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アルコール離脱症状とその危険性(精神疾患とその治療第10回)#放送大学講義録

ーーーー講義録始めーーーー

 

離脱症状(Withdrawal Symptoms)とは何か

離脱症状(withdrawal symptoms)とは、長期間アルコールを摂取し続けていた人が急に飲酒を中断した際に生じる、さまざまな身体的・精神的な不調の総称であり、いわゆる禁断症状のことです。


主な離脱症状

離脱症状 説明
振戦(しんせん) 手や指が細かく震える。軽度の段階でも最も典型的な初発症状の一つ。全身に及ぶこともある。
全身けいれん(てんかん様発作) アルコール離脱に伴う強直・間代性けいれん発作。重篤な場合にはてんかんと区別困難になる。
アルコール幻覚症 飲酒を中断した直後に、実際には存在しない音(幻聴)や物(幻視)を知覚する。現実検討力は保たれる。
アルコール離脱せん妄(振戦せん妄) 意識障害、幻覚、錯覚、震え、興奮状態を特徴とし、最も危険な離脱症状の一つ。栄養障害(特にチアミン欠乏)も併発し、生命を脅かす。

アルコール離脱せん妄(Delirium Tremens:DT)

  • 発症時期:長期飲酒者が急に断酒してから通常48~72時間以内

  • 症状:強い振戦、興奮、幻覚(特に小動物幻視)、見当識障害、意識混濁など

  • 合併症:自律神経系の不安定(高血圧・頻脈)、脱水、感染症、死に至る可能性もある

この状態は精神科救急レベルであり、栄養補給(特にビタミンB1=チアミン)と抗精神病薬、ベンゾジアゼピン系の使用が必要です。


離脱症状による悪循環

離脱症状は体内に十分なアルコールが存在する間は表出しません。そのため、離脱を避けようとして飲酒をやめられず、常に一定量のアルコールを体内に維持するという行動が常態化します。これが悪循環を形成します。

たとえば:

  • 手の震えが目立たないように、バッグにウイスキーの小瓶を常備して、

  • トイレや人気のない場所で隠れて飲酒を続ける

  • 症状を隠すために職場でも秘密裏に飲む

このような行動は「隠れ飲酒(covert drinking)」と呼ばれ、依存症が進行している兆候の一つです。
当然ながら、いずれ周囲に発覚し、人間関係の悪化職業生活の破綻を招くことになります。


まとめ

離脱症状はアルコール依存症の診断における身体的依存の明確な指標です。特に振戦せん妄は命に関わることから、断酒を行う際には必ず医療的なサポートが必要です。無理な自己断酒は危険であり、専門医の監督のもとで行うべきです。