F-nameのブログ

はてなダイアリーから移行し、更に独自ドメイン化しました。

効率公正モデルの限界と不確実性社会的規制モデル:格差問題へのアプローチ、パレート改善と共有資本の重要性 (「効率-公正」モデルから「不確実性-社会的規制」モデルへ(2))(経済政策第1回その2)♯放送大学講義録

格差の問題は今現在で深刻なものになっていると思う。

 

------講義録始め-----

 

それでは、まず効率公正モデルと格差の問題との関連についてお伺いします。私も先生と同じく、効率公正モデルでは格差の是正について不十分な対応しかできないと考えています。テキストの12ページにあるように、パレート改善はスタートラインからの改善を意味し、強い意味でのパレートの場合、少なくとも1人の改善を意味しますが、必ずしも格差の解消を意味しません。また、スタートラインの不平等については全く問題にしません。その正義については政治判断に委ねられます。そこでお伺いしたいのは、先生が提唱する不確実性社会的規制モデルではこの格差の問題にどう向き合うのかです。特に、不確実性社会的規制モデルは、効率公正モデルが歌詞の問題として政治の判断に委ねてしまう部分にどこまで、そしてどのように切り込むのかについて教えてください。

ありがとうございます。今、価値の問題とおっしゃったんですが、これは市場で人々が活動するよりも前、つまり事前と呼ぶことができます。そして、格差が出てからどう修正するか、という2つの大きな問題に分かれると思います。

不確実性があり、そこで企業が活動して利益を得ている資本主義社会において、よほど大きな格差でない限り、事後的な再分配には積極的ではありません。公に再分配することは、理由がある場合だけに限るべきだと考えています。しかし一方で、スタートラインの不平等は事前の問題です。日本では、事が起きる前の格差が広がっていると感じています。

スタートラインとは、市場経済の中で人々が不確実性に対処するための能力です。私が共有資本と呼んでいるものですが、一部の人だけが情報やノウハウを多く持っていて、他の人はほとんど持っていません。ノウハウがないと、市場で競争するのは困難です。

日本では近代に入り、公教育で読み書きそろばんを共有資本として教えてきました。これは寺小屋から始まり、明治代に一般的に教えられるようになりました。これは大きな成果を上げたと思います。

しかし、市場の中でどう位置を取るか、例えばお店を開く場合に駅前がいいのか、家賃の高い駅前を選ぶべきか、といった問題が常にあります。これも一種のノウハウです。

企業にとっては、大学で経済学を学ぶよりも、各企業のノウハウに触れることが重要です。インターンなどを通じて学生が直接企業のノウハウに触れることを望んでいます。企業は、そのノウハウを使って学生が市場でどのように働くかを見たいのです。

相当大きな不平等は、企業のノウハウを持っていない非正規雇用の人たちに存在します。これは共有資本の格差として広がっており、ある程度は公の方で調整する必要があると思います。学生にとっても、例えば予備校で学ぶノウハウが大学入試や就職活動に大きな差を生むことがあります。その格差は相当大きいと考えます。

ありがとうございます。今お話にあったノウハウや気付きが重要であるというのは、市場の不確実性に対処するための社会制度が必要であるという先生のお考えには私も賛成します。

「効率-公正」モデルから「不確実性-社会的規制」モデルへ(1)(経済政策第1回その2)♯放送大学講義録

印刷教材というのは講義の教科書のことである。Amazonにもリンクを貼った。

 

-----講義録始め------

 

今、井上先生からご紹介いただいたように、対話形式で話を進めていきたいと思います。それでは、まず井上先生から、印刷教材の第1章についての総括をお願いします。

それでは、総括します。経済学で主流の考え方は効率公正モデルです。これは、パレート最適な資源配分を基軸とし、それがうまくいかない部分を外部の公正な判断、つまり価値判断や政治的判断によって補完するというものです。

しかし、効率公正モデルは完全情報と競争を前提としているため、市場取引に関する有意義な説明が難しいです。その有意義性は、取引コストを減らす社会的ルールによって支えられます。社会における不確実性の存在が、社会的ルールに基づく規制を必要とする点です。

