ーーーー講義録始めーーーー
さて、残り時間が少なくなってきましたが、ここで時間の許す限り、アルコール以外の依存症についても少し触れておきましょう。
まず取り上げるのは覚醒剤です。これは、特に我が国(日本)において長年大きな社会問題となってきた違法薬物依存の代表格といえます。
実際に日本国内で問題となっているのは、メタンフェタミン(Methamphetamine)という物質であり、商品名としてはかつて「ヒロポン」(Philopon)という名称で流通していたこともあります。このメタンフェタミンを中心とする化学物質群が、いわゆる「覚醒剤」の実体です。
覚醒剤は、その名称の通り、中枢神経系に対して興奮作用を持つ薬物であり、これはアルコールの抑制的作用とは正反対の性質を持っています。注射や経鼻吸引などの方法で使用されると、強い精神刺激作用が即座に現れます。
使用者は一時的に眠気や疲労感が消失し、多幸感や万能感を経験することが多く、「頭が冴える」「気分が高揚する」といった主観的効果が報告されています。また、性行為における快感の増強を訴えるケースも見られます。
こうした一連の快感に対しての心理的依存が、覚醒剤の最も特徴的で危険な点であり、このために、好奇心や軽い気持ちで手を出した人が、やがて使用をやめられなくなるという依存症への経過が多く報告されているのです。
一方、離脱症状や身体的依存については、アルコールほど明確で激しいものではないとされています。しかしながら、使用の中断に際しては、強い疲労感、虚脱感、不快な夢(悪夢)などが生じ、こうした不快感を避けるために再使用に至るという悪循環がしばしば見られます。
覚醒剤を反復使用していると、急速に耐性(tolerance)が形成され、次第に使用量が増えていきます。そして、やがては使用をコントロールできなくなる状態、すなわち依存状態へと移行します。
このように、覚醒剤使用の急性期には、「薬物によってもたらされる快感」に対しての心理的依存が主要な問題として顕在化します。初期の快感が強力であるがゆえに、その後の使用抑制が困難になるという点で、極めて強い依存性を持つ薬物と位置付けられています。
