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使用者の懲戒処分権限とその法的根拠、固有権構成から契約説への移行、就業規則の重要性と最高裁判例を概説。(雇用社会と法第4回)#放送大学講義録

-----講義録始め------

 

そこで、そもそも使用者が懲戒処分を行うことができるかどうかという法的論点を確認しておきましょう。

契約を締結した当事者が、通常、相手方に対して懲戒処分などの処分をすることは考えられないところです。ですが、労働関係においては、使用者側に懲戒処分が法的に認められてきました。これをどのように説明するかが、かつて学説では争いがありました。

かつての主流派は、固有権構成と呼ばれる考え方に立っていました。固有権構成とは、企業の秩序維持の観点から、固有に懲戒権が正当化されるというものです。この説に立つと、就業規則の規定がなくとも懲戒処分の権限が使用者側にあるという立場になります。

しかし、現在では契約説の考え方が主流となっています。つまり、労使間の合意があるからこそ、懲戒する権限が発生するという考え方です。つまり、就業規則等の規定が必要だという立場が現在の主流の立場になります。

判例の立場をどのように考えるかが1つの争点となり得ます。この点に関する最高裁判例としては、関西電力事件、フジ興産事件があります。フジ興産事件の最高裁平成15年10月10日判決では、就業規則に懲戒の種別と手続が定められていない限り、使用者は懲戒処分をすることはできないと考えていることがわかります。このような立場に立つと、判例の立場は実際には契約説に近い立場であると理解できます。労働契約法第15条にも懲戒に関する規定が置かれています。現在では、懲戒処分を行う場合には契約上の根拠がなければできないと解するのが多数派の立場と言えます。つまり、懲戒処分を行うには、就業規則の規定が整備されているというのが前提になります。この点は、実際に争いになった時には重要なポイントになります。