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長時間労働と労働時間規制の強化(人生100年時代の家族と法第7回)#放送大学講義録

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さて、均等法は性別に基づく差別的取り扱いをなくしていくことを目的とする法ですが、男性の処遇と女性の処遇が等しくなりさえすれば良いというわけではありません。すべての労働者が差別的な取り扱いを受けることなく、家庭生活との調和を図りながら労働市場で働き続けられるようにするためには、すべての労働者の働き方について検討する必要があります。

そこで、続いて2つ目のテーマである労働時間規制について見ていきたいと思います。

日本の労働者は長時間労働を強いられているとよく言われます。就業者の平均年間総実労働時間は、この図が示す通り、1980年代と比較すると大きく減少していますが、ヨーロッパ諸国と比較するとまだまだ長いことがわかります。また、いわゆる正社員の年間労働時間は依然として2000時間前後と言われています。

また、日本では男女間で時間の使い方に大きな相違があることも確認できます。この図は、生活時間がどのように使われているかを男女別に示すものですが、特に日本では男性の有償労働時間(水色で示されている部分)が非常に長く、家事などの家庭内での無償労働(青色で示されている部分)が圧倒的に少ないことが確認できます。

結果として、無償労働の多くは女性により担われることとなっているわけですが、時間の使い方の男女差が大きいことは、諸外国、とりわけ欧米諸国と比較すると一目瞭然です。均等法で性別に基づく差別が禁止されていますが、このように大きな男女差が残っている背景の一つには、日本の労働市場で求められる働き方、例えば残業が当たり前というような文化があると言えます。

労働時間に関してはこのような状況が見られますが、長時間労働は、仕事と生活の調和に影響を与えるだけでなく、健康にも重大な影響を与えます。ですから、長時間労働に対する規制が求められることになりますが、2018年に行われた働き方改革では、まさに長時間労働の防止の観点から、労働時間に対する規制の強化が行われました。

どのようなことが行われたのかと言いますと、まず、時間外労働は、原則として1ヶ月につき45時間、1年につき360時間の限度時間以内にしなければならないという規制が加えられました。また、時間外労働と休日労働の合計も、1ヶ月100時間未満かつ複数月ごとの1ヶ月平均を80時間以内にしなければならないとされました。こうした上限を守らない場合には、罰則も科されます。

労働時間に罰則付きで上限が付されたのは初めてのことで、各企業において働き方の見直しを行うことが求められています。加えて、勤務間インターバル制度を設けることも企業の努力義務として定められました。これは、終業時刻と始業時刻の間を少なくとも11時間空けるべきであるとするEUの労働時間指令がモデルとなったものです。勤務終了後に一定時間以上の休息時間を設けることで、労働者の生活時間や睡眠時間を確保することがこの仕組みの目的です。

このように、近年、労働時間規制の強化が行われています。ただ、労働者が育児や介護の責任を負っている場合には、より一層の配慮が必要です。これに関しては、育児・介護休業法が事業主に対してさまざまな義務を課しています。例えば、事業主は、3歳未満の子どもを養育している労働者を対象として、短時間勤務制度を設けたり、所定時間外労働を免除する仕組みを設けたりしなければなりません。

また、小学校就学前の子どもを養育している労働者については、時間外労働や深夜業の免除を認めなければならないとされています。短時間勤務制度の利用や所定時間外労働の免除、時間外労働や深夜業の免除は、家族を介護する労働者についても認められています。そして、これらの仕組みの利用等を理由とした不利益取り扱いも禁止されています。