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SDGsの進捗評価とは|HLPF・VNR・SDG Index・インパクト評価をわかりやすく解説 #放送大学講義録(持続可能な社会と生活第2回その7)

ーーーー講義録始めーーーー

 

SDGsの進捗評価と今後の課題

次に、SDGsの進捗の把握と評価についてお話しします。SDGsは、17の目標を掲げて終わりというものではありません。目標を掲げた以上、その達成に向けてどこまで進んでいるのか、どこで遅れているのか、何を改善すべきなのかを確認し続ける必要があります。つまり、SDGsにおいて評価とは、点数をつけて終わるためのものではなく、行動を見直し、次の改善につなげるための仕組みなのです。

SDGsの世界全体の進捗は、国連が毎年公表する「持続可能な開発目標報告書」、英語では “The Sustainable Development Goals Report” として示されています。最新版の国連「Sustainable Development Goals Report 2025」では、SDGターゲットのうち、順調または中程度の進捗を示しているものは35%にとどまるとされています。これは、残された多くのターゲットが進捗不足、停滞、あるいは後退の状態にあることを意味します。

そして、その進捗状況や課題について国際的に議論する場として、ハイレベル政治フォーラム、HLPF、つまり High-level Political Forum on Sustainable Development があります。ただし、HLPFを単純に「国連総会直下の組織体」と理解するのは少し不正確です。HLPFは毎年、経済社会理事会、すなわちECOSOCの下で開催され、4年に1度は国連総会の下で首脳級のSDGサミットとして開催されます。HLPFの公式サイトでも、2026年のHLPFはECOSOCの下で開催される一方、4年ごとのSDGサミットは国連総会の下で開催されると説明されています。

これまでのSDGsに関する世界全体での進捗状況は、残念ながら十分とは言えません。貧困、飢餓、格差、気候変動、生物多様性、平和、制度、資金など、SDGsの中核に関わる多くの領域で、期待通りの成果が得られていないという評価が出されています。とくに気候変動や生態系の劣化、国際的な格差、紛争、債務、食料不安などは、他の目標にも連鎖的な影響を及ぼします。したがって、SDGsの進捗評価を見るときには、単に「どの目標が何%進んだか」だけでなく、なぜ進まないのか、どの目標が他の目標の足を引っ張っているのか、どこに政策や資金を集中すべきなのかを考えることが大切です。

また国別のSDGsへの取り組み進捗の分析と評価については、SDSN、すなわち国連持続可能な開発ソリューション・ネットワークなどが公表する “Sustainable Development Report” と、その中のSDG Indexがあります。以前はベルテルスマン財団との協力によって広く知られてきた報告書であり、現在も各国のSDGs達成状況を比較する代表的な資料の一つです。SDG Indexは、各国の17目標全体に対する進捗を総合スコアとして示し、各国の順位を発表しています。2025年版では、フィンランドが1位、スウェーデンが2位、デンマークが3位であり、日本は19位となっています。

ただし、この国別ランキングは、あくまでも一つの参考資料です。順位だけを見て「日本は上位だから安心だ」と考えるのは危険です。国別ランキングは、各国の進捗を大きく比較するためには便利ですが、国内のどの分野に課題が残っているのか、どの地域やどの人々が取り残されているのか、どの政策が有効なのかまでは、順位だけではわかりません。むしろ大切なのは、ランキングの中身を丁寧に見て、弱い部分を把握し、改善につなげることです。SDGsの評価は、競争のためではなく、学びと改善のために使われるべきものなのです。

ハイレベル政治フォーラムでは、各国が自国の取り組み状況について報告し、国際社会の中で共有する「自発的国家レビュー」、VNR、すなわち Voluntary National Review という仕組みが導入されています。日本もVNRを提出しており、外務省は2025年版の「Voluntary National Review 2025 Report on the implementation of 2030 Agenda JAPAN」を公開しています。

ここでとても重要なのは、何のために評価し、レビューするのかということです。評価やレビューは、それ自体が目的なのではありません。評価した結果を、創意工夫と改善に役立てて初めて意味を持ちます。つまり、目標を設定し、取り組みを行い、進捗を測定し、結果を公表し、課題を見つけ、次の政策や事業に反映する。この評価と改善のサイクルを回し続けることが何よりも重要なのです。

なお、評価の対象となるのは政府だけではありません。国内のそれぞれの地域の文脈での取り組みも重要です。日本でも、内閣府の自治体SDGs推進のためのローカル指標検討ワーキンググループが、「地方創生SDGsローカル指標リスト」を公表しています。このローカル指標は、SDGs未来都市等の取り組みの推進状況を客観的に把握するためのもので、2019年版、2022年9月改定版が示されています。

