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1980年代からの思想状況(現代フランス哲学に学ぶ第12回)

第二次世界大戦以降のフランス哲学は難解だと避けてきたが、そうとも言えない思想状況にある。

 

杉村靖彦。1980年代からの思想状況。
便宜的図式。実存主義構造主義ポスト構造主義。60年代から70年代の構造主義のインパクト。明確な転回点。思想変動。総じて実存主義は現象学を武器に人間の主体性を具体的姿で。しかしそこに構造主義は人間主義の最後の抵抗を見て取る。構造に置き換える。スケールを大きくとり文明史的な。人間の支配を拡大してきた西洋近代の趨勢に対して根本的問い直し。先進国で問い直しが同時多発的に。激しい運動。いわゆる5月革命。学生労働者は投石する。
全面的な異議申立ての後が80年代。別種の混迷と混乱。簡単にポスト構造主義と済ませられない。全体像が。実存主義的な社会参加でも異議申立でも済まない複雑な。方向性が描けなくなり資本主義社会は高度化しグローバル化に。切り開くべき未来が見えなくなり過去が。負の遺産や対独協力の負の記憶。
構造主義後の錯綜状況。対立する2つの流れ。異議申立ての精神を推し進め先鋭化。ポスト構造主義やポストモダンの思想群。リオタール。西洋近代を方向づけた大きな物語は終わり。無数の差異を孕んだ小さな物語に。ミクロな次元に。人間の歴史の新たな段階に。主体や人間を再評価する動き。敵対関係。共同著作。68年世代の反人間主義を告白し主体の復権を。主体性の概念の中の普遍性の可能性を。公共空間の再構築。2つの流れは正反対?向かい合う。双方には多くの点で交錯し合う。80年代の思想状況の特徴。倫理や宗教の次元が言及されるように。主体や自己が改めて浮上して他者が全面に。そこから自己と他者の対概念自体が組み直される。錯綜状況を読み解く。差異との対比を意識して他者をキーワードとして。
ソシュール。言語を差異の体系として。構造主義隆盛の思想が差異がキーワード。デリダ。ある記号の意味は差異によってのみ成立。恣意的。差異の哲学は主体の同一性を揺さぶり、抑圧性と暴力性を暴く。異議申し立ての哲学として機能。同一性と絶対生への批判。80年代にも引き継がれる。差異の戯れだけではなく、他者の姿。他者の告白に晒す心理的な。レヴィナスの再評価。61年の「全体性と無限」。動の帝国主義としての暴力性。他者の顔。無限の責任へと目覚めさせる倫理性。全体性の手前まで立ち戻らせる。70年代までは知られていなかったが、突如として注目。倫理的な意味を帯びた他者が持ち出されるように。2つの流れ。他者というモチーフが台頭。80年代の2つの流れが交差する。同一性と全体性に照準を定めた哲学。差異の哲学者と方向性を同じ。レヴィナスは批判を他者への倫理的関係として。主体の復権陣営と触れ合う。レヴィナスの他者哲学への関心。象徴的な出来事。デリダ。差異の哲学者は他者を語り倫理性を。倫理の復権の印。
差異から他者への重心移動。主体や自己のあり方を問い直す。構造主義の主体性解体の前に逆戻りするのではなく。差異の思想を経て。他者からの自己の受け身性。非対称性。他者にはまたその他者が。他者への関係は二者関係ではなく自己は排除される第三者としての無数の他者にさらされる。自己は矛盾と緊張を。引き裂かれて決して自己自身を手中に納めない。他者たちの呼びかけは応答を求める。自己は社会的存在であり無数の他者と関わる公共空間に。主体の後は誰に?解体された主体の後は空白ではなく誰かが到来する必要。断絶を挟んで別の仕方で主体や自己を。別の主体の正体は?問のままで有り続ける。闘魚も出来ず引き裂かれつつ。何処までも問でしかありえない自己に新たな表現を。ますます錯綜する状況に立ち向かう。極めて語り難い。神学的語彙を再活用。レヴィナスの他者論にはユダヤ系の特徴が。汝殺すなかれ。主体の解体後の時期に影響力。デリダも決定不可能性こそ主体の特異性が。宗教的語彙を用いて。現象学。マリオン「憎悪の現象学」。ラディカリズムに忠実なものでも神学を。考察すべき別の主体が倫理の手に余るものと認識したからこそ。79年のイランの革命。宗教的なものが世界に。主体性や人間性の近代の理念に。宗教的なものの再活用。
