッパの特徴は政治的多元性。自治権を得て独立性を持つ都市の中でのギルド。大学の起源は大聖堂附属学校や著名な知識人の元での私塾などの学校。教師と学生とが自分たちの権利を守るために団結して大学を形成。大学というラテン語はギルドを意味する。ギルドにおける親方と一緒の言葉。パリ大学、ボローニャ大学、オックスフォード大学などの理性的大学。大学は内部的には徒弟である学生たちの教育過程。終了した者に学位を授与して教授陣への資格を与える。大学は対外的には一個の政治権力として、自分たちの権益を守るべく外部権力との闘争。教師と学生との人的結合体。施設に依存していなかった。闘争の1つの形態。解散してしまい場所を移す戦略もよく取られる。移住による大学。パリ大学からオルレアン大学、など。オックスフォード大学からケンブリッジ大学がそれぞれ派生。大学は中世知識人の努力により真理を達成する原理を。教皇による直接の保護を求める教皇庁も大学に好意的だった。大学の自由と特権を保護。努力の結果、自治権、裁判権からの独立。納税や兵役の免除、など。フリードリヒ二世。皇帝などにより作られた大学というタイプが登場。国立大学の魁。通常は神学法学医学人文学の四学部。人文学は当初、基礎教育としての自由学芸。後になってアリストテレスを研究するようになり、哲学部が他の学部と肩を並べる。スコラ学の営み。講義と討論。購読。音読だけでなく対象となる書籍の解説も。主として聖書や神学の教科書。他に古典としての権威を持つ書物。哲学者などの。アリストテレスの著作も講義の対象とされるように。註解へと結実。討論。中世大学の特徴。討論集という著作に結実。討論の基礎単位は項。具体的命題の当否が論じられる。命題に対する賛否のそれぞれの根拠が開陳。賛否いずれかの教授の見解の論拠を詳しく。反対議論。諸々の根拠を整理して捌く。討論集では主文となる。教授自身の見解。鍵となる対立が生じる基盤そのものを明らかにする。賛否両論の論拠に対し個別的に答える。アクィナスの神学大全のような大全という形の著作。独立した体系的な著作。論文の形でなく知的対決のダイナミズムを。体系的な著作すらも討論の知的なダイナミズムを包含するところにスコラ学の真骨頂が。
托鉢修道会の成立。修道院の変化。11世紀や12世紀。原点の回帰の宗教運動。修道者から一般民衆まで幅広い人を巻き込む。都市の出現と貨幣経済の成立発達の社会変化がもたらす。格差社会の発生で貧しい人に応える宗教的課題を。清貧の理想が強調。修道者はベネディクト系でも清貧や禁欲的な修行を徹底。他に巡回説教を。民衆的宗教運動などが。過激な方向を取った指導者の中には教会の権威を拒み反抗して異端となるものも。12世紀の登場のドミニコ会、フランシスコ会などの托鉢修道会。時代の要請に対して定住の原則の放棄を。托鉢修道士。清貧を徹底して法人としても土地所有の放棄。信徒からの喜捨に頼る生活を標榜。貧しい人の声への応答。托鉢修道会を喜捨として支えることが出来るほど都市が成長。ドミニコ会にせよフランシスコ会にせよ清貧を自己目的とするわけではない。キリスト教、神による統一の為に学問研究に力を入れ大学として都市に進出。2つの代表的な托鉢修道会には性格の相違が。11世紀から12世紀の民衆的宗教運動の高まりを背景とするが。聖職者が発祥となったドミニコ会は上から対応しようとする。民衆的宗教運動を起源とするフランシスコ会。創立者の謙遜の精神により下からのエネルギーを正統カトリック教会に吸収する働きを。
イスラム哲学。中世の前半までの西洋世界はボエティウスで伝えられた一部の論理学の書籍を除きアリストテレス哲学を知らなかった。この論理学を旧論理学と呼ぶ。イスラム世界では10世紀なかばまでにアリストテレスの著作が知られていた。イスラム世界のアリストテレス研究者。イブン・シーナー、イブン・ルシュドなど。新プラトン主義者の著作が誤ってアリストテレスとされ、全般的に新プラトン主義的な要素が混じり込む。アリストテレスの著作の全てに膨大な注釈をつけた。アリストテレスに忠実に。アリストテレス哲学は正統イスラム教神学と微妙な関係に。イスラム神秘主義者から批判の的に。アリストテレス哲学の受容。アリストテレス哲学が流入する以前の西洋の知的世界を支配していたのは新プラトン主義の形而上学に立脚して。アウグスティヌス的な哲学の枠組み。あらゆる心理の認識は神により照らされることで成立する。照明説。価値的継承が最高の知性である神から注がれる。神を自己の魂の内面性のかなたにおいて出会うべきものとして探求する。新プラトン主義そのものはむしろ汎神論的な神秘主義に親和性がある。