F-nameのブログ

はてなダイアリーから移行し、更に独自ドメイン化しました。

平井宏典教授と公立博物館財政の現状(博物館経営論第1回)♯放送大学講義録

(-----講義録始め-----

 

今、投資家の話が出てきましたが、投資家が適正な判断ができないと困るという話でした。それを公立博物館の場合に置き換えると、どう考えれば良いのでしょうか。

はい。以前、私が研究である私立の美術館へ財務に関するヒアリングに行きました。そこで担当者の方が「うちは入館料収入が1割ちょっとしかなくて、お恥ずかしいんです」と言われました。ですが、私は「入館料収入が1割ちょっとという数字は、この県の県立美術館とほぼ同じですよ。予算も人員も充実している県立館と一緒なんですから、恥ずかしいことなんて全然ありません」と返しました。

各館が抱える事情は異なるので、安易な比較は避けるべきですが、比較可能な財務データを整備する理由はここにあります。私がこうした研究に取り組むのは、各館の経営努力がどれほどのものかを測る物差しを提供したいからです。

議会、設置主体、市民に自分たちの経営状況を正しく伝える財務情報データは、ある種のコミュニケーションツールと言えるでしょう。

そうですね。財務データは納税者や市民、議会に対するコミュニケーションの道具としての役割を持っているということですね。ありがとうございます。

先ほども申し上げましたが、平井先生は数年前から年報などで公開されている財務情報を基に、都道府県立博物館の財政面の経営努力を可視化する研究を続けておられます。その結果や見えてきた課題についてお聞かせください。

わかりました。先ほどお話しした都道府県立の55館から、分析可能な収支データを提供している42館の財務分析を行いました。経常的な費用、つまり毎年定期的にかかる費用のうち、設立主体からの運営費を除いた自己収入の総額の平均は20.51パーセントでした。

つまり、都道府県立館は年間の全ての支出のうち大体2割を自分で賄っているということです。この研究では、この数値を自己収入対経常費用比率として、他の博物館でも適用してみたいと考えています。しかし、この20.51パーセントという数値を少ないと見るか、多いと見るか、妥当と見るかは議論が必要です。これは単なる事実、数字であると考えています。

この研究の大きな課題は、取り扱うデータの統一性です。今回は各館が年報で公表しているデータを基にしましたが、科目名などに統一性がありません。インターネットで誰でも確認できる年報の数値を使用しているため、研究の再検証は可能ですが、客観性や比較可能性についてはさらに考察が必要です。