一人世帯か核家族の世帯かが多くなっているので、それらへのサポートはますます大事なものになっている。
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次に、家族を対象にした研究の例を紹介します。核家族化の進展や地域的なつながりの脆弱化、プライバシーを重視した住居の作り方などにより、孤独な環境で育児を行う母親が増加しており、育児支援や虐待予防の観点から研究が行われています。また、父親の育児参加も関心が持たれています。最近では、予期せぬ妊娠の後に結婚あるいは非婚のまま子供を設ける割合も少なくなく、また、不況などによる低賃金や不安定雇用のために経済的なゆとりのない世帯で、母子手帳の交付を受けず、妊娠中の定期健康診断を受けず、出産の兆候が出て初めて受診する飛び込み出産の例が増えています。その一方、新生児医療は高度化し、出生時の体重が500グラムでも生存する例が増えています。子供の命が保たれても、小さく生まれた子供は保育器に入るために母子分離の期間が長くなり、母子の愛着形成がされにくいなど、育児の困難さも付加されます。また、虐待は、日本では母親が加害者の主流であることも特徴であり、身体的虐待以上にネグレクトが多いのが特徴です。子供にとって健全で安全な養育環境や愛着をもって育てられるような支援に関する研究ニーズが高くなっています。
日本においては、介護は家族が行うことを中心にしてきており、今もその傾向は続いていますが、介護の担い手は女性が中心であった時代から多様化が進んでいます。1984年の国民生活基礎調査では、同居家族介護者は息子の妻が34.4パーセントと最も高く、家族介護者における男性介護者の割合は全体の1割程度でしかありませんでした。しかし、2010年の同じ調査においては、男性の割合は30.6パーセントと25年の間に3倍に増加し、さらには配偶者が息子の妻の23.7パーセントを上回り、4割を占めるようになっています。男性高齢介護者は、夫介護者の増加に伴って今後さらに増加していく可能性が高いと予測されています。今世紀に入る前の高齢者介護に関する研究は、女性介護者を中心にして分析されてきました。男性がここに含まれていなかったのは、その数が少ないために分析できなかったことが多くなっていました。しかし、近年問題視されている高齢者虐待や介護心中、介護殺人には男性介護者の関与が強く報告されています。特に、刑事事件となったものでは、老夫婦間で起こったものが8割以上で、そのうち夫が加害者となっている場合が7割を超えていることが報告されています。2000年には介護保険が施行され、在宅介護の推進とともに社会的介護という理念が提唱されました。しかし、高齢者虐待の背後にある介護負担はまだまだ改善されていません。移動や人工呼吸器など、在宅での医療技術の進歩や普及によって障害を持つ高齢者の寿命も伸びており、もはや介護は終わりのない永遠の使命となっています。介護者が高齢化し、介護に従事する期間が長くなればなるほど、介護者にとっての人生もまた十分に考慮される必要があります。今後も高齢者の数は増え続ける日本において、在宅介護のあり方は学問横断的に探究されていくべき必要の高い研究テーマです。