古代末期から中世前半にかけてのキリスト教思想家の長年の努力により、キリスト教的に解釈された新プラトン主義は統一的な世界観が西洋中世の知的世界を支配する思考枠に。俗にアリストテレスショックという知的変革が。アリストテレスの学問は、経験的な観察に基づく知識と形而上学の統合が為された体系。キリスト教化された新プラトン主義の伝統とは異なり、アリストテレス哲学の中にはキリスト教に異質なものが。世界の永遠性という思想に見られる、創造説と矛盾する完結した自然。とくに問題となったのが、知性単一説。アリストテレスは感覚的能力以下のものは身体器官に依存し身体の死とともに滅びるべきものと?全てのものを作る知性、一般に能動知性、すべてのものになる知性、可能知性。能動知性は万人において統一。新プラトン主義、照明説的なものと。キリスト教世界に対し、知性単一説は能動知性のみならず可能知性も万人に単一。アリストテレス哲学の流入に対して西洋世界の知識人は概ね3通りの反応。保守的アウグスティヌス主義。フランシスコ会系の神学者。急進的アリストテレス主義。パリ大学。ラテンアヴェロエス主義。キリスト教との関連を排除しない。完全な分離、二重真理説という帰結に。キリスト教的中道アリストテレス主義。アリストテレス哲学そのものを研究した上でキリスト教世界と調和する。ドミニコ会の。トマス・アクィナス。
徹底した謙遜と清貧を目指す。フランシスコ。清貧謙遜を理想とする。学問関係に緊張関係。学問研究を容認。フランシスコ会士はオックスフォードとパリで大学に進出。オックスフォード。自然学を初め、今日では幾何光学的な形而上学までの独自の世界観。1224年にオックスフォードでのフランシスコ会神学校で教鞭を。フランシスコ会士のベーコン。障害となる無知の原因。自己の無知の隠蔽など4種類。イスラム圏などから先進的な知識の必要性を。論理学よりむしろ数学の重視を。視覚論や科学などの普遍学の構想を展開。経験的事実や実験観察を重視。近代科学の先駆者。パリでは。パリ大学の教授としてアリストテレス哲学などイスラム圏の思想を取り入れる。新プラトン主義の枠組みとも。ボナヴェントゥラ。アウグスティヌスに発する修道院神学の系譜に連なる。フランシスコのキリスト精神と結びつける。ボナヴェントゥラはアリストテレスを経験的には多くの学知があるとして尊重。プラトンの見解を評価して英知とする。プラトンは学知を破壊。アリストテレスは英知を破壊。それぞれ誤りがあるとする。アウグスティヌスこそが両方に目を向けたと。ボナヴェントゥラの形而上学。神は存在の根源。認識の根拠。生活の規範、というアウグスティヌスに依拠。存在の根源。被造物が神に似て被造物は何らかの形で神を反映。神は認識の根拠。真理そのものの神が。キリスト中心主義に結びつく。キリストは御父の被造物の中心。キリストは全ての照明の源泉。あらゆる知識の媒体。キリストという媒体の中に形而上学の全てが包含されている。最高位者から。キリスト中心主義の帰結として、キリストという源泉を持たない哲学は真理に達しえない。哲学が神学に従う。全く信仰の補助なしに構築されたアリストテレスの哲学は誤謬に陥らざるを得ない。新プラトン主義にしても誤謬を免れない。理性の光はより上位の光なしに真実に達しない。ボナヴェントゥラにとり、真理の哲学的認識は、神に向かう上昇の道の中に。自然的存在者自体は認識対象ではない。内なる魂へと立ち返る。アウグスティヌス的探究の方向性。魂は根拠としての絶対的なもの、神を見るもの。有限なものを通して無限なものを、という上昇的な。外的感覚的世界の自然事物から出発。魂を経て神に至る。意志と愛に導かれる全人格的な実践。意志の優位を主張する、フランシスコの主意主義。主知主義に対する。ドミニコ会のアルベルトゥス・マグヌス。アリストテレス哲学の受容に積極的。当時のあらゆる新知識を貪欲に吸収することを求め、自然科学的なものなど全てを西洋に導入しようとする。アリストテレスの全ての書物をラテン世界に紹介。自然学の書目を註解するに留まらず。自然学の実証的な研究、現在の経験科学を。自分で観察を導入してアリストテレスの説であっても訂正を憚らなかった。知性論的にはドミニコ会の神秘主義的なものの草分け。トマス・アクィナスの経験論とは対照的。

 

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トマス・アクィナスにおける「愛」と「正義」

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