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業務命令権の根拠と制約を解説し、労働契約と就業規則の役割、最高裁判決を通じて業務命令の適法性を考察。(雇用社会と法第4回)#放送大学講義録

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では、ここで業務命令の問題について考えていきましょう。

業務命令権の根拠は労働契約に求められます。業務命令の根拠は就業規則にも規定されることがありますが、その就業規則によって労働契約の内容が形成され、根拠付けられるということになります。就業規則の内容が合理的なものであれば、それは労働契約の内容に取り込まれて業務命令権の根拠となります。

しかし、業務命令権にも制約があります。それが以下に列挙してある事項です。まず、労働契約に予定されていない範囲を超える労働は命じることができません。例えば、職種が契約上限定されている場合、その契約を超えた職務について命じることはできないということになります。また、生命身体に危険を及ぼすような業務命令、違法行為や法令に反する労働も命じることはできません。労働者の人格権を不当に侵害するような労働も命じることはできません。そこで、業務命令の限界について、もう少し具体的な事案に沿って見ていきましょう。

業務命令の適法性が争われた事例としては、国鉄鹿児島自動車営業所事件、最高裁平成5年6月11日判決があります。この事案は、鉄道会社が駅員に対して火山灰の除去作業に従事することを命じたものです。火山灰の除去作業を1人で、炎天下の8月の間、広範囲にわたって命じられたことで、身体的、精神的苦痛を伴う違法な業務命令であるとして、労働者側は訴訟を起こしました。一審及び控訴審は労働者側の請求を認めましたが、最高裁は現判決破棄自判として、使用者側を勝たせました。そこでは、火山灰除去作業が社会通念上相当な程度を超える過酷な業務に当たるものと言えず、労働契約上の義務の範囲内に含まれると判断し、職場規律の観点からやむを得ない措置であるとして、違法とは言えないと判断しました。この事案には、労働組合運動の背景があり、その事情が影響しているとの評価もあります。

しかし、現在では、いじめやハラスメントが問題になっています。こうした業務命令が許されるかどうかは、慎重に検討する必要があります。