80年代以降のフランス思想には回帰のトーンが陰影的な。フランス社会が過去の回帰に直面する時期に。フランス社会の集団的次元の記憶の関心に。84年から「記憶の場」7巻。フランスの共同記憶を網羅して歴史学的に描く。歴史学の枠を超えて大きな反響。過去の影響を讃える慾望、集団的記憶には負の側面も。同時に加害の記憶から目を背けられない。対独協力など。抑圧されたものの再起。全体主義や世界戦争植民地主義。被害者からの。他者が重要なトピックに。社会の背景。レヴィナスが関心を。潜在的に犠牲者だからこそ加害者に倫理的に。別の主体を追い求める作業は錯綜した。無数の他者が私に呼びかける。無数の他者に含まれるのは時間空間が同じではない。過去の死者も記憶せよと。過去の記憶をかき集めアイデンティティを再構成。死者たちの呼びかけが突き刺さる。歴史の問が哲学的言説の内に回帰する。もはや大文字の歴史を語り目的性を読み解くのではなく。無数の生の瓦礫。非連続を。問と化した自己。別の主体。既に社会的存在であるとともに歴史的存在。
80年代からのフランスの思想状況。基本的な。特定の思想家に代表させるのは不可能。異議申立ての時代をリードした思想家たちが語りを屈折させる。人間の復権を叫ぶものも人間主義の問い直しを。大きな歴史に影響させるのではなく。見通しの効かないグレーゾーン。時代を代表する思想家を特定は出来ないが、困難を構成する全てに応答しながら思索を進める思想家を。ポール・リクール。リクールの名で代表させるのは奇妙?13年産まれ。50年代には意思の現象学を。現象学研究に貢献。実存主義の流れにも関与。解釈学を標榜。媒介的な主体性のあり方を。構造主義の前提を批判したが成果からは学び橋渡しを。リクールは各段階で大きな役割を。レヴィナスのように突如評価されたわけではない。80年代以降定期的に刊行するものが影響を。リクールのフランスの知的空間への帰還。遠ざかったことを。元来のスタイルは多種多様な思想を丁寧に読み解き交差させて自らの考えを。同時代の思想には鋭敏に反応して対話を怠らない。総じて現代思想の水先案内人として。下手をすると独自色の薄い折衷的な。裏目に出たのが異議申し立ての時代。新たな思想を学び自らに。解釈学を標榜するが直ちに確定した哲学的立場ではなく対話の中で鍛えることを。リベラルな姿勢は充分にラディカルではないと。「フロイトを読む」。ラカン派の批判。大学改革の動きに共鳴してパリ第10大学に赴任。文学部長に。状況は大学制度自体を破壊する方向になり収集がつかない。警察が入り文学部長を辞任。ゴミ箱を頭から。リクールの影は薄くなりアメリカのシカゴ大学での教育研究に。75年の著作。リクールが80年代になりフランスで再評価された。「時間と物語」全3巻。「記憶歴史忘却」。05年に逝去する直前まで大著を。しかし姿勢は変わらない。あらゆる思想を学び交差させながら自らも考える。むしろ時代の方がリクールの思索を必要とする。自己への喚起。自己と他者の立ち直す。錯綜と葛藤の中の歴史。自らの思索に同時代の問題状況の全てを反映させ時代の伴走者として。自らの思索をゆっくり熟成させゆるやかに取りまとめる。リクールの到達点を唯一の解答にする必要はない。最後まで未完成を旗印に。最後のページに一節が。歴史の底には歴史と忘却が。その下は生。意図して未完成な哲学。常に新たな問へと。同時代人にも自ら考えることを。次回からは20世紀の思想課題を。

 

 

 

ポール・リクールの思想―意味の探索

ポール・リクールの思想―意味の探索

  • 作者:杉村 靖彦
  • 発売日: 1998/02/01
  • メディア: 単行本