ーーーー講義録始めーーーー
依存症における脳のメカニズム
依存症における快感の背後にはドーパミンを中心とする報酬系の働きが関与しています。アルコールや薬物、ギャンブルなど依存症関連の行動では、側坐核などの報酬系でドーパミンが過剰に放出され、強い学習効果が形成されます。
この結果、脳は「またその行動をせよ」という強い欲求を学習し、意志の力だけでは抑制が困難になります。
※注意:「痴漢」などの性加害行為は、国際診断基準では依存症に含まれず、パラフィリア関連障害として位置づけられますが、同様に「やめたいのにやめられない」行動パターンを示すため、依存症との類似点が強調されます。
環境調整による治療
問題行動はしばしば特定の環境条件で生じます。たとえば痴漢は、多くの場合満員電車という状況に依存しています。
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通勤手段を変更する(マイカー・自転車通勤、職場近隣への引っ越しなど)
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混雑時間帯を避ける
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リスクの低い車両を選択する
このような環境調整は「やりたいがやってはいけない」という葛藤を回避し、リスク低減に寄与します。
遅延価値割引(Delay Discounting)
定義
遅延価値割引とは、将来の報酬の主観的価値が、時間の経過とともに双曲割引的に減少する心理現象です。これは動物を含む広範な種にみられる一般的な特性ですが、依存症の人では特に顕著に現れます。
具体例:競馬好きの男性
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平日:「今度の週末は家族と過ごそう」と考えている
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週末が近づき、競馬情報に触れると「今度だけは…」と価値が逆転し、家族よりギャンブルを優先してしまう
具体例:夏休みの宿題
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休み前:「早めに終わらせて遊ぶ」と計画
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実際には「今日はいいや」と繰り返し先延ばし、結果として最後に慌てる
価値の逆転への対処法
依存症治療では、この「価値の逆転」への対応が重要です。
予防的アプローチ
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引き金となる状況を避ける
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問題行動を選択する際のコストを増やす(利用を面倒にする等)
将来価値の向上
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「やめることの意味」を患者自身に書いてもらい、それをリマインダーとして持ち歩く
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将来の報酬や長期的価値を具体的にイメージさせる