効率公正モデルでは、この点を適切に説明できません。その結果、IMFがロシア経済にダメージを与えたり、日本のレジリエンスが低いままであるなどの問題が生じています。

そこで、松原先生は、これらの問題を克服するために不確実性社会的規制モデルを提唱しています。

続いて、私からもこの会について少し補足します。経済学の主流派では、理想状態、つまり完全競争の市場を前提としています。この理想状態では、参加者が多く、大きな影響力を持たないプライステイカーであり、情報が完全に行き渡っていると仮定されます。また、市場への参入障壁がないことも含まれます。

市場はこの条件下で完全に機能します。これには、需要と供給が事実として均衡し、均衡状態が規範的にも最適であるという2つの意味があります。しかし、実際には、不完全競争の状態が生じ、独占的な状況を防ぐために競争法が必要になります。

また、パレート最適でも、所得の独占や格差が問題になることがあります。市場の失敗、例えば外部性や公共財の場合は政府が介入します。最後に、景気調整のための政府の財政金融政策に関する対立もあります。

私がこのテキストで特に強調しているのは、市場が不確実性を前提にすると、うまく機能しないことがあるという点です。不確実性は、将来何が起きるか分からない状態を指します。例えば、自動車が日本に導入された当初は非常に不確実でした。

日本では昭和時代まで、毎年約1万6000人が交通事故で亡くなっていましたが、最近では3000人ほどです。2020年のコロナによる死亡者数が3500人ほどであることを考えると、自動車のリスクは社会学的にかなり把握されてきています。

不確実性の追求は恐ろしいものですが、共有資本があり、それに基づいて不確実性を飼いならすべきだと考えます。うまくいかなければ社会的な規制が必要です。市場経済は、近代に入ってからこのような形で広がってきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロールズを読む

ロールズを読む

Amazon

 

授業の新たな形式:ゲスト先生との対話(経済政策第1回その1)♯放送大学講義録

今回はイントロの部分である。

 

------講義録始め-------

 

私は主任講師の松原隆一郎です。今回は「効率公正モデルから不確実性社会的規制モデル」というタイトルでお話しします。

この一連の講義では、従来の一方的な説明スタイルをやめ、視聴者が事前にテキストを読んでいるという前提で、5人のゲスト先生方との全15回にわたる対話形式の授業に変更します。

井上先生は東京大学教養学部に所属しています。ちなみに、それは私が以前勤めていた学校でもあります。

井上先生は政治哲学を専門としており、私が初めてお会いした時には政治思想に取り組んでいました。特にジョン・ロールズという政治哲学者の研究を深く追究し、そこから政治思想全般にわたる広範な活動を展開されています。現在、日本で最も活発に活動されている先生の一人です。

 

 

 

 

 

ロールズを読む

ロールズを読む

Amazon

 

 

 

 

 

研究における倫理的配慮(ヘルスリサーチの方法論第12回)(4)#放送大学講義録

様々な側面があることが理解できる。

 

研究における倫理的配慮(ヘルスリサーチの方法論第12回) - F-nameのブログ

 

-----講義録始め-----

 

一般的な倫理原則と社会の動き: 生命倫理は、ヘルスリサーチやその他の科学分野において重要な役割を果たしており、これらの分野はしばしば学際的に関わり合っています。倫理原則には以下のような要素が含まれます:

  1. 自己決定の尊重: 個人の自己決定権を尊重し、被験者や研究参加者が自分自身に関する決定を自由に行えるようにすること。

  2. 危害の最小限化: 研究によって生じうる危害を最小限に抑え、可能な限り安全を確保すること。

  3. 弱い立場にある集団への配慮: 社会的に弱い立場にある集団や個人に特別な配慮を行い、彼らを不当に脅かすことがないようにすること。

  4. 研究からの利益の明確化: 研究がもたらす利益を明確にし、特に研究者自身の利益ではなく、より広い社会的な利益を示すこと。

  5. 社会的活動としての科学: 科学は社会的な活動であり、その方法は科学的に適切であるべきで、社会全体に利益をもたらすことを目指すべきです。

これらの原則は、研究活動が倫理的に行われるためのガイドラインとして機能し、研究が社会に対して責任を持ち、倫理的な観点から行われることを保証します。

 

 

 

研究における倫理的配慮(ヘルスリサーチの方法論第12回)(3)#放送大学講義録

プライバシーの保護も欠かせないものになっている。

 

blog.kaname-fujita.work

 

-----講義録始め-----

 