地域におけるSDGs評価では、全国共通の指標だけでなく、地域の実情に合った見方が必要です。たとえば、人口減少が進む地域、観光地、工業都市、農山村、沿岸部、豪雪地帯、大都市圏では、同じSDGsであっても課題の現れ方が異なります。公共交通、医療、教育、防災、雇用、地域経済、再生可能エネルギー、空き家、里山、子育て支援など、それぞれの地域に応じた指標と評価の仕組みを持つことが重要です。

また企業が果たす役割が注目される中、実質的に意味のある取り組みをしていないのに、SDGsへの取り組みを強調し、アピールするだけではないかと批判されることがあります。これは、いわゆる「SDGsウォッシュ」と呼ばれる問題です。企業がSDGsのロゴや目標名を掲げていても、実際の事業活動が環境負荷を高めていたり、人権侵害や不公正な労働慣行を放置していたりすれば、SDGsに貢献しているとは言えません。そうならないためにも、企業においては、SDGsの取り組み成果や、社会にもたらしたインパクトに関する透明性の高い情報開示が求められています。

日本経団連は2021年6月15日に、「SDGsへの取組みの測定・評価に関する現状と課題~『行動の10年』を迎えて」と題した報告書を公表しました。この報告書では、国連などの国際組織、日本政府、地方自治体、企業など、各主体におけるSDGs達成に向けた取り組みの測定・評価について、主要な手法の目的、開発状況、課題などを体系的に整理しています。

経団連の報告書では、SDGs達成に向けた測定・評価の課題として、グローバル・政府レベルでは指標やデータ収集の改善、日本政府および地方自治体における進捗管理の改善などが挙げられています。また企業・事業レベルでは、SDGsからバックキャストした目標を中長期経営計画に統合すること、評価の目的や必要性を理解すること、評価結果を活用することなどが課題として示されています。さらに全般的な課題として、共通理解の促進、人材育成、インパクト測定・評価手法の研究やデータ蓄積、使いやすいツールの開発と利用などが挙げられています。

今後の取り組み成果の開示においては、どのような変化をどれだけ社会にもたらしたか、つまり「社会的インパクト」を測定・評価して開示することが強く望まれます。ここで重要なのは、活動量と成果を混同しないことです。たとえば、「講座を何回開いた」「寄付をいくら行った」「植樹を何本した」という情報は重要ですが、それだけでは社会にどのような変化が生まれたのかまではわかりません。必要なのは、その取り組みによって、誰の生活がどう改善したのか、環境負荷がどれだけ減ったのか、地域社会にどのような変化が起きたのかを考えることです。

その観点から見ると、進捗測定とインパクト評価についての現状は、まだ道半ばです。SDGsの達成のためには今後、使いやすい社会的インパクト評価手法の開発、評価に必要なデータの整備、評価を担う人材の育成、そしてインパクト評価の正しい理解と実践および活用の浸透が不可欠であるといえます。評価は企業や行政を縛るためだけのものではありません。よりよい取り組みを見つけ、資源を有効に使い、社会にとって本当に意味のある変化を生み出すための道具なのです。

今回はSDGsをめぐるお話をしてまいりました。第1回目の講義でお話しした、ある意味で抽象的・観念的な持続可能な発展の定義が、SDGsによって、このような世界共通の目標体系と取るべきアクションとして世界中で広く共有されるようになってきていることは、持続可能な発展に関する取り組みの歴史において実に画期的なことです。そしてこれまでは、環境や開発など持続可能な発展の専門家によって主に取り組まれてきたものが、SDGsの登場によって一気に裾野が広がり、専門家だけではなく、政府、自治体、企業、学校、市民社会、地域コミュニティ、そして個人にまで幅広く共有されるようになりました。

国内でも、一般市民のSDGs認知度は近年大きく上昇しました。ただし、認知度の数値は調査主体や調査方法によって異なるため、特定の数値を用いる場合には出典を明示する必要があります。たとえば電通の「SDGsに関する生活者調査」では、2021年1月実施の第4回調査でSDGs認知率は54.2%でしたが、2022年1月実施の第5回調査では86.0%に上昇しています。

しかし、認知度が上がるだけでは十分ではありません。SDGsという言葉を聞いたことがある人が増えることは大切ですが、それだけでは社会は変わりません。必要なのは、SDGsの正しい理解と、それに基づく意味のある行動です。特にSDGsが掲げる「トランスフォーメーション」、そして「誰一人取り残さない」という2つの理念を実現するためには、社会経済システムの大きな変革が必要であることを理解して取り組むことが最も重要です。なお、日本語表現としては、国連文書や外務省訳でも一般的に用いられる「誰一人取り残さない」に統一しておくとよいでしょう。

次回からは、これまでお話ししてきたことを前提として、環境や社会など持続可能な発展に取り組むうえでの具体的課題は何かについて、さらに掘り下げて考えていきたいと思います。SDGsは、単なるスローガンでも、ランキング競争でもありません。進捗を測り、課題を見つけ、改善を重ねながら、持続可能な社会へ近づいていくための共通の枠組みなのです。

 

SDGsの進捗評価と改善サイクル PNG