ーーーー講義録始めーーーー
経営情報学と組織
――オープンシステムとしての組織・目標追求システムモデル
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さて、システム志向を基盤とする経営情報学では、組織は情報処理システムとして捉えられることをお話ししました。組織を情報処理システムとして捉えるとき、組織はオープンシステムであり、かつ目標を追求するシステムであることに留意しなければなりません。オープンシステム論では、組織は環境から投入を受け取り、それを変換し、成果として環境へ返し、その結果についてフィードバックを受ける存在として理解されます。
■ 組織はオープンシステムである
情報処理システムである組織にとって、環境と相互作用することは、組織の維持や発展のために必要不可欠です。すなわち、組織はオープンシステムとして、環境との間で人・物・金・情報といった経営資源の投入を受け、それらを組織内部で変換し、財やサービス、意思決定、影響などの成果として外部へ返しています。そして、その成果に対する反応が再び組織へフィードバックされることで、次の活動や意思決定が方向づけられるのです。Katz と Kahn のオープンシステム論でも、組織は環境と相互依存的な関係を持ち、外部からの投入なしには安定的に存続できないと考えられています。
ここで注意すべきことは、組織と環境との境界が自然に一義的に決まるわけではないということです。関連企業、顧客、株主、規制当局、地域社会などを、どこまで組織の内部に含めて考えるか、どこからを環境として捉えるかは、考察の目的によって異なります。したがって、一般に組織を広く捉えれば視点はより包括的になりますが、その分だけ分析は複雑になります。考察の目的に応じて、境界を慎重に設定しなければなりません。
また、組織は環境に適応しなければならないだけではなく、環境に働きかけ、環境を変化させる存在でもあります。たとえば企業は、市場の変化に受け身で従うだけではなく、新製品の投入、価格設定、広告、標準化、制度提言などを通じて、市場や制度環境そのものに影響を及ぼします。この意味で、環境もまた組織と相互作用するもう一つのシステムとして理解することができます。
■ 目標追求システムモデル
情報処理システムとしての組織は、目標を追求するシステムでもあります。組織は、「こうありたい」という目標状態を設定し、現状とのギャップを埋めるために意思決定を行います。換言すれば、組織における問題とは、目標と現状とのずれとして理解することができ、そのずれを縮小するために情報収集、判断、実行、評価が繰り返されるわけです。
そこで、目標追求システムモデルでは、組織活動を、何らかの目標の実現に向けた行為として説明します。この意味で、刺激に対する反応を直接的に説明する因果的モデルとは異なり、目標を媒介にして行動を説明する目的論的ないし goal-seeking な見方に立つものと言えます。因果モデルでは刺激と反応の対応が中心になりますが、目標追求モデルでは、そのシステムが何を達成しようとしているかが、情報の意味や行動選択を理解する鍵になります。したがって、両者は完全に同じ説明ではなく、観察者や研究者が何を説明したいのかによって、使い分けられるモデルだと考える方が適切です。
目標追求システムモデルを用いて組織を捉えると、組織は、競争優位や収益性のみならず、新たな価値を創造するために、環境と相互作用しながら意思決定を行う情報処理システムとして理解することができます。ここで重要なのは、組織行動が単なる反応の積み重ねではなく、目標に照らして意味づけられた選択の連鎖であるという点です。
■ 目標追求システムモデルの図解

この図が示すように、組織は大きな枠として示され、その内側に階層的な意思決定機能と、その決定の対象となる業務プロセスが置かれています。そして、環境は組織の外部にありながら、組織と絶えず相互作用しています。
意思決定機能は、選択レベル、適応レベル、自己組織化レベルという三つの層と、ICTベースの情報システムから構成されているものとして理解できます。ここでの三層は、日常的な選択、前提の見直し、構造や原理の見直しという異なる深さの意思決定を区別するための概念的整理として読むのが適切です。これらが相互に結びつくことで、組織の維持と発展が可能になります。
選択レベルでは、与えられた目的、および事実と価値に関する前提のもとで、最も望ましい選択が行われます。選択された行動プランは、決定変数として業務プロセスに入力され、環境からの影響を受けながら何らかの成果を生み出します。ここでいう決定変数とは、組織が比較的主体的に選択・調整できる行動や計画を指しています。
適応レベルでは、外部環境の変化や組織内部の成果に関する認識に基づいて、意思決定の前提や判断基準を見直します。したがって、適応は受動的に環境へ従うだけではなく、環境変化を踏まえて前提条件や行動方針を調整する働きとして理解する方が適切です。
自己組織化レベルでは、組織は自らの構造、役割分担、ルール、基本原理を見直し、より根本的な変化を遂げる可能性を持ちます。自己組織化とは、外部からの中央集権的な命令だけによらず、内部の相互作用から秩序や構造の変化が生まれることを指します。複雑系の議論では、自己組織化は自律的発展の契機である一方、環境適応とも補完的な関係にあります。したがって、自己組織化は「環境から独立して起こる変化」と単純化するより、組織内部の相互作用を通じて構造的変化が生まれることとして理解する方が適切です。
業務プロセスでは、環境から、たとえば為替や金利のように当該組織が直接には統制しにくい変数、すなわち非制御変数が入力されるとともに、製品開発プランや営業方針などの組織の意思決定から得られた決定変数が入力されます。業務プロセスは、この二種類の変数を受けながら実際に成果を生み出すプロセスです。そして、その成果はモニターされ、意思決定機能へフィードバックされ、評価され、新たな意思決定の素材となります。このような循環があるからこそ、組織は学習し、調整し、存続することができるのです。
情報処理システムとしての組織では、図の情報システム、すなわちICTによる情報処理システムの発展に着目しながら、人と技術がシステミックに結びついた組織の解明に努めます。つまり、人間系の情報処理機能とICTの情報処理機能との相互作用や相乗効果のメカニズムにも目を向けるわけです。組織の生存可能性や適応能力は、現場の運営、調整、統制、適応、方針形成が情報によって結ばれているかどうかに大きく左右されます。
【キーワード】
オープンシステム、境界、目標追求システムモデル、意思決定機能、選択レベル、適応レベル、自己組織化レベル、業務プロセス、決定変数、非制御変数、フィードバック、ICTベースの情報システム