プライバシーと守秘義務: 1907年の刑法以来、医療者、法実務者、宗教者などは患者やクライアントの情報に関して守秘義務を負っています。この義務は、患者の権利を侵害せずに尊重することを要求しています。しかし、守秘義務に対する権利は当初は明確ではありませんでした。

プライバシー権の発展: プライバシー権は、1964年の三島由紀夫の「宴のあと」事件に関連する判例を通じて、憲法13条に基づいて進化しました。これにより、個人の私的な領域を他人にみだりに知られない権利が認められ、機密を守る義務が強調されました。

情報技術の影響と個人情報保護法: 情報技術の世界的普及と大量の情報流通、インターネットの拡大に伴い、2005年には個人情報保護法が施行されました。これは5000人以上のデータを取り扱う場合に適用され、学術機関は対象外とされ、倫理指針に委ねられることとなりました。OECDは80年代に8原則を定め、個人の秘密を守り、データの主体が個人であること、そして自分の情報の利用をコントロールする権利を確立しました。

インフォームド・コンセントとデータの匿名化: 研究参加者には、研究内容を説明し、同意を得るプロセスであるインフォームド・コンセントが必要です。また、個人情報を保護するためには、データと個人情報を分ける方法、例えば連結可能匿名化や連結不可能匿名化の技術が使用されることがあります。これらは、個人のプライバシーを保護するための重要な手段です。

 

 

 

 
 
 

研究における倫理的配慮(ヘルスリサーチの方法論第12回)(2)#放送大学講義録

インフォームドコンセント無き医療は例外的なものになっている。

 

blog.kaname-fujita.work

 

-----講義録始め-----

 

インフォームド・コンセントの原則: インフォームド・コンセントは、医学研究において被験者に十分な情報を提供し、その上で自らの意思で参加するかどうかを決定させる重要なプロセスです。これは1947年のニュルンベルク綱領に起源を持ち、国際軍事法廷においてジェノサイドや人道に対する罪、人体実験を裁く際の基準とされました。この綱領は、実験が法律と倫理に違反しないようにするため、被験者の同意を必要とし、その前に研究者による詳細な説明が求められました。

歴史的背景: この原則は、第二次世界大戦中に陸軍が満州で行った人体実験(例えば、731部隊)などの歴史的事例に基づいています。これらの実験はインフォ東京裁判では訴追されず、後に外部からの圧力により、医療過誤の問題から法理として形成されました。被験者と患者の権利を保護する原理の形成は、社会の要請に応えるものでした。

医師による自主的な倫理指針: ニュルンベルク綱領に続いて、医師の専門職集団は、自律的な組織としてヘルシンキ宣言を発表しました。これは医師の専門性と高度な技術から導き出される利益と害を考慮に入れ、高い倫理性を持って医の専門職が自ら倫理綱領を設けることを意味しています。リスボン宣言も同様の目的を持ちます。

インフォームド・コンセントの具体的なプロセス: インフォームド・コンセントにおいては、被験者に充分な説明と理解、自由な意思決定が求められ、多くの場合、書面での同意が必要です。被験者集団の判断能力を考慮し、研究参加による利益と不利益を明確にし、参加については自由意志を尊重します。研究を妨害しない義務があるものの、被験者は自由に自発的に参加する権利を持ちます。依存した関係がある場合には、特に注意が必要です。

 

 

 

研究における倫理的配慮(ヘルスリサーチの方法論第12回)(1)#放送大学講義録

ヘルスリサーチにしても人権からは逃れられない。

 

blog.kaname-fujita.work

 

-----講義録始め-----

 

ヘルスリサーチと研究倫理: ヘルスリサーチは直接人を対象とするため、研究に関わる個人の自覚が非常に重要です。研究倫理には、法律や学会の綱領などに基づいた指針が存在し、これらを遵守することが求められます。さらに、倫理的な判断を支援するために、審議機関や倫理委員会が設置されています。

尊厳と人権の重視: ヘルスリサーチにおいては、人の尊厳と人権を重視することが基本です。人が人に関わる研究であるため、各個人のかけがえのなさと人間としての尊厳を尊重することが不可欠です。また、人権には自由権や社会権が含まれ、共同体が個人を支える役割を担っています。これらの価値は、人類全体によって広く共有されていると考えられています。

これらの原則は、ヘルスリサーチにおいて人を対象とする際に、倫理的な観点から非常に重要な役割を果たしています。研究の各段階において、これらの原則を遵守することが、研究者には求められています。