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社会経済的地位と健康の格差: がんを中心に(ヘルスリサーチの方法論第4回その3) #放送大学講義録

身も蓋もないが研究結果は事実なのだろう。

 

-------講義録始め------

 

次に、患者、病気や障害を持つ人、あるいは家族、地域として、異なるレベルでの研究対象の捉え方と研究のアプローチについて紹介していきます。人間の集団において、疾病や異常の頻度と分布について、人の属性、時間、場所の面から観察して、その特徴を明らかにする疫学的なアプローチがあります。国や都道府県、学校、職域別など人口集団別の特徴を把握することによっても、人口    集団の特徴が疾病の発生と関与しているかどうかの考察や、疾病対策を考える上での優先度を考える手がかりになります。患者調査や死因別死亡率などの動向は都道府県、市町村別にデータが公表されているので、別の目的で取られた都道府県別、市町村別の経済的状況や消費特性などの統計と組み合わせて関連を検討することが可能です。また、健康のリスクは、生物学的要因ばかりでなく、社会経済的要因によっても異なることが明らかにされています。健康の格差の原因が社会経済的な状況の違いによる場合は介入が可能である場合が多く、また、社会経済的な状況による健康格差は道徳や倫理的観点からも不公正であると考えられます。社会経済的地位が低いものには抑鬱が多く、要介護状態に陥りやすいだけでなく、死亡率も高いことが明らかにされています。また、日本人の死因で最も多いがんの理解については、がん全体を対象とした場合、社会経済的地位が低い人ほどがんに罹患しやすく、がんにより死亡する確率も高いことが示されています。また、がん発生要因への暴露や、喫煙や肥満、野菜や果物の摂取不足など、好ましくない健康習慣を取る割合が社会経済的地位の低い人たちの方が高いということと関連していることも示されています。さらに、がんの種類にかかわらず、がん診断後の生存率は社会経済的地位が高い患者ほど高く、反対に、診断後の死亡率は社会経済的地位の低い患者ほど高いという関連性が報告されています。これは、社会経済的地位の低い患者において、受信のタイミングが遅かったり、早期発見のためのがん検診の受診がされていないことと関連しているためと考えられます。その背景には、予防や検診についての正しい知識が得られにくかったり、検診を進めてくれるかかりつけ医を持たないこと、地域的条件として検診機関へのアクセスの悪さといった社会的な不利が関連しています。大阪府67自治体の地域研究や国民生活基礎調査を用いた分析でも同様の結果が検証されています。